42 さっき気づいた先回り
「なんだ、先回りしていたのかアグレス。」
俺はアグレスに話しかけた。
「はい、こちらで到着をお待ちしておりました。
ここは街の中の施設の一つです。
お着替えとお食事を用意しておりますのでこちらへ。
すでに警戒網が敷かれているため、脱出はぎりぎりのタイミングになります。」
さすがにこのタイミングでエスフェリアを連れて、首都から脱出するのは難しい。
魔王がやってくる直前辺りが最適なのだろう。
「ベネッティ、ご苦労だったな。
お前はこの辺りの兵士達に顔は割れてないだろう。
上手く逃げろよ。」
「あの、僕はこのまま行ってしまって構わないんですか?
なんだか状況が全然つかめないんですが。」
「大丈夫だ。
達者でな。」
「いやいや、だって僕があなた方のことを誰かにたれ込んだら大変なことになりますよ?」
「お前がたれ込むって、誰に?
状況を理解してないのに、その情報を誰に売るつもりだ?」
「まあその通りで、恩人を売るつもり何で全くないんですが。
あのまま牢にいたら、魔王がやってきた後まで閉じ込められたままで、たぶん僕は死んでましたよ。」
困った顔で言うベネッティ。
「道案内でチャラだ。
なんとなくだが、お前とはまた会える気がする。
そうだな、その時にはお前が稼いだ金で飯でもおごってくれ。
ただし盗みは無しだぞ。」
「分かりました。
盗み以外で稼いだお金で美味しい物をご馳走しますよ。」
こうしてベネッティは何度も頭を下げながら、この建物を出て行った。
サイアグの計画した市民の避難は始まっているはずだ。
上手く紛れて逃げられることを祈ろう。
その後俺は、アグレスの用意した服に着替える。
さっきまでは魔術師の衣装をまとっていたので、街を歩くには目立ちすぎる。
そしてエスフェリアも町民の格好になっていた。
以前街で会ったときよりも地味な格好だ。
しかし地味な服と美少女の容姿というアンバランスな組み合わせが、逆に人目を引きそうだ。
着替えた後はアグレスの用意した食事をとる。
宮殿で食べた食事ほど豪華では無いが、十分に満足行くものだった。
「この食事はアグレスが作ったのか?」
「はい。
このような状況で材料の調達が滞り、粗末な物を出す結果になってしまいました。」
申し訳なさそうに答えるアグレス。
「いや、うまかった。」
俺がそう言うとアグレスの表情がぱーっと明るくなる。
「私も料理を覚えた方がいいのかしら?」
エスフェリアが言う。
「雑務はお任せください。
殿下は別の仕事が山積していらっしゃいますよ。」
アグレスがやんわりと断る。
こんな危機感の無い会話をしている間も、どんどんと魔王アストレイアが近づいてきているのだ。
脱出のタイミングは明日。
さすがに疲れた、それまでの間に休息を取ることにしよう。




