1 プロローグってプロの悪党のことか?
俺は皇女エスフェリアと侍女のアグレスを連れ、クミシュ砦まで行かなければならない。
周辺の街道はすでに魔族によって封鎖されている。
今いるのは廃墟と化したこの集落だ。
ここからクミシュ砦へ行くためには、森を抜けるルートが必要になる。
俺は魔晶石の粉末を握りしめ蒔く。
そしてテレキネシスで多重魔法陣を生成する。
魔力収集、魔術効果、魔法強化を階層化したものだ。
俺がこの世界へ来るまで、魔法陣を多重に構成するという発想は無かったらしい。
そもそも技術的に無理だという話だ。
この世界の法則と俺の能力がピッタリハマったおかげで俺はチートみたいな力を手にした。
俺は索敵用魔法陣を周囲に向けて使用した。
周囲の生命反応と魔力を俺に伝える効果がある。
出来るだけ敵と接触せずに砦まで行くことが望ましい。
魔族を叩きつぶして街道を抜けるという手が取れなくも無い。
しかし二人に怪我を負わせるリスクがある以上、戦闘は少ない方が良い。
そもそもこれは俺の仕事じゃ無いはずだ。
だがエスフェリアにうまく誘導されたとはいえ、守ると約束してしまった以上やるしかない。
三人で森を抜ける。
森の中にも魔族や魔物がいるのは検知している。
俺は常態防御用と攻撃用の魔法陣を生成し備える。
「俺から距離をとらないように。
ってエスフェリア、そこまでくっつかなくていい。
動きにくい。」
「暗い森だから心細いのです。
いちいち細かいことを気にしていたらハゲますよ。」
エスフェリアはそう言ったが、全然心細い顔をしていない。
ニヤニヤしながら抱きつくな。
「アグレス、なんとかしてくれ。」
「こうですか?」
「おい、お前までくっつくな。
ほら敵さんがお出ましだぞ。」
コボルトの索敵部隊、数は7。
俺は魔法陣をコボルト達に向けた。
そして散弾化させた氷の刃を撃ち放つ。
肉片をまき散らしながら吹っ飛ぶコボルト達。
木の陰になっていた二匹を仕留め損なった。
俺は魔晶石の粉を握りしめ、魔法陣に軌道操作を追加する。
そして生き残りに誘導型の氷の刃を食らわせた。
ここまで極力、音は抑えたはず。
「冗談はそこまでにしてくれ。
とっとと行くぞ。」
俺はいつまでも抱きついている二人に言った。
「まったく、ムードが台無し。」
エスフェリアが緊迫感の無い声で答えた。
「コボルトの肉片をまき散らしている中でムードなんてあるか!」
俺はツッコミ担当か。
とにかくこの二人を安全なところに運ばないと、面倒くさいことこの上ない。
はやくボケ担当に戻りたい。
まったく、この世界に来てからろくな事が無い。
森を早足で抜けながら、俺はこの状況に至るまでの辛い日々を思い出した。