14 首の話に首ったけ
本日二話目です。
「やっぱり俺は首ちょんぱされてたのか?」
俺はスイートルームでの件を聞いた。
「首ちょんぱ?
いえ、頸動脈を切られて大量出血していたの。
その後、切った兵士が我に返って止血したみたいね。
私が行った時には凄いことになっていたのよ。」
頸動脈を切ると、どのぐらいの勢いで出血するんだろう?
自分の事ながら、ちょっと見てみたい気がする。
「綺麗に治っているみたいだけど、魔法って奴か?」
俺は首筋をさする。
「ええ、回復魔法よ。
ただ、あなたに回復魔法は効かなかった。」
エルシアの衝撃の一言だった。
「え?」
「魔法がすり抜けるのよ。
魔力の干渉を受けないといった感じね。
始めてよ、そんな人間を見るのは。」
ため息をつきがてら話すエルシア。
「じゃあどうやって治療したんだ?」
治ってるぞ。
「床に落ちていた魔力を大量に含んだ粉を使ったの。
あれはあなたが作ったのよね?
それを振りかけたら、魔法が効くようになったわ。
魔力を大量に含んだ魔晶石の粉を魔道具に組み込んで、性能を強化する技術があるんだけど、それに近い感じね。
それにしてもあなた、まったく疑問だらけね。
本当になんなの?」
エルシアはギラ付いた目を俺に向ける。
身の危険を感じる。
こいつはマッドサイエンティストか?
「なんなのと言われてもな。
一言で表すと、突然召喚された異世界人だ。」
俺は自分の認識している事実を語った。
「異世界人?
召喚?」
エルシアが首をかしげる。
「だれか異世界人を召喚した奴に心当たりは無いか?
ちょっと一言二言言いたいことがあるんだ。」
「精霊召喚の技術なら知っているけど、どこか別の世界から人間を連れてくるなんて聞いたことも無いわ。
そんな魔法が使えるとしたら、魔王レベルよ。」
「魔王?
ほう、この世界はやっぱりそんな奴がいるのか。」
「この国はずっと魔王と戦い続けているわ。
今代の魔王は歴代で考えても最悪の力を持っている魔王よ。」
「へえ、大変だなあ。」
俺は人ごとのように言った。
まあ、人ごとだからな。
「あなたが出自がよく分からないのは置いていくとして、あの力は?」
「水に模様を描いた力か?」
「それを含めて、どうやって魔力吸収回路を構築したのかよ。」
「魔力吸収回路というのを意図的に作ったつもりは無い。
あの石の模様をテレキネシスで再現しただけだ。」
「テレキネシス?」
「小さくて軽いもの限定で、一度触れたものを動かす能力だ。
力自体は弱々しくて、本来なら大したことはできない能力だ。」
「異世界人の力というのかしら?」
元の世界でもそんな力はTVでぐらいしか見たことが無い。
だから異世界人の力というのは語弊があるだろう。
しかしいちいち訂正するのが面倒だったので、特に何も突っ込まなかった。
「あの石は、ある魔道具に組み込むための重要な部品だったの。
長年かけて苦労して作り上げたね。
そしてあなたが使った力は、その長年の成果を軽々超えていたわ。
あなた、私に協力するつもりは無い?
話を聞いた限りでは、特に目的も無いんでしょ。」
「俺は他人に命令されるのはゴメンだ。」
「協力関係よ。
今回みたいな事があったら困るでしょ。
身分は保障するわ。」
「脅しにしか聞こえないんだけどな。」
「誤解しないで。
私はゴルディンみたいに力で抑えつける気は無いわ。
知的好奇心というか、色々な意味であなたに興味があるの。」
エメラルドの瞳で俺を見つめる。
こいつにはこいつの打算があるのだろう。
しかし俺が何かするにしても、もう少しこの世界のことを知ってからでもいいだろう。
「分かった。
宿代程度なら協力してやる。」
こうして俺はエルシアと協力関係を結ぶことになった。