35 ジョークのような叙勲
俺は魔術師の正装をして叙勲式に臨んでいる。
一通りの手順はアグレスから指導を受けている。
そういう手順を覚えるのは得意なので何の問題も無い。
そして目の前にいるのは皇帝陛下。
近年何らかの病気を患っているらしく、顔色は良くない。
俺に何らかの訓示をもじゃもじゃ話しているが、どうでもいいので聞き流していた。
なにかひたすら称えられているらしい。
宮殿に襲撃をかけてきた無法者達を撃退するのに貢献したことになっているからだ。
だが、実際は俺を狙ってやってきただけらしいけどな。
俺を取り囲むように、帝国の幹部達がいる。
一癖も二癖もありそうな人物だが、俺の知っているのは宮廷魔術師サイアグと皇女エスフェリアだけだ。
エスフェリアの隣にアホ面をしているガキがいる。
微妙に鼻水を垂らして、だらしなく口を開いている奴だ。
身につけている衣装から考えて・・・考えたくはないが、あれが第二皇子か?
エスフェリアを出し抜いて死に追いやった黒幕と思いきや、なんとか公爵のただの傀儡か?
まあ、偉い家系に一人ぐらいどうしようもないのが混ざっていても不思議ではないだろう。
そんなことを考えていたら、ふとした拍子に第二皇子と目が合ってしまった。
どうせ気にも留めないだろうと高をくくっていた。
その瞬間、俺は悪寒にも似た震えが体を走った。
俺は堪えられず第二皇子から目をそらした。
意を決してもう一度見る。
相変わらずのアホ面だ。
しかし再び目が合うことはなかった。
いったい何だったんだ今のは?
滞りなく叙勲式は進む。
騎士団長のゼギスが俺に儀典用の剣を渡す。
俺はそれを事前に指導された形で受け取った。
そして騎士の称号を受ける。
騎士になるとどうやら末端の貴族になるらしい。
いいのか、こんな身元不明の怪しい奴を?
裏でどういうやりとりがあったのかは、面倒くさいから考えるのをやめよう。
そして今度はエスフェリアが鍔や柄に宝石をちりばめた、戦闘では絶対に役に立たない剣を掲げる。
それを跪いている俺の肩に添える。
忠誠と忠儀を問われ、俺は「この身に代えて」と答える。
こうして新設されるエスフェリアの親衛隊の立場も得た。
そこへ騎士の一人が駆け込んでくる。
たぶんエスフェリアが言っていた、タイミングがずれると面倒なことになる件がやってきたのだろう。
騎士の一人が、聖騎士長ゼギスに報告し、さらにそれをゼギスが皇帝に報告する。
突然俺の叙勲式の場が、会議室へ体を変える。
そのまま俺は退出させられる。
そして俺はエスフェリアに呼ばれた。
着替えた後、彼女の部屋へと向かう。
俺が近衛になったことは通知されているらしく、途中警備の兵達の反応がまるっきり異なっていた。
「さて、タイミングにずれはありません。
どの周回でも、魔王アストレイアがグラビデン砦を陥落させたという報告が来るのがさっきのタイミングです。」
「だから俺を急かしたのか。」
「報告は今ですが、実際に陥落したのは数日前です。
すでに他の砦も落とされ、魔王は帝都にかなり近い位置にいるでしょう。」
「魔王、強すぎじゃねえか?
そんなにほいほい砦を抜けるものなのか?」
「普通は無理です。
たとえ魔王であっても。
しかし魔王アストレイアは可能なのです。
なんといっても、魔力に底が無いのですから。」
「魔力に底が無い?」
「無制限に魔力を回復するユニークスキルを持っているのです。
魔王種と呼ばれる存在は、それぞれの個体ごとに何らかのユニークスキルを持っています。
そして魔王という存在に対して、最高の相性のユニークスキルを持っているのです。
普通の魔王であれば、その強大な力を振るうと、回復に数ヶ月の時を費やします。
アストレイアにはそれが無いのです。」
「酷ぇチートだな。」
「チートですか。
そうですね。
ですが大丈夫です。」
「ああ、アストレイアは勇者に倒されるんだっけか。」
「はい。
しかしそれだけではありません。
ギスケ、あなたはいずれ魔王よりも強くなるはずです。
半年後の時点で、かなりいい勝負が出来たと思いますよ。」
どんだけだよ、半年後の俺。




