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幕間ー地上へ

「エ、エルマン様?!えっ、本当に?」


 思わず船酔い(…ぽい)も忘れて、リュシアンは少女に向かい合った。


「な…で、こっちにいるん…大丈…なのか、まったくディリィは何やっ…んだ…チチ」

「エルマン様…?もしもーし」


 しかし一方通行のようだ。向こうの声は聞こえるのに、どうやらこちらの声は聞こえてないようである。ただ、リュシアン達が、どこかとんでもない所にいるらしいことは理解しているらしい。


「なに、どういうこと?あ、兄上なのか、おいっ」

「ちょ…、エドガー、乱暴にしないで」


 エルマンの声に気が付いて、エドガーが横から割って入ってきて、少女の肩を引き寄せるように掴んだ。


「…チチ…モリはちゃんと届いて…いや、それよりも早く、そこを出…」

「あ、兄上ッ!」


 しかし、それからはうんともすんとも言わなかった。少女はピタッと口を閉じ、いきなりクタクタと座り込む。リュシアンが支えると、顔を上げて何度かゆっくりと瞬きした。すると、驚いたことに瞳が薄い青へと変化したのだ。

 そして――


「わっ!?」


 ポンッと一瞬視界を奪われ、次の瞬間にはリュシアンの手の上に、例のきくらげに似た黒い物体がぺしょっとノビていた。それは、間違いなくあの時リュシアンに噛みついたアレであり、よくよく見ると確かにコウモリであった。

 岩にビタッと張り付いていたり、目にもとまらぬ速さで飛びかかってきたり、服の中に潜り込んで来たりと、まともに姿を見ることはなかったが、ここでようやく確認するに至った。


 きゅうっと目を回しているコウモリに、いまだに詰め寄るエドガーは放っておいて、とりあえずあれはエルマン殿下に間違いないだろう。届くとかなんとか言っていたのは、このコウモリのことだろうか?

 どういう仕組みか、または能力かわからないが、何らかの通信が出来る手段なのだろう。ステータスにも、人型になると特殊な能力がどうのというくだりがあったから、たぶんそれ関係かもしれない。

 どちらにしても、もともと幼生では人型にはなれないとあるし、通信が切れたのも、もしかしたら単にこの子の力が足りなかっただけかもしれない。


 そしてここは、或いはダンジョンの下層、というだけの場所ではない可能性がある、とリュシアンは考えた。前に声を聴いた時は、別の世界というか、異次元というか…、とにかくすごく遠くに相手の存在を感じたが、今回はずっと近くに居るような感覚だった。

 ふいにここが得体のしれない場所のような気がして、思わずゾッと身震いした。ここを出たら、なにかとんでもない場所だったりするのだろうか。

 いやいや、考え過ぎだろう。エルマン様も出ろと言っていたし。大丈夫。

 …あれ?そういえば、エルマン様といえば、誰か知らない名前を口にしていたよね。

 ディリィって、誰?


 




 魔法陣がぼんやりと闇を照らす空白地帯の物陰に、二つの影があった。

 もちろんマッピングによって、リュシアンは付近の魔力反応を把握してはいたが、自分たち以外の反応はすべて魔物や遺物だと思っていたので、密かに後をつけてきた二つの魔力反応には特に留意していなかった。構っていられなかった、というのが本音かもしれない。

 今まさに、ワイワイとさんざめきながら少年少女たちが、魔法陣に飛び込んでいった。思わず影の一つが、たまらず足を踏み出しそうになったが、すぐに思い直したように再び身を潜める。

 気配が動いたのに気が付いたのか、一人の少年がこちらを振り向いたが、すぐに皆に続いて魔法陣に飛び込んだ。最後の一人が飛び込むと、あたりは一気に温度を下げたようにシンと静まりかえった。


 ほどなくして、コツコツと硬い靴音と、獣の蹄のような足音が静謐な空間にゆっくりと響いた。その二つの影は、揃って魔法陣に向かって歩いて行き、ぼんやりと辺りを照らすその光によって、人と、獣の姿を闇に浮かび上がらせた。

 腰まで伸びた艶やかな銀髪に碧色の優し気な瞳をした女と、輝く鱗を身に纏わせ、馬のような蹄をもつ不思議な獣の姿がそこにはあった。


「大きくなったわね、私の可愛いぼうや」

お読みくださりありがとうございました。

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