アリス一家
休暇も残り数日となったある日、リュシアン達は街に繰り出した。
アリスの家に赴くためだ。
と言っても、本当の屋敷はドリスタンの城下町にある。この学園都市内には、いわゆる別邸があるのだ。今回初めて知ったことだが、アリスは寮生ではなく、この別邸から通ってきている。里帰りした時は、城下町のお屋敷の方に帰ったのである。
今は休暇中なので本来は学園に通わなくてもよいのだが、ニーナやリュシアンたちに会いたくて足繁く通っているというわけだった。
「いつもならパパは城下町の方にいるんだけど、今は仕事でこっちにいるのよ」
アリスの父は、幅広く商売をしている。宿屋、飲食店、学生向けの武具、道具を扱う店。そのほかにも貿易、通信(郵便みたいなもの)など、その事業は多岐にわたる。おそらくドリスタン王国の中でも指折りの大富豪だろう。
アリスは一番末の娘で、上に二人の兄と、五人の姉がいる。上の姉三人はすでに嫁いでおり、あとの二人の姉は、一人は商業ギルドに派遣され、もう一人は冒険者ギルドで秘書をしているらしい。
また下の兄は、まだ学園に在籍中だという。今年十六才で教養科Ⅵ。順調にいけば、今年度で教養科を卒業できるとのことだ。
そこでふいに言葉を切ったアリスを、リュシアンたちは不思議そうに顧みた。
…ん?あれ、そういえば上の兄は。
「上のバカ兄貴は、俺は冒険者になるんだーって、家を飛び出しちゃってね」
アリスは、どこか茶化した口調でそう答えた。
それまでは父親に従順な、後継ぎとして優秀な息子だったらしい。それが学園に在籍中のある日、突然フラッといなくなってしまったのだ。失踪の数年前に教養科Ⅵは終えているので、この場合は中退扱いにはならず、身分としては教養科修了ということになる。
実のところ、教養科を終えた年にも一悶着あったという。帰ってこいという父と、まだ在学したいという兄で揉めたというのだ。アリスはその頃、まだ学園に在籍してなかったので、兄が何をやっていたのかは知らないが、今はもうどこにいるのかすらわからず、父親も諦めているらしい。
「へえ、じゃ後継ぎは次男ってことか」
「そうかもね、でもパパもまだ元気だし、あまりうるさく言うのはやめたみたい」
長男にそっぽ向かれたのが何気にショックだったらしいわ、とちょっと気の毒そうに苦笑した。
「いいのよ、いざとなったら私が優秀な婿を貰えば済むことだしね」
あっけらかんとそう言って、にっこり笑った。
本当にそう思っているのか、先頭を歩くアリスの表情に一欠けらの屈託もない。
アリスは逞しいよね、今回の戦利品だって彼女が動かなきゃ手に入らなかった訳だし……
かくいうリュシアンも、思いがけずフリーバッグの材料を手に入れらたことを素直に喜んでいた。あんな命懸けの場面でアイテム拾っちゃうなんて、ほんと肝が座ってるよ。
そうして街の商業ギルドからほど近い場所に、ひときわ大きな屋敷を仰いで、アリスが振り向いた。
「着いたわよ、ここが私の家」
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