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それは屋上で


秋晴れというには既に遅く、冬晴れというにはやや早いであろう――染み一つない空が朔の頭上を支配していた。


いかんせん、今はそんな景色を

「あぁいい天気だなぁ」

なんて眺めている暇は無かった。


朔の目は、立ち入り禁止という紙――半分破れて読みにくくなっている――が貼られている屋上の開き戸を開けた時から一点に釘付けになっていた。


そして――

「死んじゃ駄目ーっ!!」人気の無い屋上でフェンスを飛び越えようとする少女に叫びながら、突進するように走り、腕にしがみ付く。


その少女は朔の突然の出現に少し目を見開くものの、振り払おうと必死に腕を動かす。しかしその抵抗も虚しく、バランスを崩した肢体は朔を巻き込みながらそのままコンクリートの床に、落ちた。


「いっつぅ……」

朔は打ち付けた背中の痛みに無意識的に涙腺が緩むのが分かった。

朔を下敷きにした張本人はむくりと上半身を起こす。ふわりと、シトラスの香りが朔の鼻腔をくすぐった。


「――人が死のうとしている時に邪魔しないでくれない」

向き合った目の前の人物は、無表情で朔にそう言い放った。至極抑揚のない声で。




「……へ?」

空いた口が塞がらない、とはきっとこの事を指すのだろう。

それほどまでに朔は一驚を喫していた。

「だから邪魔するなと言っているんだ」

朔が言葉を呑み込めていないと思ったのか、リピートする。

その双眸に迷いはなかった。


朔としては、いくら自殺をしようとしている所に止めに入ろうとも、少しは謝意があってもいいのでは、と心の底では期待していたのだが、その期待を見事に裏切られた気分だった。そう、見事に反したのだ。


その時タイミングが良いのか悪いのか、チャイムが鳴った。いわゆる、予鈴というもの。

それを合図に少女は立ち上がって朔から退いた。

朔はしばし茫然としていて、体への負担が軽くなったことにも気付いていないようだった。


少女が数歩歩んだ所で朔は我に返る。



「あ、あの……」

黒い、艶のある長い髪が背中で揺れ、切れ長の瞳が朔を捉える。


正確には朔の目を。


先を促すかのような視線に朔は慌てて続けた。

「あたしの名前は、望月朔っていうんだ、よろしく」そう言って持ち前の明るさでなんとか笑顔を作ってみせた。


「……あまりゆっくりしていると、次の授業に遅れるんじゃない? サボるのは良くないし」少女はそれだけ言うと、髪をなびかせながら屋内へと戻っていった。


朔はその後ろ姿をボーッと見つめているばかりだった。例え、その姿がドアの向こう側に消えても。



そして後々朔は、あるひとつの重要なことに気付いた。



「――名前、聞いてなかった」


それは屋上で*end

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