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イデアールの夢  作者: シベリウス
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ユーリの真実

僕は、宇宙を夢見る普通の少年だった。それがいつしか自分の仕事になり、最先端宇宙開発の決結晶としてイデアールの開発責任者を任されるまでになった。しかし、時のいたずらが僕を貶めることになる。運命は、2036年の2月。ロシアの行く末を決めることにもなったあの会議であった。


 「2036年問題、ネットワークタイムプロトコルの誤動作がここまでパニックを引き起こすことになろうとは、誰も予測できないことであった」


 会議室の中央に座る、学会の最高権威が重い口を開く。2036年問題とは、コンピュータの時刻同期に使われるプロトコルがオーバーフローを起こし、誤作動を起こしてしまう問題である。時間の誤りはあらゆる科学に波及し、完全情報化社会を構築してしまった全世界に中小規模のパニックを引き起こす原因となった。しかし、待ち受けるのはその先、2038年問題である。


 「合衆国崩壊後の今、来たる2038年問題に対処できるのは実質我々ロシアだけとなった。しかし、この機を狙って情報化社会の覇権を握ろうとしている輩も少なくない」


 2038年にはUNIX環境のシステムがすべて誤作動を起こし、2036年を上回る破滅的混乱を巻き起こす可能性がある。だが、それを未然に防ぎ、完全に社会を手中に収めることができれば、世界統一国家形成も夢ではない。


 「しかし、我々は既にアメリカから亡命してきた有数の科学者たちを使い、IBM5100を用いた新時代を築く準備を進めている。1975年に派遣したタイター氏の帰還が成就すれば、世界は我々のものだ」


 タイター氏というのは、IBM5100開発者の孫で同じくアメリカから亡命してきた人間の一人である。2038年問題解決方法としてIBM5100というコンピュータが必要となり、それを取りに行くためにタイムトラベルをしているというのだ。2000年に書き込みが話題になったのも、彼が一部情報を公開したからである。


 アメリカ崩壊、完全情報化社会、2036年問題、そしてまだ見ぬ2038年問題。僕が生まれたあたりの時代から、人類はより粗暴な進化を遂げているようにしか見えなかった。そして、


 「君たちにも新時代に協力してもらいたいのだよ」


 集められたロシアの科学者たちの前で最高権威はこう言い放った。


 「今日より、全プロジェクトを一時凍結。新世界創世の阻害となる国を排除するために全神経を注ぐこと。祖国が世界の中心となる、その日まで」


 人類は愚かである。正式な声明が出たのは会議の時であったが、研究費の援助停止に端を発した一連の戦争ムードはもう2036年問題発生前から始まっていた。名目が欲しかっただけなのである。ただ僕は空を夢見たかっただけなのに。


 その後の研究所での会議で、僕は対アメリカ用ミサイル開発責任者に抜擢された。しかし、もはやそんなことでしか未来を切り開くことのできない現状に嫌気が差した僕は、いつのまにか会議室を飛び出していた。そして格納庫でのひと悶着の後、国家叛逆罪で拘束されることとなったのである。何も考えられなかった。何もできないまま、時間だけが虚しく流れていった。イデアール発射のその日まで……。


そして、僕の語る物語は最悪の結末を迎える。一日釈放を許された僕は、一直線にイデアールのところへ向かった。とめられないとわかっていても、たった一言言いたかった。


「ごめんな……」


僕のしたかったこと。僕の言いたかったこと。それは謝罪。何も知らないイデアールはおそらく僕の来訪に喜んでくれるだろう。発射にちゃんと立ち会ってくれたと笑ってくれるだろう。でも違う。僕は謝らなければならない。


イデアールがロケットとしてではなく大陸間弾道ミサイルとして、兵器としての任務を請け負う結末に、謝らなければならなかった。


発射直前に、幸運にも僕は間に合うことができた。爆風と轟音が身体に突き刺さる。それでも僕は前に進む。かつて夢を分かち合ったロケットの末路に泣きながら。過ちを背負って旅立たせてしまった自分を恥じながら。


「ごめん……」


機体が地面を離れる。


「ごめんな……」


機体がかつて恋した空へと上っていく。爆弾という絶望を乗せて。


「ごめん……」


空を裂き消えていく姿に僕はそれしか言うことができなかった。

…………。

……。


管制室、研究所の一角で科学者たちは飛び立ったイデアールがアメリカの大地に着弾するまでの制御を行っている。それは、機体が地面に向け最終フェーズの時だった。


「ん?」


管制室内に突如警告音が鳴り響いた。


「どうした!原因を調査しろ!」

「はい!」


原因は軌道ズレによるものだった。しかし、プログラムされた軌道通りに機体はアメリカへと向かっている。


「何が原因なんだ!急いで解析しろ!」

「わかりません!ただ、機体が宇宙に向かって軌道修正を求めています!」

「何ッ!?」


けたたましく鳴る警告音の中、管制室にざわめきが走る。イデアールが宇宙に向かっていないことに気づいたんだ、私たちが兵器化したことを怒っているんだ、とあられもない憶測まで飛び出し、管制室がパニック状態に陥る。


「ブザーを止めろ!進路維持!そこ!喚くな!」

「は、はい!」


まもなく、イデアールはアメリカに着弾し、大地を焼き払うこととなった。そこから、人類は前代未聞の核戦争、第三次世界大戦へと突き進んでいく。だが、その口火を切ったミサイルの開発者はどこに行ったのか。爆発寸前の一瞬の誤作動は果たして何が原因だったのか。それを知る者は誰もいない。


かつて、宇宙に恋をした一人の若者とロケットがいた。空に憧れ常に上を向いて歩き続けた平和主義者の彼と、人類の夢を乗せるはずだったロケット。時代に飲み込まれ数奇な運命をたどった一対の『理想』は、戦火に焼かれ灰となって消えていくのであった。


手に取っていただきありがとうございます。

興味本位でウィキペディアを調べ、興味本位で書き、興味本位で応募した拙い作品です。

割と近いうちに来そうな未来の可能性をある程度リアリティを込めて書いたつもりですが、発想の発端はただ「道具の気持ちを擬人化してみたかった」だけなので細かい設定などはガバガバです。

生温かい目でスルーしてください。


ありがとうございました。

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