41 耐性を付ける体勢
「何故、僕の名前を知っているんですか?!」
ベネッティが青い顔をして叫ぶ。
「今、この切羽詰まっている状況で、命よりも説明の方が重要か?」
俺は声を低くして言う。
時間が惜しいと言うより、説明するのが面倒くさいのだ。
「いやいやいや、分かりました。
単調直入に言います。
僕は宮殿から脱出する秘密の通路を知っています。
だから一緒ウワッ。」
ブスンという音が響く。
有無を言わさず、俺は鉄格子の鍵を破壊した。
「行くぞ。」
「あ・・・ありがとうございます。
ただ・・・もう少しその・・・。」
「い・く・ぞ!」
「はいい。」
俺はベネッティに先導させ、秘密の通路に案内させた。
「ところで、お隣にいる方はもしかして・・・もしかしなくてもエスフェリア皇女殿下ですよね?」
ベネッティが恐る恐る聞いてくる。
「はい。
その通り、エスフェリアと申します。
よろしくお願いします。」
エスフェリアがにっこりと微笑む。
それを見て赤い顔をするベネッティ。
「おい!」
俺はベネッティに声をかけた。
「はい、すみません、見とれてすみません。」
「それはどうでもいい。
それより体の調子はどうだ?」
「体?
特にこれといって。
うーん、若干息苦しいのは、運動不足のせいですかね。」
ベネッティは魔王の力の影響を受けていないようだ。
俺はエスフェリアの方を見る。
「おそらく、耐性があるのでしょう。
現時点での魔王の影響は、かなりの遠距離から発せられているため、それほどの力を持っていません。
なので症状には個人差がかなり出るようです。」
「なるほどな。」
俺は納得する。
「あの、何の話ですか?
魔王の影響って?」
ベネッティが聞いてくる。
「もうじき魔王が帝都を観光に来るだけの話だ。
気にするな。」
俺は色々端折って答えた。
「気にしますよ!」
「だったら一つアドバイスだ。
ここから脱出したら、魔領と反対側へ逃げろ。
全力で、出来るだけ早くだ。」
「うひぃぃ。
僕の夢は、世界一の金持ちになることです。
その夢を叶えるまで死ねません。
世界の果てまで逃げ切って見せます!」
ベネッティはなんだかよく分からない意気込みを見せる。
まあ金持ちでも何でも、好きなものになればいい。
命があればの話だけどな。
ベネッティの案内する秘密の通路は、なんと地下牢から続いている通路だった。
小汚い革袋や箱などによって巧妙に隠されていた。
普通ならこんな場所を調べようなどと、誰も思わないだろう。
そこから地下通路が続く。
いくつか分かれ道があり、一見さんなら確実に迷うことが出来るだろう。
「間違った道には罠が仕掛けられています。
かならず僕の後を辿るようにしてください。」
そしてついに出口らしき場所に到達した。
俺たちはそこから出る。
出た場所は、なんらかの建物の中だ。
そして人影に気がつく。
「待ち伏せされていたか・・・。」
俺はそう呟いた。
その人物は俺たちを見て驚きもせず、ただ笑うだけだ。
相手は知っている人物だった。
動きを・・・完全に読まれていたのだ。




