44 胴体が別になった部隊の別働隊
そこにはオーク達だった残骸が散らばっていた。
すでに逃げ出しているゴブリン達。
俺は追撃をかけるため、再び魔術回路を構成する。
氷の魔術回路に誘導オプションを付け、逃げ出すゴブリンの一匹に向け発動し・・・ない。
「この辺りの魔力を使い切ったか。」
俺は追撃を諦める。
ゴブリン達が逃げずに弓を射かけてきていれば、俺たちは為す術も無かっただろう。
今回は何とかなったが、これからは力配分を考えないといけないようだ。
そして俺自身の疲労もそれなりにある。
複雑な魔術回路をテレキネシスで構成するのは、かなり脳に負担をかける。
疑似魔術回路の構成の少しのミスが命取りになりかねない。
ふとオーク達の残骸の陰に動く者を発見する。
敵の生き残りか?
「ひぃぃぃ。」
俺が確認のため近づくと、そんな声が聞こえた。
声の先を見ると、どうやら魔物では無い。
人間の姿をしているが、おそらく魔族だ。
「どうやらさっきの魔物の指揮はお前が執っていたようだな。」
俺は魔族の男に話しかけた。
魔族の男は歯をガチガチと鳴らし、這いずりながら必死に俺から遠ざかろうとする。
「そんなに慌てなくていい。
見逃してやるよ。
その代わり少し教えてくれ。」
俺は魔法が使えない状態になっているが、悟られるわけにはいかない。
余裕のある態度で臨む。
「な、なんだ?」
怯えながらも言葉を返す魔族。
妙な訛りがあるのは、魔族特有のものだろうか?
「東側にお前達がいたと言うことは、もしかしてこの先もお祭り会場になっていたりするのか?」
「そ、そうだ。
モタモタしていたら別働隊がやってくるぞ。
クミシュ砦を落とすための部隊だ。
もし命を助けてくれるなら、あんた達のことは黙っておくよ。
絶対に何も言わない、絶対だ!」
必死に命乞いをする魔族の男。
その言葉をそれほど信用するつもりは無いが、この先に別働隊がいるのは本当だろう。
しかし矛盾がある。
クミシュ砦を落とすのなら、多少モタモタしていたところでこっちにやってくることは無い。
砦の件は本当で、こちらにやってくるのは嘘だ。
「そうか、参考になった。
俺の名はギスケだ。
魔王に会ったら伝えておけ。」
俺はそう言って、踵を返す。
余裕を見せつけるためだ。
ここで魔法が使えないことを悟られると、一気に形勢が逆転してしまう。
俺が一歩また一歩と離れていっても、不意打ちをかけてくる気配は無い。
どうやら上手くいったようだ。
一時はどうなるかと思ったが、なんとか危機は乗り越えた。
そして俺とエスフェリアとアグレスの三名は、目標であるクミシュ砦に向けて進む。




