唯々諾々。
「へー。それでその少女の言葉通りサボらないで帰ってきたんだ」
時は昼休み。
朔の向かい側に座る少女が購買部で買ったイチゴオレのパックにストローを刺しながらそう言った。
一見、金髪でピアスを付け、眉毛も薄く、吊り上がっている茜に――この場合ヤンキーという言葉が一番しっくりくる――イチゴオレという組み合わせはギャップがありすぎて、朔は思わず破顔しそうになる。朔達は先程の3,4時間目の合間にあったことについて話していた。
「数Aの授業が嫌だからってサボるってあんなに高らかに宣言してたのにね」
祐希は上品に笑った。眼鏡の奥で大きな瞳が弧を描く。祐希は笑う度に笑い皺ができてとても可愛い。
朔も今度こそ笑顔になった。
祐希は黒い髪を二つに括り、銀縁眼鏡にスカートもきっちりひざ下だ。そのため、第一印象は『真面目』な雰囲気があるが――実際頭は良い――、校則を守っているだけで、朔の癒し的存在となっていた。
「つっきーの初サボりは失敗に終わったってことで。めでたしめでたし」
茜が些か棒読みで茶化す。ストローを口にくわえ、下品な音を立てながら一気に吸いあげた。
「次こそ成功させるもんっ!」
ぷくっとわざとらしく頬を膨らませる朔に、そんなことしても可愛くないよ、と茜は笑った。
物事をストレートに言う茜を嫌いでは無かったが、同時に苦手でもあった。
それでも茜と一緒にいるのは、それ以外に“居場所”がないからだ。
「っていうかさー」
茜がストローから口を離す。どうやら飲み終わったようだ。パックをくしゃり、と握り潰した。
「――自殺とか、あり得なくね?」
ぴくりと、一瞬だけ朔の肩が動いた。
「茜、ハッキリ言い過ぎだから」
そう言いながらも含み笑いする祐希。
朔は黙って爪先を見つめた。
「死ぬんなら勝手に死ねばいいのに。――学校で死ぬとかどんだけ見てもらいたいんだよ」
擦れたような高い声。――茜の笑い声だ。
これを聞く度に朔は自分が笑われているような感覚に陥った。
茜の煩い笑い声は周囲にも聞こえていて、何事かと自分の手を休めてこちらを窺う目がたくさんあった。
「朔もそう思わない?」
突然話題を振られ、反射的に顔を上げる。
茜の目は有無を言わせないような強い光を宿っていた。
そんな瞳に見つめられて思わず朔は目を逸らす。
「……うん」
全く思ってもいない事を口にする。
だよねぇ
茜は上機嫌に鼻歌を歌いながら手に持っていた残骸をゴミ箱にシュートした。
それは外れてゴミ箱の角に当たり、壁との隙間に落ちてしまった。
唯々諾々。*end