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ニーナとアリス

「か、勘違いしないでね。あれは私の考えじゃなくて、お父様にそう教わって、仕方なく……」


 ニーナはバツが悪いのか、聞かれもしない言い訳を始めた。父親であるドリスタン国王に会った際、友人として訪ねるにしても、最低限の礼儀を持って向かわねば失礼になる、と丸め込まれてとっておきのドレスを用意されたのという。仮にも王族が伯爵家を訪ねるのだから、これくらいの装いはごく普通だと太鼓判を押したのだ。

 リュシアンは、ついつい自国の王様に重ねてしまった。

 この世界の王様は、子供にはた迷惑ないたずらをして楽しむのが流行しているのだろうか。ともかく、ドリスタンの王様には会いたくないと直感で思った。理由は一つ、疲れそうだから。

 格式を重んじる家はあるかもしれないが、オービニュ領は片田舎にある伯爵家だし、そんな恰好してる人なんて晩餐会でしか見たことない。

 ニーナの様子を窺うと、ふるふると震えつつ「あんのチョビヒゲめ」と、小さく呟いていた。


「まさか、あのいでたちでここまで旅をしてきたわけじゃないよね?」


 町中ならともかく、ここまでの道すがらあの馬車で来たとしたら盗賊たちの恰好の獲物なのだ。

 ニーナ達には部屋を用意して、すでに衣装を着替えてもらっていた。普段着も用意してあったらしく、そちらに着替えてもらって、今は改めて客間にて寛いている。


「もちろんよ、そこまで世間知らずじゃないわ。ちゃんと信用のおける冒険者に護衛を頼んで、目立たないようにこの町まで来たのよ。そこであの馬車を借りて、持ってきたドレスに着替えたのよ」


 そういえば、とニーナはそこで思い出したように憎々しい表情に変わる。


「ここの商業ギルド、どうなってるの? 失礼極まりない男がいたんだけど!」


 リュシアンは、商業ギルドというワードと、失礼、を足してある人物を即座に思い浮かべた。


「ああ、爪楊枝みたいにひょろっとした人?」

「そうそう、顔色の悪い人! 人を品定めするようにじろじろ見たあげく、乞食ならよそでやれ……、ですって」


 あったま来ちゃう! と、ニーナとアリスはひどくご立腹だ。

 彼女たちの怒りはもっともだ。相手が誰であれ、お客にそういう態度はない。リュシアンにコテンパンにされたというのに、いまだに懲りずに失礼な接客を続けているらしい。

 ニーナは一般人と変わらない恰好だっただろうし、数週間におよぶ旅で薄汚れていただろう。とはいえ、立ち居振る舞いや、普段から手入れが出来ないと無理だろう長い髪を見て、何も感じないのだろうか。

 結局、ニーナたちの相手はその後出てきたギルドマスターが引き継いだというが、今度こそ本当にクビ案件かもしれない。なにしろ相手は友好国のお姫様だったのだから。

 例によって奥で身支度をして出てきたニーナ達に、セザールは文字通り腰を抜かしていたらしいけど、本当に懲りない人っているものだと、リュシアンは呆れるしかなかった。

(まあ、あんな格好で出てきたら誰でもびっくりするかもだけど……)




「初めまして、お父様、お母様。ニーナ・リュド・ドリスタンです」


 普段着のスカートをまるでドレスのようにつまんで、ニーナは小さくお辞儀をした。それでも、お姫様としてはひどく質素な挨拶だった。ここでは学園と同じように接してほしいとの意思表示だろう。リュシアンの両親もそれを受けて、息子の友人として歓迎した。


「ようこそ、ニーナ様。どうかごゆっくりお過ごしくださいね」


 家族を軽く紹介したエヴァリストに続いて、アナスタジアがそう締めくくった。

(お父様、お母様って……)

 ニーナの挨拶にリュシアンは面食らったが、親しみを込めてそう呼んだのだと納得したのか何も言わずにチラッと目配せを送っただけだった。アリスも同じように思ったのか、ちょっと困ったように、少し迷ったようにそのあとに続いた。


「は、初めまして、アリス・エキューデです。お世話になります」


 こちらは普通に会釈をして笑顔を見せた。

 こうして夕食の直前、食堂にてリュシアンはようやく二人を紹介することが出来た。到着してすぐのあの格好のままで、対面させるのはちょっと気が引けたからだ。


「それにしても、可愛らしいお嬢さんたちだこと。リュクったら隅に置けないわね、たった一年でこんな可愛いガールフレンドを二人も連れてくるなんて」

「ちょっ……! ちがっ、違います。彼女たちは、仲の良いクラスメイトです」


 食事を始めてしばらくして、やがて打ち解けた会話が弾んで来るとアナスタジアはいきなりそんなことを言ってリュシアンを困らせた。咽そうになりながら慌てて首を振ったリュシアンだったが、ニーナとアリスはちょっとだけ面白くなさそうな顔をしていた。


「……どうやら学園生活を満喫しているようで安心した」


 そんなやり取りを笑って見ていたエヴァリストは、穏やかな顔でリュシアンの肩に手を置いた。


「はい、父様。彼女たちを含め、いい友人たちに恵まれ楽しんでます。学ぶことも多く、充実した毎日です」

「そうか、それはよかった」


 本心からの息子の台詞に、エヴァリストそれは嬉しそうに頷いて、ポンポンと肩を軽く叩いた。

お読みくださりありがとうございました。

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[一言] 「彼女たちの怒りはもっともだ。相手が誰であれ、お客にそういう態度はない。リュシアンにコテンパンにされたというのに、いまだに懲りずに失礼な接客を続けているらしい。」 あれから一年以上過ぎている…
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