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2 Ⅲ

 転校生が来た、と言う事もあり我がクラスでは急遽席替えが行われ――結果、俺は教卓の真ん前から廊下側の一番後ろの席に移動することになった。

 これで休み時間になったらすぐに移動できるな、と内心ほくそ笑んでいたのだが――不運極まりない事に、自分の左隣にガタリと机を置いたのは魔王だった。

 内心、げ……と思いながらちらりと視線を送ると、魔王はニコリとこちらに微笑んだ。

 相変わらずの、出来過ぎた愛想笑いだった。

 「ねえ、君」

 どうやら彼もこちら同様、こちらの正体に気付いているらしい。

 「……何?」

 関わるつもりは毛頭ないが一応要件だけは聞いておくことにする。

 「転校してきたばかりでどこに何があるか把握できてないから、案内してくれないかな?」

 そうニコニコと笑いかけつつ、目線では積もる話があるから付き合え、と語っていた。

 が、彼の勝手に付き合うつもりはない。

 「俺は忙しいから、別の奴に頼んで」

 「え? 委員会とか?」

 笑顔を強張らせながらそうと言いかけてきた魔王に、彼女と一緒にいる約束をこちらから一方的に取り付けていることを素直に言うかどうか迷っていたら、突然小学の頃からの腐れ縁が割り込んできた。

 「違う違う、どーせ彼女といちゃつきたいだけっしょ」

 「……え?」

 突然割り込まれた事に多少は驚いたのか、魔王は一応驚いたポーズをとっていた。

 「……別にいちゃつくわけじゃ」

 「ない、なんて言わせねーよ? 悪いな転校生。こいつ、うちのガッコの名物バカップルの片割れ。暇さえあればばずーっとべったりしてんだ。だから何を頼んでも基本的に全部無駄」

 「誰がバカップルだ……」

 随分と不名誉極まりない事を言ってくれる、後で絞めておこう。

 「バカップル以外の何もんだよ……案内なら俺ができるけど、どう?」

 やっぱり絞める、と思ったが、後半の台詞でそれを取り消す事にした。

 面倒事を引き受けてくれるのなら、まあ、許してやってもいい。

 「……それじゃあ、お願いしようかな」

 魔王は少し迷う素振りを見せていたが、結局その提案を受ける事にしたらしい。

 「にしても転校生、あんた度胸あるなー、いくら席が隣だからとはいえ、わざわざこの問題児に声かけるなんざ、中々出来ねーよ」

 腐れ縁は感心したような笑顔でそんな事を言い放ちやがった。

 「誰が問題児だ」

 「お前、自分が問題児じゃないとでも思ってんのか? もし本気でそう思ってるなら考えを改めろよ?」

 ……やっぱり絞めよう。



 その時、身体を横から強く押された事は覚えている。

 直後に凄まじい音が響き渡り、鉄の匂いが一面に漂った事も。

 いきなり強く押されたせいでつんのめった俺の真横、ちょうど今まで自分が立っていたその場所で、斜めに身体を両断された彼女が崩れ落ちていた。

 左肩から、斜めに腰まで真っ二つに、右腕の二の腕から先も同様に切り裂かれ、先がなくなっている。

 通常なら即死だっただろう。

 しかし、彼女の治癒力の高さが災いし、その時点ではまだかろうじて息が残っていた。

 何故、と自分は問いかけた、何故自分をかばったのか、と。

 ――かばったのは、私の意志、誰に言われてやったことじゃない、自分の好きなように、そうしただけ。

 そう答えた彼女の瞳が満足そうに微笑んで。

 これでやっと死ねる、そう掠れた声が聞こえた直後、彼女は息を引き取った。

 何度も生き地獄を味あわされてきた彼女は多分ずっとずっと死にたかったのだろうし、そう願ってもそれは不可能だった。

 彼女は元々治癒力が高いせいで死ににくい性質だった上に、魔王から自殺を禁じる呪いをかけられていたから。

 だから、願ってもみないチャンスだったのだろう。

 仲間をかばって死ぬ、などという絶好のシチュエーションは。

 自殺ではないのだから、呪いが発動するわけがない。

 要するに俺は、彼女に命を救われると同時に、利用されたのだ。

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