3 ニクジュウハチって肉がジュウとしてパチと焼けて旨そうだよね
俺がこの世界に召喚された直後の話をしよう。
俺は命と引き替えに召喚されたのだろう。
周りを見渡す。
人、人、人。
賑やかなところだ。
みんな色鮮やかな民族衣装に身を包んでいる。
そして俺をチラチラ見ながら通り過ぎていく。
建物の重心をきちんと考えた設計が美しい。
なかなかの建築家がいそうな素晴らしい世界だ。
「おい、俺を召喚した奴はどこだ?」
叫んでみた。
通行人がぎょっとした顔で俺を見る。
無関係な奴はどうでもいいんだ。
おい、用があって呼び出したんじゃ無いのか?
俺は地べたに座り込む。
そして通行人を観察する。
時々俺をチラ見するが、特に害意を持って接する奴はいない。
通行人の会話に耳を立てる。
聞き取れない。
何を言っているのかさっぱり分からない。
ニュアンス的にはドイツ語か。
しかし知っている単語が一つも無い。
とっかかりが無い。
俺は通りの反対側で営業している露店を観察した。
串肉を販売している。
旨そうだ。
店主と客の会話、指の動き、やりとりされる貨幣。
客の数を30人数える頃には通貨の種類と単位、数に関する言葉を理解した。
辺りの露天を改めて見渡す。
所々に書かれている文字の中ある数字が俺の頭に記憶される。
数を表す文字に関しても理解できた。
この国の数字には規則性がある。
理解するのは簡単だった。
人間は会話をするのなら、言葉など必要ない。
身振り手振りで十分だ。
そして数さえ分かっていれば損はしない。
周囲を観察して暇つぶしをしてみたけれど、俺を召喚した奴は現れない。
暇だ。
俺は地面の砂をつかみ取ると、道に蒔いた。
定数を設定しテレキネシスでフラクタルを組みあげる。
広がっていく幾何学模様。
普通だったら人前でテレキネシスなど使わないのだが、既に超常現象の中にいる。
気にするだけ無駄だ。
俺はどんどん砂を追加してフラクタルを広げていく。
規則性のある模様のなんと美しいこと。
俺は夢中で暇つぶしに没頭した。
ところが俺の芸術に珍入者が舞い降りる。
百を表す貨幣だ。
通行人が足を止めて、俺の作品を眺めている。
そして一人、また一人とコインを投げ入れる。
ここは賽銭箱じゃねえぞ。
どうやら俺は芸人か何かと思われているようだ。
この国の人間にとって俺は変な服装をしている見慣れぬ顔の外国人だ。
珍妙な芸を披露していると思われても不思議は無い。
俺はいったんコインを手に取ると、幾何学模様の上をテレキネシスで規則的に動かした。
人だかりが増える。
それに伴ってどんどんコインが集まる。
儲かりまっせ。
よく分からないうちに俺は、串肉を55個買えるほどの金額を手にすることが出来た。
よし、状況は悪くない。
食いっぱぐれることは無いぞ。
いつまで経っても俺を召喚した奴は現れないが、些細なことは気にしない。
召喚には応じたが、その後に何をするかは約束していない。
自由にやらせてもらうことにしよう。