表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/16

闊歩

「ひどいめにあったな」


何とか大蛇を捕獲した高坂達は、学園の地下にある部室でくつろいでいた。


「部長が、大人しくしてれば、すぐに捕まえられましたよ」


部室の壁に木刀を立て掛け、その横で腕を組む緑はため息をついた。


「…」


そんな2人の会話を背にしながら、キーボードに指を走らせる舞は、ディスプレイに次々と学園の様子を映していた。


学園に仕掛けられた監視カメラは、トイレなどプライベート空間を除いて、あらゆるところにあった。


しかし、舞個人が無断で仕掛けた監視カメラは…ぎりぎりまでをとらえることができた。


いつもよりも、速い指さばきでキーボードを打つ音に、高坂は眉を寄せた。


「何がおかしなことがあるのか?」


後ろからの高坂の質問に、舞は指を止め、顎に手を当てた。


「別に、ないんですが…」


舞は顎から手を離すと、キーボードを弾いた。


すると、何かに驚いている輝の映像が映った。


「…」


しばらく考え込んだ後、舞は口を開いた。


「馬鹿はどこですか?」







同時刻。


さやかと転校生が去った理事長室を訪れる男がいた。


コンコンと二度ノックをすると、男は理事長室に入った。


「失礼します」


一礼し中に入ってきた男を見て、黒谷は眉を寄せた。


「どちら様で?」


その言葉を聞いて、男は頭を下げながら、口許を緩めた。


「いやですね。理事長」


そして、男が顔を上げた時、黒谷の表情は一変した。


「た、橘…先生」


「そうですよ」


男は笑顔をつくり、


「今日から赴任してきた…橘アヤトですよ」


ゆっくりと足を進めた。


「そ、そうでしたわ。橘先生!」


黒谷も笑顔になった。


「理事長…。確認事項がございまして…」


アヤトは、黒谷の目を見つめ、


「私が担任となるクラスに…転校生は来ますね」


強い口調で訊いた。


「はい」


黒谷は頷いた。


「それは、男ですか?女ですか?」


アヤトは、目に力を込めた。


「両方です」


黒谷は、淡々とこたえた。


「…やはり」


アヤトは下唇を噛み締めると、目を細め、


「男を別のく」


黒谷に命じようとした時、理事長室にノックの音が響いた。


「失礼します」


ドアが開き、中に入ってきた女生徒は、机の向こうでぼおっとしている黒谷を目にし、


「理事長。朝早くすいません。先日、議会で決まったことをご報告に」


少し首を傾げながらも、話を続けた。


「え!あっ…生徒会長」


黒谷は目をパチパチさせ、目の前にいる女生徒を確認し、


「橘先生は?」


理事長室内を見回した。


「橘先生?」


女生徒は、眉を寄せた。


「新任の先生ですよ」


「新任の先生…?」


女生徒は、黒谷の言葉を繰り返した。




「生徒会長か…」


いつのまにか理事長室を出て、廊下を歩くアヤトは、息を吐いた。


「彼女は勘がいい。接触するのは、この学園に馴染んでからだ」


そして、廊下を曲がると、足を止めた。


「何とか…間に合ったか」


呟くように言うと、登校時間を迎えようとする朝の空気を吸い込んだ。




「ここか…」


校舎の前に来た司は、慣れない学生服の襟を正した。


「どうなるのか」


司は深呼吸をすると、背を伸ばした。


「上手くやっていけるかな」


「止めなければならない」


アヤトは歩き出した。


「クラスに馴染めるか?転校なんて初めてだからな」


司は、校舎を見上げ、


「最初が肝心だな」


唾を飲み込んだ。


「絶対に会わせてはいけない」


アヤトは、前を睨んだ。


「でも、楽しみだな」


緊張しながらも、期待に胸を膨らます司。


対照的に殺気にも似た雰囲気を醸し出す…アヤト。


そして――。


「学園の案内は、これで終了よ」


生徒達が来る前に、学園の主要な場所を案内したさやかは、転校生に顔を向けた。


「わからないことがあったら、あたしに言ってね。基本的には、新聞部の部室にいるから」


「はい」


転校生は頷いた。


「…」


屈託のない転校生の笑顔に、さやかは無言で微笑みながらも、心の中で、黒谷が告げた言葉を思い出していた。


(彼女は、パンドラの箱です)



さやかは数秒だけ、転校生を見つめ、パンドラの箱の意味を探った。


(そして、彼女を狙う者が現れるはずです。その者から彼女を守ってほしいのです)


と黒谷に言われた時、さやかは尋ねた。


(何者かに狙われているなら、警察か何かに頼んだ方がいいのではないですか)


さやかの言葉に、黒谷は首を横に振った。


(この学園でなければ、いけないのです。何故ならば、この学園は…)




「ところで、わたしのクラスはどこになるのでしょうか?」


転校生の言葉に、さやかは我に返った。


「ク、クラスは…担任の先生が案内してくれるようだから、職員室に行きましょう。でも、一応…場所は言っておくわ」


さやかは、廊下の窓から隣の校舎を手で示し、


「中央館の二階…Bクラス。そういえば確か…同じクラスに、あなたの他に転校生が来るらしいわ」


転校生に笑顔を見せた。


「わたし以外に…転校生ですか。お会いするのが楽しみです」


転校生は、さやかに微笑んだ。


「そうね。どんな子かしら」


さやかは、転校生を職員室に案内する為に前を向いた。




その頃、職員室に自分の席を確保したアヤトは、目を瞑り、じっと座っていた。


(来る)


気配を察知したアヤトは、ゆっくりと目を開けた。


(例え、隠そうが…俺にはわかる)


職員室の扉が開き、さやかと転校生が入ってきた。



(瑞穂)


アヤトは、さやかのそばにいる転校生を見つめた。


「失礼します」


さやかが挨拶した時には、2人の前に、アヤトが立っていた。


「水樹瑞穂さんですね。あなたの担任になる…橘です」


アヤトは、優しい笑みをつくった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ