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港町

「……はい」


 姿は見せなかったが、ゾラの返事だけが返ってきた。

 こんな狭い部屋の中のどこにかくれてるんだろうか? リュシアンは、思わず辺りを探るように見回したが、本当にどこにいるかわからない。スキルか何かなのだろうか。


「前から気になっていたんだけど、エドガーには隠密ついてないの?」


 探すのを諦めて、リュシアンはコップと巻物を一つ取り出す。

 広げた巻物に書かれていたのは、例の瓢箪型の魔法陣だ。自分で生み出した物ながら、このオリジナル魔法陣は本当に便利だ。これなら巻物が一つで済むから、巻物を作り置きするのも簡単である。

 リュシアンは、コップになみなみと水をついで一気に飲み干した。


「……基本的に国王陛下と、王太子殿下にのみ隠密が付きます。他の王族の方々には、護衛は付いても隠密はついておりません」

「あれ、そうなの? じゃ、僕は……」

「リュシアン殿下の場合は、暗殺の恐れがあったため、国王の隠密の一人だった私がこちらに派遣された形で、そのまま……」


 なるほど、それで先日の件で異例の専属になった、と。リュシアンの護衛として隠密が付いたこと自体が、もともとイレギュラーだったというわけだ。


「今回のことは、私の失態です。申し訳ありませんでした」

「いや…、まあ、あれは仕方がないよ。いちいち毒見してもらうわけにいかないしね」


 これからは私が……! と言いかけたゾラに、もちろん全力で断ってから、こちらで気を付けるからと納得させた。だいたいそれは隠密の仕事ではない。


「さて、と」


 すっかり体調も戻ったリュシアンは、ベッドから立ち上がってぐんっと背伸びをした。

 前にも言ったけど、はっきりいって知ったこっちゃないのだ。邪魔に思うのは勝手だけれど、それに従ってやる謂われもないし、誰かの利益のために自分が犠牲になるなんて真っ平だ。

 彼女の境遇に同情する気はないし、理解もできない。今となっては、リュシアンが彼女の断罪を躊躇う理由はただ一つ、エドガーのことだけなのだ。

 もうすでに、彼女のしていることはエドガーの為などではない。むしろエドガーの地位さえ危ぶむ状況になっているのだから。


「……どうしたものかな」


 ポツリと呟いたリュシアンの声に、今度は誰も答えなかった。






「船酔い治ってよかったな」


 船を下りて、リュシアン達は港町の朝市を見ていた。ここはモンフォール王国の中でもかなり大きい港町の一つである。外国との貿易も盛んで、ひときわ大きな商業ギルドがドーンと港の玄関口に門を構えていた。


「降りちゃえば治るよ」

「それもそうか。お前、昨日から何も食ってないんだから、ここで何か食えよ」


 確かに食欲をそそる食べ物の匂いがあちこちから漂っている。お祭りの屋台のような、簡易的な店構えの軽食を扱うお店がたくさん軒を並べていた。

お読みくださりありがとうございました。

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