3兄妹、招かれる
"魔王の許に行く"という目標を達成したので、さっさとリディア王国を出るつもりだったアレン達兄妹だったが、何故か王城に招かれることになった。
「いやほんとなんでだろうな」
「アレン兄さんが簡単に頷くからよ」
「なんにも考えねぇで頷いただろ」
「…2人が酷い」
即答されてアレンは落ち込んだ。
「てかさ、一応敵方なやつをそんなに簡単に国の中心に連れて行っていいのかよ」
しょげた兄を無視し、クリスが首をかしげた。
「信用されてるわけじゃないだろうけどな」
立ち直ったアレンが答えた。
3人は馬を借りていたが、周りは兵士達で固められている。
「信用してないならさっさと追い出してほしいわ」
ユリアは不機嫌だ。その矛先は、今のところ長兄に向いている。
「兄さんがぼうっとしてるから」
「わーるかったよ!」
兄妹喧嘩が勃発しかけたその時、視界が開けて街が見えてきた。
「おー、きれーな街じゃん」
クリスが感心した顔をする。その街の建物には白い石が使われていて、あちらこちらに木が植わっていた。
アレンとユリアも、一旦喧嘩を中断して、前方の街並みを眺めた。
街の中に入って宿泊するのかと思いきや、一行は役所らしき大きな建物に入っていった。兵士の大半とはそこで別れ、魔王と数人の兵士、将軍らしき壮年の男と共に、大きな魔方陣が描かれている部屋に通される。
「これってもしかして」
転送魔法とかいうもの?とアレンが言おうとしたところで、魔方陣が光り、目の前が真っ白になる。次の瞬間、彼らは見覚えがない部屋にいた。…どうやら、転送魔法とかいうもの、だったらしい。
ちなみに、現在の居場所は先程の部屋よりも広くて豪華だった。
「「「おー!」」」
アレン達は思わず歓声を上げる。
と、いきなり声を上げたせいで、魔王以外の全員に警戒されてしまった。若い兵士にいたっては、ちらっと怯えた顔を見せたので、3人はわりと傷付いた。
何を考えているのか分からない魔王と、警戒心丸出しの将軍と部下達、そして居心地が悪くて仕方ない人間3人。どことなく緊張感を漂わせた一行は、重厚な雰囲気の廊下を進んでゆく。
やがて、謁見の間らしき大広間に着いた。
今さら謁見も何もない気がする、とアレンはちょっと思ったのだが、どうやらほかの人々に引き会わせるためらしい。
広間には、既に大勢が集まっていた。
姿は様々だが、衣服からすると、総じて身分が高いことは間違いない。
後ろにいる弟妹達の足音が躊躇いがちになる。
そりゃそうだよな、とアレンは心の中で溜め息をついた。根っからの庶民である彼らは、王侯貴族というのは行事のおりに遠くから眺めるものだと思っている。
用心棒の仕事で下級貴族に関わったことはあるが、それより高い身分だと、魔王討伐を頼んできた王と宰相に1回会ったのみである。間違っても、国の上層部がずらずらと並んでいる広間などには関わるはずがない――はずだった。
こんな状況になるなら、何が何でも頼みは断るべきだった!と改めて後悔した3兄妹であった。