7 レトロなホテルで彼とロマンス
薄暗いスイートルームで過ごすこと二時間。
ルームサービスが来ない。
しかもこのスイートルーム、トイレ無しなんだけど?
このレトロな五つ星ホテルに滞在しているのは4人。
残念ながらそれぞれの顔を確認できるような位置にはいない。
うめき声や呼吸の音などを聞き取った結果だ。
もし土左衛門が宿泊していた場合、人数に誤差が出るのは容赦してもらおう。
そして専属のボーイが待機している。
剣と鎧を装備したボーイだ。
なかなかに小洒落ている。
ネックなのは言葉が通じないことだ。
上の階へ続く階段がある方向が少し明るくなる。
コツコツと聞こえる足音。
音の違いから数は四人。
鎧を着込んでいる人物二人と、軽装の二人だ。
歩き方にテンポの乱れが無い事を考えると、連れてこられた新入りでは無さそうだ。
さて、どの部屋のお客だろう?
足音はマイスイートルームで止まる。
明かりが眩しくて、人物の顔が確認できない。
明順応にはしばし時間がかかる。
4人の内の一人が俺に話しかけてきた。
軽装の男だ。
何を言っているのかさっぱり分からない。
というか、まず用があるのならノックしてしかるべきだろう。
鉄格子だけどさ。
「何の用だ?
言葉が通じないから、何を言っているかさっぱり分からないぞ。」
俺は日本語で答えた。
それ以外にやりようが無い。
俺の言葉を聞いた四人。
そのうち二人は予想通り兵士だ。
その兵士の一人が鉄格子の鍵を開ける。
もしかして、一泊もすること無くスイートルーム暮らしは終わりなのか?
中に入ってきた兵士は、俺に近づいてくる。
そして腹に入る衝撃。
腹パン?
「ぐふぉ。」
俺は予想だにしない一撃に、肺の中の空気を一気に吐き出す。
「がぁ。」
さらに一撃追加だ。
俺は床とマブ達になった。
すると髪を掴まれ、引っ張り上げられる。
さっきの男が何か叫ぶように俺に言っている。
やっぱり意味が分からない。
男の隣にいた女が男に何か言っている。
女の方には見覚えがあった。
以前に俺とぶつかった魔法使いの女だ。
魔法使いの女は俺に何か言っている。
「残念ながら、言葉は通じない。
用があるなら、とりあえず両腕をほどいてくれよ。」
俺は悶絶しような腹の痛みからようやく回復し、後ろで縛られている手を見せつけるようにアピールした。
すると女が兵士に何か言ったようだ。
そして俺の腕は自由になった。
だが、俺自身が自由になるのはまだ先のことのようだ。