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7 宇宙人4

「お前は幽霊がフィクションではないというのかポ。中々に興味深いプ」


 そう言うと、ロニクルさんは徐に両手を俺の頭へゆっくりと伸ばし始めた。


「な、何をする気だロニクルさん」


 様々な霊との対峙によって鍛えられた、俺の第六感のヤバいものセンサーが、嫌な予感を感じ取った。


「お前の脳味噌、とっても見てみたいポ……」


 ロニクルさんは、ボーっとした顔をし、頬を紅潮させながら、更に手を伸ばした。


「あ……ちょっ……や……やめ……」


 俺は必死にもがくが、椅子も、俺を縛り付けているワイヤーの様な物もピクリとも動かない。


「やめてぇーっ!」


 悠が大声を出しながら俺の前に出て、大きく体を広げ、ロニクルさんに立ち塞がった。が、悠は霊だ。いくら宇宙人といえど、物理的な干渉は悠には出来ない……筈なのだ。


「……ポ?」


 ロニクルさんの手が止まった。そして、ロニクルさんは、悠を貫通していたその手を戻し、何歩か後ろに下がると、呆気に取られた様な顔をして首を傾げた。


「ええと、初めましてだポ。お前も地球人プ?」

「あ……あたしが見えるの?」

「見えるポ」

「ええと……あたし、悠っていいます。清澄(きよすみ)(はるか)。よろしくお願いします、ロニクルさん」


 悠は戸惑いながらも自己紹介をした。


「ふーむ……こちらこそよろしくお願いしますだポ」


 ロニクルさんは、不可解さを覚えながらも挨拶を返した。


「ほら、本当に居ただろ? こいつがウザい霊だ」

「ウザいは余計だよ!」

「ほう……ちゃんとやりとりしてるポ……これが霊ポ……」


 ロニクルさんは、悠の体をロニクルさんの手が通り抜ける感覚を楽しむように、悠のそこかしこに手を入れている。半ば面白がっている様にも見える。


「な、なんか、くすぐったくないのにくすぐったい……!」

「ふーむ……ホログラムみたいだプ。これが霊というものかピ」


 取り敢えず時間を稼ぐ事は出来ているようだ。この隙に、少なくともすぐに解剖されてしまわない程度の振舞い方を考えなければいけない。

 これで霊が実際に存在する事が証明できたのだから、俺の脳味噌は暫く安全だろう。ロニクルさんの目的は地球人の分析。遅かれ早かれ解剖される事になりそうだが、それ以外に気になる事があれば、そちらに気が逸れるみたいだ。つまり、ロニクルさんの興味を俺の体から別の者に逸らせばいいのではないだろうか。

 それとも、俺自身にもっと興味を引かせて処分されないようにするか。

 ……それだと更なる時間稼ぎにしかならないか。

 いや、この場合は、それも有効だ。少しでも俺が処分されるまでの時間を引き延ばせれば、それだけ考える時間も増える。

 自分でも他人でも何でもいいから、とにかくロニクルさんが今までに知った事の他に、まだ何かしらのインパクトがある事を探さねばならない。

 自分でも他人でも、何かしらのインパクトがある事を……。


「ああ、そうだ! ロニクルさん!」

「プ?」


 ロニクルさんは悠を弄る手をとめ、俺の方を向いた。


「俺を処分したら悠が消えてしまうかもしれないぞ。悠は貴重なロニクルさんにも見える霊だ。勿体無いだろう? まあ、消えないかもしれないが……その場合だって、悠は協力……」

「そういえば、お前、手伝うって言ったポね」

 不意に俺の言葉を遮って、ロニクルさんが俺に質問してきた。

「あ? 手伝う?」

「音声ログ430912を再生するポ」

 ロニクルさんが言うと、天井から俺の声が聞こえてきた。

<<ええとだな……そんなにサンプルが欲しいのなら、地球に住んでみたらどうだ。地球人の生態を肌で感じる事ができるぞ。なんなら、俺が手伝ってやってもいい>>


 録画音声だ。凄くクリアで、ヴェルレーデン星人の優れた技術力を感じさせる。


「ほら、証拠だプ」

「ああ……言ってるな、確かに」

「ふむ。お前自身の体質や、この霊の事は実に興味深いプ。お前の生態、じっくりと分析してみたいポ」

「って事は、結局解剖コースか……」


 確かに手伝うと言っている。こうやって証拠まで録音してあるとは、なかなかの念の入れようだ。この本気度では何を言っても無駄だろう。絶望を通り越して、もはや諦めの気持ちしか生まれてこない。


「いや、それは勿体無いピ」

「勿体無い?」

「そう。折角のサンプルは有効に使いたいピ」

「えっと……どういう事?」


 悠も話に入ってきた。


「つまり、お前達を一回地球に帰すプ」

「なっ……」

「解放してくれるの!?」


 あまりにもあっさりと言い放つロニクルさんを疑う俺を尻目に、悠が興奮気味に声を上げた。


「そうだポ。ついてはあの転送装置に入って欲しいプ」

「転送装置……」


 ロニクルさんの指差す先には、円筒状に仕切られた透明な部屋があった。中はそこそこ広く、二、三人は入れる感じだ。


「まずはそれを解いてやらないとだポ」


 ロニクルさんは、テーブルの上に置いてあるリモコンのボタンの一つを押した。すると、俺の腕を拘束していた頑丈なワイヤーが、突然しなしなに柔らかくなってしまった。ヴェルレーデン星の技術は意味不明だ。いや……地球人にはまだ理解できない代物なのかもしれない。


「さ、入るピ」


 ロニクルさんが、さくさくと俺を促す。俺はしなしなになったワイヤーを手から外すと、転送装置が備え付けられているらしい部屋の前に立った。すると、俺に反応してか、メカニカルな仕切りの一部がスライドして開いた。


「えと……あたしも入るんだよね?」

「うーん……霊については良く分からないプが、多分、一緒に入った方がいいポ」


 ロニクルさんは暫く考え、不明確な答えを発した。無理もない。霊を見るのは初めてなのだから、どうなるかなんて分かるはずがない。


「ま、俺と一緒にここまで来たんだ。帰る時も一緒に転送装置に乗れば帰れるだろ」


 俺が投げやりに言った。


「そだね、さ、乗ろ!」


 俺がうっかり、気遣ってしまった様な言葉を言ってしまったのが悪かったのか、耳元で悠のやけに明るい声が聞こえた。


「……ま、いいか。とっとと帰りたいしな」


 兎にも角にも、ロニクルさんの気が変わらないうちに、ここから早く出るべきだろう。

 俺が円筒形の転送装置の前に立つと、この部屋の扉と同じに透明な仕切りがスライドした。転送装置の中へと入る。


 透明な仕切りの一部がスライドし、閉じた。

 心臓の鼓動が高鳴る。

 この狭い部屋に閉じ込められるのはすこし不安を感じる。実はロニクルさんが嘘をついていて、体を解剖されるんじゃないかとか、宇宙空間に放り出されるんじゃないかとか、色々と頭の中に浮かんでくる。

 しかし、それを言ったら初めからこのUFO自体に、既に閉じ込められているのだし、ここから出るには転送装置を使うしかない。背に腹は代えられないだろう。


「入ったポね、閉めるピ」


「元の場所に戻してやるポ。でも、地球の自転の関係で、多少の誤差は出るかもしれんプ」


 ロニクルさんが、機械の、カラフルな光るボタンを押しながら言った。ボタンが押される度に、UFO内にピポパポと不思議な音が響く。


「なんか、古風だな……いや、これが実物なのか……」


 昔のSFなんかで見るUFOの方が、かえって実物に近いというのも不思議な話だ。ひょっとすると、誰かがこんなUFOを見て、そこからUFOのビジュアルを作ったのだろうか……ま、俺が考えたところで、なんになるわけでもないが……。


「ね、自転の関係って何?」

「すこし移動する位置がずれるってことじゃないか? 空中に放り出されるんじゃないだろうな……」


 俺の居た所は屋上だ。誤差であの高さから落ちたらひとたまりもない。


「心配無いポ。地上に近い所にまでしか転移出来ない様にセットしてやるプ」


 ロニクルさんは、さらに目まぐるしくボタンを押している。


「よし、セット出来たポ。それではしばしのお別れポ」

「しばし? それって、期限付きって……」


 俺が言い終わろうとする間に、俺は真っ白な光に包まれ、一瞬のうちに見慣れた世界が眼下に広がった。


「ここは……」


 辺りはすっかり暗闇に包まれているが、地球のどこからしい。俺はポケットの携帯電話を取り出し、時刻を見た。大体、一時三十分くらいか。


「ねえ、あたし、役に立ったでしょ?」


 悠の声が聞こえる。どうやら悠も無事に転送されたらしい。


「宇宙船に拉致られるなんて限定的な状況で役に立たれてもな」


 俺はそう言いながら辺りを見渡した。どうやら、学校の屋上ではなさそうだ。


「プリムラ……? って事は、ここ隣町じゃねえか」


 俺の目に、最近できたアイスクリーム屋「プリムラ」が映った。


「そういえば、ずれるって言ってたよね、ロニクルさん」

「思ったよりずれたな。俺の家まで結構遠いぞ。この時間じゃ電車も無えし……仕方ない、歩くしかねえな」


 俺は静寂に包まれた町の中を歩き始めた。アパートに着く頃には明け方になってそうだが、他に方法がない以上、仕方がない。


「災難だね、駿一」

「ああ、全くだ」

「忘れない事ポ……」


 どこからともなく、声が聞こえてきた。


「ねえ、駿一」

「ああ、この声、ロニクルさんの声だ」


 闇夜にロニクルさんの声が響く


「忘れない事ポ……ロニクルはいつもお前の身近に居て、お前を監視しているのだポ……」

今回もセリフ多めで展開していますが、ここでステマじゃなくてダイマを!


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