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帰路

 結局、船に乗っている間は船酔いということにして食事は一切取らなかった。水も自ら魔法で出した物しか口にしてない。

 あの時、たくさんの目撃者によってボーイが海に落ちたのを見たが、厨房では誰もいなくなっていないということで大騒ぎになった。その男は、この船の関係者ではなかったということだ。あの後、事件の糸を引いていた人物にかくまわれたか、それとも海に落ちてそのままとなったのか、確かめる術はなかった。

 犯人も捕まらず、証拠もない。実際には、あれが本当にリュシアンを狙ったもので、イザベラの手の者かどうかもわからず仕舞いなのだ。


「どうした? まだ気持ち悪いか?」

「ううん、何でもないよ。せっかくだから、何か食べよう」


 朝市なのに、相変わらずすごいボリュームの骨付き肉とかが普通に置いてあったりして、見ているだけで胃がもたれてくる。なにしろすきっ腹で、しかも気分は依然低空飛行だ。

 エドガーは、丸い饅頭生地のようなものに、削いだ肉をどっさり挟んだものを選んだ。いかにも美味しそうな匂いを漂わせているが、今の胃袋にはちょっと重そうだ。

 リュシアンは、同じ店の肉と野菜が入ったスープのようなものを選んだ。


「そんなんで足りるか? 昨日も食べてないのに」

「いきなりガッツリは無理だよ、どちらにしてもいつも朝はこれくらいだし」


 それだから小さいん……と言いかけた口に、リュシアンは受け取った肉まんじゅうを遠慮なく突っ込んだ。もがもが慌てるエドガーを無視して、リュシアンは、続けて店員が差し出したスープを受け取って、空いてる席にさっさと座った。

 お茶は、セルフサービスのようである。なんだかデパートのフードコートのような感じだ。いくつかの店が、一つの広場に合同でテーブルや椅子を出して、どこでも座っていもいいというスタイルである。

 饅頭を銜えたまま、エドガーが鉄瓶にたっぷり入ったお茶を、コップに入れて二人分持ってきた。

 ほいっ、と手渡ししてくるお茶を、リュシアンは何とも言えない気持ちで受け取った。濁った緑の液体が、コップの中で微かに揺れていた。

(――まだ、心がザワついている証拠だな)

 学園にいた時は揺るぎない信頼を傾けていたエドガーに、一瞬でも躊躇いのようなものを感じてしまった自分が許せなくなる。

 エドガーと目を合わすと、大きな肉まんじゅうをあっという間に平らげて、持ってきたそのお茶をなんの頓着もなく煽っていた。その目がはよ喰え、と言っているようで思わず苦笑してスープに匙を突っ込んだ。


※※※



「結構、うまかったな。肉がちょい硬かったけど」


 肉まんじゅうをもう一つ追加でぺろりと食べたエドガーは、満足げにお腹を撫でていた。リュシアンもスープを完食し、もちろんお茶も残らず飲んだ。

 そして今は、ぶらぶらと軒を並べる店などを眺めながら歩いている。オービニュ伯爵領までは商業ギルドで手配した貸し切り馬車での旅になる。

 数日間の旅の準備や、軽食などをここで買い揃えてお昼過ぎに出発しようということになった。

お読みくださりありがとうございました。

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