3兄妹、旅に出る
その国は、険しい山脈を越えた先にあった。
「ここが…、魔王が治めるリディア王国…」
故国の武闘大会で優勝し、"勇者"として旅立った用心棒・アレンは、眼下に広がる景色に青灰色の瞳を細めた。
「長い旅だったなぁ」
隣に立った弟が呟く。2人はこれまでのこと思い返そうと
「感慨に耽るのは後回しにして。暗くなる前に、今夜寝る所を探すわよ」
――思い返そうとしたが、最後の1人にさっさと遮られた。
「ユリア…、お前はほんっとうに空気が読めないな」
「アレン兄さんとクリス兄さんが抜けてるから私がこうなったのよ」
3人は、言い争いながら歩いていく。
――締まらない3兄妹だが、これが魔王討伐御一行である。
もともと用心棒として、旅暮らしをしていたアレン・ディクスとその弟妹が、"勇者様とその仲間達"になってしまったのには理由があった。
話は、3ヶ月ほど前に遡る。
その日、ふらりと王都にやって来た3兄妹は、あちらこちらに貼られている紙を見付けた。
そこに書かれていたのは、国王主催の大きな武闘大会の知らせ。
勝ち進めば、王都騎士団に入ることもできるということだが、3人の目が釘付けになったのはその下の文。
「し、賞金1000000セル…」
クリスがごくりと唾を飲み込んだ。
普段1日500セルほどで生活している彼らにとっては、途方もない金額である。
「これは、出るしかねえな。兄さんが」
「こら」
アレンが睨むと、弟は肩を竦めた。
ユリアはどう思っているかと顔を見ると、妹は顔を顰めていた。
「これ、やめたほうがいいわよ。こんな大金胡散臭い」
慎重な彼女らしい意見だ。
「そうかぁ?王様が出す賞金ならこんなもんじゃね?」
対するクリスは呑気である。
「クリス兄さんはお気楽すぎよ」
「お前は考えすぎだ」
「おい、こんな所で喧嘩するなよ」
弟妹を諫めながらも、しばらく考えていたアレンだったが、
「決めた。出場する」
結局賞金の誘惑には勝てなかった。
「結局、あの賞金につられて、こんなことになったのよね」
はぜる火を見ながら、ユリアが溜め息をつく。
3人は、山の中で野宿をしていた。
「兄さんが賞金につられなければ…」
「悪かったって」
その日、さっさと優勝してしまったアレンにクリスとユリアが会いに行くと、何故か3人そろって王宮の中に呼ばれたのである。
この時点で、ユリアの額に皺が寄り始めていたし、アレンも不安になり始めていた。
クリスだけは呑気な顔をしていたが、玉座の間まで通され国王に出迎えられて、さすがに顔が引き攣った。
「魔王討伐の任を与える、って一方的に言われたもんな」
「一攫千金なんて狙わけりゃよかったよ…」
3人は断ろうかとも思ったのだが、魔王の悪行の数々を涙ながらに言い立てられて、魔王の許に行く、と約束してしまったのである。
「まあ、1000000セルはちゃんといただいたけどね」
泣き落としには負けたが、賞金はきっちり貰ってきた3人であった。