30 不特定多数の不徳
「剣を収めなさい。
ギスケは味方です。」
エスフェリアは言った。
警戒心むき出しで俺に剣を向けていた騎士達は、命令に従い剣を収める。
しかし全員俺を凝視したまま、いつでも殺ってやるぜという顔をしている。
たぶんさっきの光魔法がやり過ぎだったのだろう。
さすがにこの距離で剣の一撃を食らったら、素人の俺では、転生系の物語にシフトチェンジすることになるだろう。
つまりオダブツだ。
そんな状況を気にせずエスフェリアは話を進める。
「襲撃者達の撃退には成功しましたが、もう一つやり残したことがあります。
ゴルディン、申し開きはありますか?」
ゴキディンがそこにいた。
奴は今回の事態では、呆然としているだけでただの役立たずだった。
エスフェリアは、その役立たずに何やら詰め寄っている。
「な、何のことでございましょう殿下?」
ゴキディンが人間の言葉を喋る。
「この襲撃に荷担して、魔族を招き入れたことに関してです。」
「な、な、何を申されます。
私には何のことだか・・・。」
「アグレス、あれを。」
「はい、こちらがゴルディン様が出された指示書です。」
アグレスが何やら書状らしき物を出した。
「そ、それは・・・。」
慌てるゴキディン。
こいつ、結構嘘がつけない奴なのか?
「見覚えがあるのですね。」
「い、いや、知りませぬぞ。」
「あなたがそれを従者に渡し、さらに出入りの商人経由で魔族の内通者に届けさせたことは調べが付いています。
ずっと監視させていましたから。」
ゴキディン観察か。
さすがに皇族ともなると、庶民とは違った趣味を持っているな。
俺は聞いてなかったが、エスフェリアは今までの死に戻りで、既に内通者を特定していたようだ。
「まさか・・・。
私は無実、えん罪だぁぁぁ。」
突然叫んで逃げ出そうとするゴキディン。
あっという間に騎士に捕縛される。
カサコソ逃げるのには失敗したらしい。
ゴキディン失格だな。
生で触らなければいけないとは、騎士も仕事とは言え災難だ。
「サイアグ、監督不行き届きですね。」
エスフェリアは近くに控えていたサイアグに話しかける。
「はい、不徳の致すところでございます。」
眼光が鋭いまま表情を変えず、頭だけ下げるサイアグ。
「それでどうですか、ギスケは?
魔法を学んで10日足らずで、あなたのお得意の魔法を再現して見せたのですよ。」
「10日・・・。
それは・・・素晴らしい逸材でございますな。」
ほんの一瞬だけ、表情が変わった気がする。
「貴方が放逐したオルドウルのレポートを、ギスケは大変役に立ったと言っているわ。」
「それは・・・なんとも。
私の目が曇っていること、面目次第もございません。」
おい、もしかして・・・エスフェリアはサイアグを煽ってるのか?
ちょっ、火薬庫に火を投げ込む遊びは感心しないぞ。
「それで、ギスケの処遇はどうすれば良いと考えますか?」
「このような才能を持った者を放っておくことは、帝国のとっての損失。
私の元でさらなる研鑽を積ませようと存じます。」
「そう、それは良かったわ。」
ちょっと待て。
俺がサイアグの元?
エスフェリアはいったい何をしようとしているんだ?
一言言いたい。
サイアクだ。