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縫製職人2

「あら…、貴方たちが?」


 ジゼルに案内してもらった工房には、親方であるジョゼットと数人の弟子たちがいた。彼女はひどく大柄で、それこそリュシアンは山でも見上げるような気分だった。冒険者の屈強な戦士と並んでも引けは取らないかもしれない。

 ただ、そこかしこに並ぶ商品は、繊細の一言だった。ひと縫いひと縫いが丁寧で、歪みの一つもなく、おまけにデザインも多彩である。可愛いものもあれば、機能性を重視したスマートなものもある。

 ちなみに、彼女はカバンはもちろん、革や布製の鎧、ローブ、マントなどの防具も、依頼があればだいたいは熟してしまうという凄腕である。


「初めまして、リュシアン・オービニュです。フリーバッグの縫製を依頼したいのですが」

「こちらこそよろしく、ジョゼットよ。話は会長から聞いているわ。でも、フリーバッグは魔力錬金が必要なので、材料の錬金加工は他所で済ませてもらわないと困るわよ」


 そう、ジョゼットは縫製は一流だが、魔力をほとんど持っていなかった。獣人と人間のハーフだそうだ。魔力を授かる魔法因子は劣勢遺伝子らしく、獣人やドワーフなど魔力を持たない種族とのハーフは、例外はあるが、ほぼ確実に魔力を失うことになる。その昔、人間やエルフの営む国では、獣人との婚姻を禁止していたこともあったという。


「大丈夫です、事前に魔力が必要な錬金は済ませてきました」


 キラーアントの羽根はもちろんのこと、バッグの表に使う革も加工を済ませてきた。ダンジョンで倒した小型の竜種ツノドラゴンの革。翼を持たないトカゲのような姿で長いツノが特徴である。色も深い赤茶でマットな風合いがシブく、革の厚みも丁度良かった。それを調合と錬金で作った鞣し剤で、きちんと処理してきた。


「あら、見事な手腕ね。これを貴方が?」

「はい、金具とかはお任せして大丈夫ですか」


 リュシアンは、いわゆるヒップバッグのようなものを作ってもらおうと考えていた。チョークバッグのようなブラブラするのは邪魔になるし、ナイフを扱うにしろ巻物を使うにしろ、後ろならそれほど邪魔にならない。

 ましてやフリーバッグは、念じたものを掴みだせるという便利な機能を持つので、ごそごそ目視で探す必要がなく、後ろでも不便はないだろう。


「なるほどね…、いいわ。これだけの材料だもの、腕が鳴るわね」


 ジョゼットはリュシアンの説明を聞き、すぐに大まかな完成図を紙に書いた。あとはリュシアンの腰回り、身長などを測って、さらに書き込んでゆく。どうやら、ついでにベルトも新調してくれるらしい。

 ニーナは気に入ったマントがあったらしく、それを買い取ってサイズ調整を頼んでいた。アリスやエドガーの防具は金属にするか、革にするかまだ決めかねているらしい。

 リュシアンはおそらく布か革で作るつもりなので、いくつかの毛皮と、羊に似た魔獣の毛束を見繕ってジョゼットに預けた。流石に糸を紡いだり、毛皮の処理は出来なかったので、専門家に任せたのである。


「……これもまた、信じられないような素材ね。いやいや、いいよ。むしろ、こっちがいい勉強をさせてもらってるようなものだもの、詮索はしないわ」


 彼女にケモ耳はなかったが、フサフサのしっぽがあった。まるでキツネのような大きなしっぽが、機嫌良さそうに左右にふさふさと揺れていた。


「そうね、全部合わせて一週間ほどちょうだい」

お読みくださりありがとうございました。

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