19 清らかな清流のように整流しよう
俺が提案したのは、魔力吸収以外の魔術回路についての実験だ。
過去の実験レポートやイリンが図書館から借りてきた書籍の情報から、俺は疑似魔術回路の規則性についてある程度掴んでいた。
疑似魔術回路は、魔術師が精神に魔術回路を編むのとは違った技術だと認識されているようだ。
それについて魔術師で無い俺が確認する術は無い。
そしてその違いから、卓越した魔術師でも疑似魔術回路の構築は、かなりの困難さがあるらしい。
今回俺は、電撃系の魔法をチョイスした。
問題はその発動だ。
魔力を持たない俺は、電撃の魔術回路を構築しても、そこに力を流し込むことが出来ない。
その部分をエルシアに手伝ってもらうのだ。
「いいわよ。
ここじゃ危険だから、実験室に行くわよ。」
あっさりと了承するエルシア。
俺は離れにある実験室へ招かれた。
何故かイリンも付いてきている。
まあいいか。
「さて、何をすればいいのかしら?」
「俺が疑似魔術回路を作るから、そこに魔力を流し込んでくれ。」
「いいけど、たぶん無理よ。
魔力を魔術回路に流し込むには変換装置が必要なの。
魔力の流れ方を整える必要があるのよ。」
電気で言うところの交流と直流の変換か。
なるほど、じゃあ魔術回路に整流機能を足しておこう。
「とりあえずやってみよう。
駄目なら対策を考える。」
俺は実験室にあった魔晶石の粉を握る。
そして床の上に蒔いた。
同時に力を発動する。
「わあ。」
イリンが幾何学模様を描いた疑似魔術回路に感嘆の声をあげる。
彼女はこの系統の模様がお気に入りらしい。
エルシアが魔法陣のようになった疑似魔術回路に魔力を吹き込んでいく。
すると即座に反応があった。
「きゃっ。」
エルシアが悲鳴を上げる。
そして後ろに飛び退く。
強烈な光がその場で弾けたのだ。
エルシアが飛び退いた先、実はそこには俺がいた。
抱き留めるとかいう状況では無い。
半歩ずらしの状況で、エルシアのエルボーを食らう俺。
見事に俺の脇腹を肘鉄が貫く。
そういえば、半歩ずらしでダメージを受けずに攻撃できるゲームがあったな。
そんなことをふと考えた。
「ぐふぅ。」
俺は腹の激痛によって、現実に引き戻されつつ悶絶する。
「凄い、凄いわ。
魔法が発動した。
こんな簡単に!
ははははは。」
エルシアが突然笑い出した。
怖いよこの人。
俺は腹の痛みから、まだ復帰できない。
突然エルシアが俺の両手を取り振り回す。
「凄い、本当に凄い」と言いながら、俺ごと振り回す。
俺は絶賛悶絶中でそれどころでは無かった。
エルシア、空気読め。
助けてくれたのはイリンだった。
彼女がエルシアを止めてくれたのだ。
「あははは。
これは本当に大発見。
ゴルディン・・・見てなさいよ。
あはははは。」
俺は腹の痛みからようやく抜け出したところだ。
手を離した後も、エルシアは笑い続けていた。
俺とイリンはその姿を呆然と見つめるしかなかった。




