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4 ❹

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 今日は図書室に本を返しに行かなきゃならないから待っていて欲しい。

 そう言われた放課後、教室で彼女を待っていたのだが、いっこうに来ない。

 ショートホームルームが終わってから15分が経過したころ、教室で駄弁っていた小学の頃からの腐れ縁がこちらに声をかけてきた。

 何があってそんなにイライラしているのか、と問われたので、別になんでもないし彼女を待っているだけだ、と返す。

 「なら探しにいきゃいいじゃん」

 ごもっともなアドバイスをもらったので、そうすることにした。

 そう言われてみれば別に素直に待っている理由も意味も無いわけで。

 というか、本の返却くらい普通に付き合うというのに……

 今に何かが壊れるんじゃないかとヒヤヒヤするからあまり怒らないでくれ、とビビり顔の腐れ縁に言われたが、何のことだかさっぱり理解できなかった。

 教室を出て廊下を急ぐ。

 一年の教室から図書室まで少し距離がある。

 長い廊下を進みながらすれ違ったら面倒だと思った。

 廊下を進み続けていたら、おかしな気配を感じた。

 何かの術が掛けられているような……これは多分人払い系?

 そういえば見渡しても誰もいないし、人の気配がほとんどない。

 明らかにおかしい、普段は放課後であろうと生徒で賑わっているというのに。

 もう一度意識を軽く集中させて……何かの気配を感知した。

 ここから少し進んだところに人の気配が二つある。

 近くで感知できるのはその二つの気配だけで、おそらくどちらかが、この術を掛けた奴なんだろう。

 その気配を感じた方向に向かって進む。

 曲がり角を曲がった直後、人影を発見したので立ち止まる。

 そこには魔王と、魔王に何かを問い詰められているらしき彼女の姿があった。

 彼女の声が途切れ途切れに聞こえてくる。

 「……から……私は……しないって………何度も……」

 何度も?

 つまり、魔王(こいつ)は? 俺のいないところで? 何度も彼女に接触していた、と?

 しかも会話の雰囲気から察するに、ほぼ脅しと言っていい様な感じで?

 もしかすると、何度か暴力を振るっている可能性もあるわけで?

 横でピシリと何かがひび割れるような音がかすかに響いた。 

 その音に気付いたのかどうか知らないけど、彼女がハッとしたような表情でこちらに顔を向ける。

 泣いていた。

 正確には泣く寸前の涙目。

 ようするに俺が一番嫌いな顔。

 その顔で何度不快な思いにさせられたかわからない。

 甲高く凄まじい音が辺り一面に響き渡った。

 その音がやんだ後、耳が痛くなるような沈黙の中、口を開く。

 「……ねえ、何やってるの?」

 そう魔王に問いかけると、何故か彼女が脱兎の如くこちらに走ってきて、突進するような勢いで真正面から俺に抱きついた。

 「大丈夫……大丈夫なの、なんでもないし、なにもされてないの……だから落ち着いて……」

 涙声で何を言っているんだこいつは、俺は冷静だ。

 「離れて」

 「だ、だから、大丈夫だから……」

 大丈夫? 何の冗談だ?

 お前がそう言って本当に大丈夫だったことは前世も含めて稀だった癖に。

 「離れろ」

 もう一度だけそう言うと、彼女はビクリと身体を震わせて、おとなしく俺の言葉に従った。

 その頃になってようやく、俺の魔力のせいで窓ガラスが木っ端微塵に吹き飛んだ音を聞きつけた有象無象共が騒ぎ出す。

 落ち着けという悲鳴にも似た叫び声はおそらくあの腐れ縁のものだろう。

 ……だから、自分は落ち着いていると何度言えばわかる?

 愛刀の大太刀を召喚しながら、そんな疑問を口にして、俺は魔王に斬りかかった。



 トマトケチャップとトマトピューレをぶちまけられたような風貌の少年三人を目前とし、トドメを刺す寸前に脳天に凄まじい衝撃が落ちてきた。

 同時に雷に似た声も落される。

 「このっ……大馬鹿息子!!」

 あまりの衝撃に一瞬意識が飛びかけたが、なんとか持ちこたえる。

 いきなり何をする、と振り返ると、襟首を掴み上げられ、一方的な罵声を浴びせられる。

 何をやっているのか、と。

 何故こんなことをしたのか、と。

 理由は至極簡単で単純だった。

 約束通りに公園に行ったら、彼女が奴らからリンチを受けていた。

 軽く話を聞いた限り――奴らは彼女のクラスメイトであり、学校でも日常的に暴力をふるっているらしい。

 だからその仕返しをしただけ。

 自分に向けられていた敵意をそのまま返しただけだ。

 彼女は俺のものだ、全身に残った傷跡、それの責任を必ず取らせる為にその身柄をもらった。

 だから、彼女を害するものはなんであろうと等しく敵だ。

 何も悪いことなどしていないし、キレられるような事はしていない。

 むしろ初めに敵意を向けてきたあちらが全面的に悪い。

 そう考えを述べると母親は顔を強張らせたあと、お前はやりすぎなんだよ、と怒鳴りながら、再び俺の頭に強化魔法でゴッテゴテ塗り固めた手刀、通称殺人チョップを振り落とした。


 こういうことは、割としょっちゅうあった。

 どうも彼女は加虐的な性質を持つ輩を引き寄せ易い性質らしい。

 前世でもその性質はあったが、今ではさらにそれが悪化しているらしく、よく絡まれた。

 この程度――同世代のいじめレベルだとまだいいのだが、彼女は時折本当にタチの悪い連中に定期的に絡まれるので、何度頭を抱えそうになったことか。

 例を上げると、テロリストとか、性癖を隠して大成した大物政治家とか、加虐趣味を持った英雄とか。

 テロリストは別に平気だったのだが、政治家と英雄は元々それなりの実力者だった上に人脈までフルに使ってくるからべらぼうに厄介だった。

 そういう奴らを相手取って病院送りになるたびに、彼女は性懲りも無く泣きじゃくる。

 もうやめてくれと、もう放っておいてくれと泣く彼女の声がいつも煩わしかったが、俺が責任を取らないつもりなのか、無責任だな、と言うと彼女は黙り込むので、それほど問題ではなかった。

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