10 愛のある触れ合い
本日二話目です。
気が付くと俺は床石と寄り添ってイチャイチャモードだった。
記憶が飛んでいる。
どうして俺は、床石とこんなにイチャついているんだ?
体を起こして回りを確認する。
五つ星ホテルのボーイが中腰姿勢で頭を振っていた。
脳震盪でも起こしたのだろうか?
脳関係は危ないから、病院に行って見てもらえよと思った。
しかし言葉が通じないので、アドバイスできないのが残念だ。
俺は皿があった場所を確認する。
皿が無い。
どこかに攫われたか?
それとも皿が割れたのか?
顔を近くに寄せて良く見てみると、床に微妙な亀裂が入っている。
そして周囲に粉のようなものが拡散していた。
豆スープの入っていた皿は影も形も無い。
俺が寝ていた間に片付けたのだろうか?
だったらこの妙な粉も掃除していって欲しかった。
五つ星ホテルの先輩の部屋から叫び声が聞こえてくる。
何かあったのだろうか?
もしや五つ星湯煙温泉殺人事件?
探偵役は俺か?
鉄格子を叩いている人もいる。
いつから閑静なホテルが動物園に様変わりしたのだろう?
まあ、俺も動物園は嫌いじゃ無い。
動物園に行ったら必ず触れ合いコーナーに行く。
一方的に触れているだけだから、お触りコーナーじゃ無いかという気がしないでも無い。
ちょっくら触れ合いに行きたいところだが、残念ながら鉄格子はそのままだ。
ふと首筋に冷たい感触が伝わってくる。
ヒヤッとした。
心臓に悪いから、冷たいものを突然くっつけるのはやめて欲しいな。
俺はその冷たいものを確認する。
刃だ。
鉄格子の隙間から、ボーイが剣を差し出して俺の首筋を冷やしてくれていた。
気が利くボーイだ。
寝起きに冷たいタオルならぬ、冷たい刃を差し出すとは。
仕事熱心なのはいいが、お前は脳震盪を起こしている。
病院に行った方がいいんじゃ無いか?
俺は病院に行った方がいいという、真心がこもったジェスチャーをした。
通じたか?
するとボーイは返事のつもりか、刃を圧した。
冷たい刃が、熱いのか冷たいのか分からない強烈な感覚に変わる。
俺の体を流れる熱き血潮が、出口を求めて彷徨っていたようだ。
首筋を出口と勘違いしたのか、一斉に飛び出してくる。
突然からだが軽くなったような気がする。
意識が保てない。
俺はたぶん倒れた。
何か叫ぶ声。
足音。
鉄格子の開閉音。
そんなものが聞こえるのを、ただ脳が記憶していた。
なんだか良く分からずにこの世界に召喚されて、なんだか良く分からない間に次の世界へ旅立とうとしている。
本当にいったい何だったのか?
まあいい。
俺は死ぬまで生きるだけの話だ。
今までも、そしてこれからも。




