幕切れ~迎えた明日
「水樹さん。まだ何も君のことを知らないけど…。俺は君のことが好きなんだ」
突然の告白に、涙を流しながら、瑞穂はこたえた。
「わたしがいたら…この星の生き物が死んでしまう。確かに、わたしは苛められて、幸せではなかったかもしれない。だけど…誰かを不幸せにしたくない」
瑞穂の言葉に、司は彼女をぎゅっと抱き締めた。
「もっと君を知りたい。不幸せというならば…これからは幸せを」
「わたしは、消えるわ。今は、あなたの光であいつを抑えているけど…この星にいる限り…あいつは現れ、再びあいつらを呼ぶわ!」
「わかったよ」
司は、瑞穂をきつく抱き締め、
「俺がやるべきこと…」
二人を包む光を強くするとそのまま…空に向けて飛び出した。
「どこまで行けるかわからない。だけど、君が君でいられるならば…このまま2人で、この星を離れよう」
「か、神原君?」
「そして、君のことをもっと知りたい。大丈夫!時間ならあるさ。ずっと2人で…誰も傷付けないところまで行こう」
「神原君…」
瑞穂は少し躊躇いながらも、司の腰に手を回した。
光の矢と化した2人が飛び立っていくところを、宇宙の無をすべて打ち消したアルテミアが空中で見送った。
「ハハハハ」
アヤトは仰向けになりならば、二人を見送った。
「やりやがったな。まさか…この星から離れるとはな…。参ったぜ…」
小さくなっていく光に、右手を伸ばしながら、アヤトはフッと笑った。
「幸せにな」
そして、アヤトの右手が地面に落ちると同時に、彼のそばに来た女がいた。
「訊くのを忘れていたわ。彼女を覚えているか」
女は、沙知絵であった。
白衣のポケットに両手を突っ込みながら、アヤトを見下ろす沙知絵の後ろに、空中からアルテミアが着地した。
「今回は、何を企んでいるの?リンネ」
アルテミアの問いに、沙知絵は肩をすくめて見せた。
「あたしが、この世界に来れたのも、あなたがここにいたからよ。あなたの魔力を感じれたから」
「たまたまよ」
沙知絵こと…炎の騎士団長リンネは笑った。
「…」
アルテミアはそれ以上訊かずに、リンネの足下で生き絶えているアヤトに目を落とした。
「この男は?」
「先程、宇宙に飛んでいた男よ」
「?」
「でも、人間って面白いわね。たった一人の男の行動で、世界が変わることもある。今は、救われても…また誰かによって、滅びるかもしれない」
リンネが指を鳴らすと、アヤトとマスター、3人のドール達の体が燃え出し、消えた。
「彼らはこの時代には、いてはいけない存在」
そう言うと、リンネは歩き出した。
アルテミアはリンネの背中を見送りながら、話しかけた。
「あなたでも、できたはずよ。やつらを消すことわ」
「駄目よ」
リンネはクスッと笑い、
「あたしは、誰かさんみたいに、呼ばれてなかったから」
振り返り、アルテミアにウィンクすると、その場から消えた。
「喰えない…やつ」
アルテミアは呆れたように言うと、再び空を見上げた。
「どうする?赤星。しばらく故郷に残るか?」
「いや…」
ピアスからの声は、申し出を断った。
「わかったわ」
すると、アルテミアは翼を広げると、空に飛び上がった。
「戻るか…。ブルーワールドに」
自分の世界に戻っていくアルテミアを見送りながら、真琴は生き残った仲間を引き連れて、学園を後にした。
もうすぐ…夜が明ける。
死闘が繰り広げられた学園に静けさが戻ったが、 それは一時のことに過ぎない。
生徒達がやってくるからだ。
「それにしても〜何だったんでしょうね」
放課後、部室に集まった情報倶楽部の面々。
「転校生2人はまた、転校生したみたいですし…昨晩会ったやつらは、何者なんでしょうね」
ソファーに座り、呑気な言葉を吐く輝を、部室の壁にもたれながら高坂は笑った。
「何もなかった…。それでいいんだろ?」
そして、じっと輝を見つめた。
「な、何ですか!部長」
高坂の視線の熱さに、輝は思わず顔を背けた。
学園は、いつも通りの日常を終えようとしていた。
アヤトが死んだことにより、本当は来るはずだった新任教師が違和感なく、授業をしていた。誰もそのことに気付くことはなかった。
そして、屋上についた九鬼を、包帯を巻いた…理香子と中島が笑顔で迎えた。
「パンドラの箱は開きましたが…希望は残されたのでしょうか?」
破壊された理事長室の隣で、さやかは黒谷と話していた。
「さあ…それはわかりません。しかし、今日が来て、明日が来る。それこそが、希望ではないでしょうか」
そう言って微笑む黒谷を見ると、さやかは何も言えなくなった。
ただ安堵の息をつくと、黒谷のもとから離れた。
神原司のことは、知り合いと少し旅に出たと、真琴が家族に伝えた。
姫百合は納得しなかったが、母親である綾女はなぜか嬉しそうであった。
「多分!好きな子とよ」
きゃきゃと騒ぐ綾女を見て、姫百合は深いため息をついた。
「う〜ん!いい朝!」
再び来た明日…今日という日の朝陽を浴びながら、七瀬加織は目覚めた。
大きく背伸びをすると、窓を開けた。
いつもと変わらない朝であるが、清々しい朝だ。
「どうしてるかな?司」
加織は遠くを見つめた。
「今度、手紙でも書こうかな」
そんなことを考えるだけで、自然と笑みが出た。
赫奕のエトランゼ
(天空のエトランゼ I Love Tomorrow編)
完。