8 辛抱強い親睦会
俺の両腕のストレッチをする。
二時間ばかり同じ姿勢で固まっていたから、血行がけっこう悪い。
魔法使いの女はフード付きのローブを羽織っていて、フードは被っていない。
年齢は俺よりは年上だろう。
ミルクティーのような色彩の髪とエメラルドグリーンの瞳だ。
娑婆に出て、明るいところで確認したら違う色に見えるかのかも知れない。
魔法使いの女は、エメラルドの瞳で俺を見つめる。
そして手で形を作る。
俺はその手を見て、何を言いたいのか察することが出来た。
「ああ、あの石か。」
俺は身振り手振りで、石について知っていることを伝えた。
魔法使いの女の表情が明るくなる。
そして隣の男と何か話している。
男の顔をよく見ると、年齢は40前後か。
チャバネゴキブリの色の髪に白髪が交じっている。
そして人間味の無さそうなシケた顔だった。
男が兵士に何か言っている。
そして俺はスイートルームの手口へ突き飛ばされた。
今は両腕が自由になっているため、鉄格子に捉まってなんとか転ぶのは避けられた。
扱いが荒い。
魔法使いの女が、また男の方へ向かって何か言っている。
どうやら怒っているようだ。
その後、俺は前後を兵士二人に挟まれ、五つ星ホテルから外に出た。
お日様が目に刺さる。
そして魔法使いの女がジェスチャーしながら俺に何か言っている。
どうやら石がある場所へ案内しろと言っているようだ。
あの石は宿に置いてある。
遺失物は持ち主の元へ戻すべきだろう。
俺が泊まっている宿へ案内することにした。
あの宿は一つ星ぐらいは付けてもいいかなと思っている。
まあ雰囲気満点の五つ星とは比べようが無いのは仕方が無いところだろう。
そして俺は両脇に兵士二人を侍らせて町中を歩く。
両手に花だけあって、街の人の注目も一入だ。
いや、兵士は野郎だから両手に肥やしか?
宿の到着すると、宿の主人がギョッとした表情をする。
魚っとして魚って感じだ。
こんな時に一芸を披露するとは、宿の主人もやりおるな。
そんな事を考えていると、ゴキブリの髪の男が俺を小突く。
早くしろと言いたいらしい。
ゴキブリに触られるのは勘弁してもらいたいので、早々に部屋に案内する。
そして俺が部屋の中の袋を指さすと、ゴキブリが真っ直ぐに飛んでいった。
ゴキブリは正面にしか飛べないのだ。
中身を確認したゴキブリは、ニヤッという気持ちの悪い笑みを浮かべる。
ゴキブリが笑うのを初めて見た。
そして俺のお付きの肥やし達が、俺を引っ張って行く。
あれ?
用事は終わったんじゃ無いの?
気が付くと俺は五つ星ホテルに戻ってきていた。
今夜はここにご宿泊のようだ。
俺は一つ星でも文句は無かったんだがな。
このスイートルームにはベッドも布団も無い。
自然味溢れる石の床だ。
まあいい。
今夜はこの床石と親睦を深めることにしよう。