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3兄妹、引き受ける

「…で、その頼み事の内容は?」


再び沈黙が落ちたあと、クリスが肝心な部分を訊ねた。


「聞いたあとで断るならそれでいい。私の臣下ではない相手に、無理強いはできないからな」


そう前置きしてから、クラウスは説明を再開した。






話し終えたクラウスが3人の反応を窺うと、彼らは揃って絶句していた。


「やはり、驚かれてしまいましたわね」


くすくすと笑っている妻を一瞥(いちべつ)してから、クラウスは人間達に声を掛ける。


「すぐに決めて欲しいとは言わない。先程も言ったように、断るなら断るでいい。ゆっくり考えてくれ」


「はあ…」


まだ唖然としているアレン達に見送られて、クラウスとリリアナは部屋を去った。






魔王夫妻が立ち去った部屋では、アレン達が顔を見合わせていた。


「どうする?」


「どうするって…」


「うーん…」


クラウスの頼み事とは、このリディア王国で相談役になって欲しい、というものだった。


この国には、人間の国の情報がほとんどないため、アレン達の話は全て貴重な情報になるのだと言う。


中枢に関わることなどない用心棒の話がなんの役に立つのかとアレンは思ったのだが、それを伝えるとあちらこちらを巡る者からでないと見えないものもある、と返されてしまった。


「ここにいれば、衣食住には困らねえけどなー」


「その代わり、自由に動けなくなるかも知れない」


「というか、ほかの人の人の意見がどうなってんのかも分からないわよ」


宿敵であるはずの人間を受け入れることに賛成する者がどれほどいるのか。そもそも、自分達はどんな立場になるのか。


しばらく話し合っていた3人だったが、判断材料が少なすぎてどうにもならない。


結局、あっさりと考えることを放棄した彼らは、明日改めて詳しい話を聞く、ということだけ決めた。






「…あの、もうちょっと用心深くなったほうが」


「なんの話だ?」


翌朝、またもや1人で訪ねてきた魔王に思わず意見したアレンだったが、相手には通じなかった。


「いや、あのですね、王様が1人でよく知らない相手の所に来るもんじゃないですよ。俺達が騙し討ちでもしたら、どうするんですか」


「する気なのか?」


「しませんけど」


「ならいい」


良くはない。良くはないのだが、城の中でクラウスを害する考えなしがそうそういるはずもないし、魔族の長であるからには相当強いはずなので、アレンは忠告するのを諦めて話題を変えた。


「昨日の話の続きですけど、人間をそんなに簡単に受け入れて大丈夫なんですか?」


「会議で話し合ったからな、上層部の意見はすり合わせてある。ただ、ほかの者は驚くだろうから、しばらくは不自由な目に合わせてしまうだろうが…」


「………」


驚くだけで済むのかという疑問はひとまず呑み込み、アレンは次の質問をした。


「ここにとどまったとして、俺達はどういう立場になるんですか?」


「食客という扱いになる。私の臣下ではないし、客人とも違うからな」


「要するに、居候ですね」


ユリアが容赦なく言い換えた。


「ま、まあ、そうとも言う」


兄妹は、なんとも言えない顔になった。


武闘大会の知らせを見た時には、一攫千金を目指したが、もともとは地道に生活費を稼いできた3人である。"居候"という立場は、居心地が良さそうだとは思えなかった。


「居候…」


「居候かあ」


「居候ねえ」


3人の気持ちが断る方向に動き始めたのを見て取ったらしいクラウスが、慌てたように言う。


「食客が嫌ならば、私が個人的に雇う、ということにしてはどうだろうか。対外的には、食客として扱うことになるが」


「雇うって…、用心棒を?」


言外に、"王様なのに?"という疑問が込められていたが、クラウスは気付かなかったらしく、見当違いの返事をした。


「そういうことになるのか。そちらの戦力を当てにするつもりはないのだがな」


「そういうことじゃ…、まあいいや」


ごちゃごちゃと考えているのが馬鹿馬鹿しくなった3人は顔を見合わせ、アレンが代表して答えた。


「そういうことなら、ひとまずお世話になります」


「代金は要相談ということで」


ユリアがしっかりと付け加える。


こうして、魔王と勇者という前代未聞の雇用関係が成立したのであった。

友情関係を築く、という予定で始めた小説だったのですが、どこをどう間違ったのか雇用関係になってしまいました。

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