16 思慮深く戦う資料の貴紙
俺は資料と戦うことになった。
普通は異世界と言えば、戦うのは資料じゃ無くて死霊とかじゃないか?
そして強敵達と相対している俺に、イリンという仲間が加わる。
エルシアは別行動だ。
「エルシアさんに呼ばれてきました。
何かお手伝いですか?」
イリンが資料室にやってきた。
「早速なんだが、これの意味は分かるか?」
イリンは俺が渡した実験レポートと思われる資料に目を通す。
「・・・。
分かりません。」
イリンは残念そうに首を振った。
「だろうね。」
12歳の俺が言うのも何だが、10歳の子供が読めるようなものじゃ無い。
「ええっと、疑似魔導による魔術回路の構築実験のレポートみたいです。
でも私は魔術を少しかじったぐらいで、中の技術内容まではさすがに・・・。
ごめんなさい。」
ほう、疑似魔術回路か。
まあ、何のことだかさっぱり分からんな。
ん?
「え、読めるの?」
「はい。
読むことは可能です。
分からない専門用語もありますが、図書館から必要な本を借りてくれば何とかなります。」
「お前、凄えな。
じゃあ、俺に分かるように教えてくれ。」
「そんなことで良ければ。」
こうしてイリンに言葉の意味を教えてもらいながら、資料の貴紙達との戦いが始まった。
資料と戦いには魔法の知識が必要だ。
俺はイリンに魔法についての説明を聞く。
その内容は以下のようなものだ。
魔法の根源は魔力。
人や物の中に一定量が存在する。
そして魔術師と呼ばれる存在は、より多くの魔力をその身に溜め込むことが出来る。
魔力は魔導と呼ばれる道を通る。
魔導は人間の体の中にあり、太い魔導を持っていないと魔力にロスが生じて大きな魔法が使えないらしい。
そして魔法の発動には魔術回路と呼ばれる物が必要らしい。
魔術師はこれを自分の精神に中に構築し、魔導を通じて魔力を流し込み発動する。
高度な魔術回路を構築し、より多くの魔力を注ぎ込めば、強力な魔法が使えるという。
というか、こういう話は普通エルシアがするものじゃ無いのか?
イリンが言うには、エルシアは国立魔術研究所の魔術師らしい。
いずれは宮廷魔術師になると自分で言っちゃうタイプだという。
宮廷魔術師は国の運営も左右するほど偉い役職のようだ。
「ところでイリンは魔法をかじったと言っていたが、もしかして使えるのか?」
俺は何気なく聞いてみた。
「はい、風の魔法を少しだけ。」
やっぱり使えるのか。
さすがファンタジー世界。
「この世界の人間は当たり前のように魔法が使えるのか?
街ではエルシアぐらいしか魔法を使っている奴は見かけなかったんだけどな。」
俺は魔法の普及率について聞いた。
まあ、攻撃魔法でいつもドンパチしている街があったら、たまったものではないが。
「魔法を使えるのはごく一部の人だけです。
普通は10歳ぐらいから魔法を使うための魔導や魔力の拡張訓練、魔術回路などの技術を学術的に学びます。
実際に魔法が発動できるのは15歳ぐらいになってからです。」
ん?何かおかしいぞ。
「お前、俺の見立てでは10歳ぐらいだと思ってたんだが、本当は何歳なんだ?」
俺は今頃になって歳を聞いた。
「10歳です。」
よし、ドンピシャ。
「なんかさっきの話と矛盾してないか?」
「希に例外はあるみたいです。
でも魔法を使えると言っても、ほんの少し風を起こしてすぐに魔力切れ程度ですよ?」
「使いどころが難しいな。
暑い時には使えるか?」
「そのあと、魔力切れで倒れちゃいますけど。」
微妙な能力だった。