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叶った願い、叶えた思い

「裏切り者が!」


瑞穂とアヤトの周りを、3人のドールが囲んだ。


「何の真似だ?やはり彼女を守るのか?」


マスターはすぐに立ち上がると、アヤトを睨んだ。


「違う!これは俺のけじめだ!」


アヤトはマスターに向けていた手を、振り向き様…後ろに立つ瑞穂に向けた。


「先生…」


振り返ったアヤトの目に、瑞穂の涙が映る。


「恐い…」


「な」


「すべてを憎みそうで…恐い…。助けて…」


「ば、馬鹿な!」


絶句するアヤトの耳に、別の方向から声が飛び込んできた。


「先生!やめろ」


声の主は、司だった。


「お、お前がどうしてここに?」


「水樹さんから離れろ!」


司の登場に戸惑うアヤトに、隙ができた。


「先生…。邪魔よ」


瑞穂の手から黒い刃が生えると、アヤトの体を貫いた。


「く、くそが!」


アヤトは血を吐きながらも、瑞穂の胸に手を当てると、至近距離から光の槍を放った。


瑞穂の体を貫く槍。


「水樹さあああん!」


貫く二つの刃を見た瞬間、司の中で何かが弾けた。


「何!」


巨大な光の筒が、地上から夜空を貫いた。その源になるのは、司だ。


「裏切りのナイト!?」


マスターは、司の変化に目を見開いた。


「や、やはり…歴史は変わったのか?」


瑞穂の前から、テレポートしたアヤトは…皆から少し離れた場所に生える木にもたれかかると、そのまま崩れ落ちた。


「目覚めた理由はいっしょだったな。あいつを守れなかったから」


アヤトはふっと笑い、


「しかし、もう手遅れだ。瑞穂は死んだ」


貫かれた傷口に手を当てた。


「水樹さあああん!」


叫ぶだけで、力の制御ができない司を確認すると、マスターは瑞穂に目をやった。


「いや、まだだ」


そして、ゆっくりと歩き出した。


「まだ死んではいない」


マスターは瑞穂に近付いていく。


「完全に消滅させなければいけない。こいつが、宇宙の意思と交信する前に!」


マスターの姿が変わった。黒髪が白髪になると、突きだした指先に凄まじい光が集まり出す。


「我が神の光で!貴様を消滅させる!」


「マスター!」


3人のドールの歓喜の声を聞きながら、マスターが指先を瑞穂に突き刺そうとした瞬間、空に光がなくなった。


まるで、人里離れた山奥のように暗くなる辺り。


しかし、山奥で見れるはずの満天の星空はそこにはなかった。


「ば、馬鹿な!」


マスターは攻撃を止め、空を見上げた。


学園を中心とした数十キロの空に、黒い物体…いや、物体と言えるのか…黒い何か上から染み出していた。


「宇宙が落ちてきただと!第一インパクトは、数年先のはずだ」


唖然とするマスターに、ゆっくりと立ち上がった瑞穂が口を開いた。


「間抜けが!わたしが交信しなくても、危険な光が二つも発生したのだ!彼が、この星を危険と判断するのは当然だ」


「二つだと!?」


マスターははっとし、自分の指と力をセーブできない司を交互に見た。


「御苦労様」


せせら笑う瑞穂に、マスターは指先を向けた。


「言っておくけど、わたしを殺しても無意味だわ。彼は、送り込んだわたしの意思を感じ、この星を滅ぼすか判断する。だけど!わたしの反応がなくなっても、彼はこの星を危険と判断する!」


「何!?」

「何だと!」


木にもたれながら、傷口を押さえるアヤトとマスターが同時に声を上げた。


「この子は!この学園に来る前!ずっといじめられていた!だから、人間を憎んでいたのよ!信じられるのは、動物だけ!」


「そ、そんな…」


「わたしをどうにかしたかったなら…生まれる前にすべきでしたわね」


瑞穂の腕から再び伸びた闇が、絶望するマスターを貫こうとした瞬間、


「マ、マスター…」


アフロディーテが盾になるように飛び出し、その刃に貫かれた。


「アフロディーテ!」


我を取り戻したマスターが、後ろから倒れそうになるアフロディーテを抱き止めると、瑞穂を睨んだ。


「例え!我々が来た意味が、無意味であろうと!貴様を殺す!」


「マスター…」


怒りに震えるマスターの頬を、アフロディーテが震える手で触った。


「闇を…無を…払って下さい…この世界を。その後で…パンツをみ、見せてあげますから」


無表情なアフロディーテが、優しくマスターに笑いかけた。


そのぎこちない笑顔が、アフロディーテの初めてで最後の表情となった。


「ア、アフロディーテ…。最後まで…馬鹿なことを」


マスターはアフロディーテを、地面に横たえると、瑞穂を睨み付けた。


「マスター!」


アカツキとカミューラが、マスターの前に来た。


「マスターは、宇宙が広がる前に、排除してください。我々で、こいつを始末します」


2人の言葉に、冷静になったマスターが空を見上げた。


「今ならば、間に合うか」


マスターの脳裏に、宇宙が大気を被う…未来の姿がよみがえった。


そして、そこから染み落ちた無によって、人類の半数以上が無抵抗に死滅した。


「今ならば…犬神の力で!」


空に飛び立とうとするマスターに向かって、刃が伸びて来たが、カミューラが念動力で止めた。


「だが、無駄よ」


瑞穂がにやりと笑うと、空を被う宇宙から、人間の姿をした闇のような無が、数え切れない程、地上に向けて落ちてきた。


「な!」


絶句するマスター。


「さあ〜始まりよ」


両手を広げた瑞穂の全身から、刃が放たれ、マスター達を襲った。


「そうはさせない」


「うん?」


どこからか聞こえてきた声に、瑞穂を上に目をやった。


校舎の向こう…フェンスの上、体育館の屋根に無数の人影があった。


「月の女神の反応が消えた時から、我々は動いていた」


体育館の屋根に立つ香坂真琴が、周りにいる者達に命じた。


「貴様達の好きにはさせない!」


すると、人々の姿が変わった。


魔物のような異形の姿に。



「魔獣因子か…」


胸から流れる血を超能力で止めながら、アヤトは顔をしかめた。


「それではやつらに勝てない。魔獣因子の力はいわば…負の力。闇に近い。だからこそ、その力を…ミュータントとして」


染み落ちてくる無に、襲いかかる魔獣因子を発動させた者達。


「このまま…終わるのか?また同じように!」


アヤトは、力を放つだけの司を見つめた。


その光に導かれて、無がやって来たが…彼らを魔物の姿をした者達が迎え撃つ。しかし、魔物達は無に触れた瞬間、手が消滅した。


「ま、魔物か…」


その姿を見た瞬間、アヤトは思い出した。


ブロンドの女神を。


そして、情けなくも叫んだ。


「もし!まだいるならば!助けてほしい!この世界を!この星を!」


アヤトの涙が、地面に落ちた時…奇跡は起こった。


(お前の願いは、届いた)


その声が頭に響いた瞬間、アヤトは目を見開いた。


理事長室がある場所から、一筋の光が天に向けて、放たれたのだ。







「ば、馬鹿な…」


染み落ちた無達を吸収して力を増していく…瑞穂を見て、マスターは片膝を地面につけた。


その前には、力尽き…絶命したカミューラとアカツキが倒れていた。


「わたしの計画が間違っていたのか?過去に来ても…何も変わらないというのか…」


「そうよ」


瑞穂から放たれた刃が、マスターの胸から背中を貫いた。


「この星は滅びるのよ」


瑞穂が満足気に頷いた時…新たなる光が、天に出現した。





「こいつらは、何だ?」


光は、無の下で人の形をつくる。


「わからない。だけど…」


その強烈な光に導かれて、無達が一斉に襲いかかってきたが、触れる間もなく…消滅した。



「な、何だ?あれは!あの光は!」


絶句する瑞穂と違い、胸を貫かれたマスターは喜びの声を上げた。


「て、天空の女神!アルテミア!」




「とにかくだ」


光は、天使の姿に変わった。


「こいつらを排除するぞ」


「そうだな」


天使の耳についたピアスからの声が、頷いた。


「いくぞ」


どこからか飛んできた二つの物体を掴み、十字にクロスさせると、光輝く剣に変わった。


「シャイニングソード!」


剣を振るいながら、天使はさらなる上空へと飛翔した。




「天空の女神!アルテミアが!」


マスターは自らの光る手で刃を抜くと、アルテミアに向けて、手を伸ばした。


「死ぬ前に…我の力を貴女に!」


すると、一瞬で上空からマスターの前に、アルテミアが下りてきた。


「わかった」


アルテミアは、マスターの胸から流れる血を指先で拭うと、ぺろっと舐めた。


「女神よ…。この世界を救ってくれ…。無が包み込む前に…」


アルテミアが血を舐めたことを確認すると、マスターの髪が黒に戻り…そのまま、眠るかのように、死へと旅立った。


「アルテミア」


ピアスからの声に、アルテミアは暴走している司に気付いた。


「女神よ。こいつは、俺に任せろ!」


アヤトが叫んだ。


「何者だ!お前は!」


瑞穂が、刃を伸ばしたが…アルテミアの光の前に消滅した。


ギロッとアルテミアは、瑞穂を睨んだ。


「アルテミア」


しかし、ピアスからの急かす声に頷くと再び、空に向けて飛び上がった。


「あの闇を消すよ」


「了解」


アルテミアはシャイニングソードの切っ先を天に向けると、そのまま無の闇に突き刺した。






「闇が晴れていく…」


体育館の屋根に立つ真琴は、まるで朝日が一瞬で夜を消すかのような光景に見とれていた。


「これが…神の光」




「どうしてだ!異世界との道は閉じたはず」


浸食した空が元に戻っていく様子に、瑞穂は唇を噛み締めた。


「今だ」


アヤトは、力を放つだけの司のそばにテレポートした。


「神原司!」


右手で司の頬を殴ると、


「お前は何がしたい!お前は!それを思い出せ!」


傷口を押さえながら、瑞穂の方に体を向けた。


(今ならわかる!)


そして、ゆっくりと歩き出した。


(俺が好きになった…女は、すぐに消えた。しかし、内面が変わっても同じだと…俺は疑うことなく、初恋の為に最後まで戦った)


瑞穂のそばまで来ると、微笑みかけた。


「水樹君…。まだ本当の君が残っているなら…叫べ!助けてくれと」


「何を言っている!」


瑞穂の体から飛び出した刃が再び、アヤトを貫いた。


しかし、アヤトは動かない。


「今は、救われるかもしれない。しかし、女神が去った後、君は再び無を呼ぶのか?そうすれば、人間だけでなく…君が好きな動物達も」


「戯れ言を!」


瑞穂の体から飛び出した無数の刃が、アヤトの全身に突き刺さった。


「本心を言え!宇宙なんていう他人に惑わされるな!」


「き、貴様!」


叫んだ瑞穂の瞳から、涙が流れた。


すると、喉の奥からか細い声が聞こえてきた。


「た、助けて…」


その声を聞いた瞬間、アヤトは笑顔をつくり、深く頷いた。


(そうだ。君は、優しい女の子だった…)


「この星は危険!滅びるんだ!」


瑞穂は三度、刃を放った。


(俺自身が、忘れていた…。初恋の相手を)


アヤトは微笑みながら、その場で崩れ落ちた。全身を傷だらけにしながら。


「そうだ!お前の言う通りだ!女神が異世界に帰った後、何度でも我々は!」

「そうはさせない」


アヤトが地面に倒れたと同時に、前に出てきた者がいた。


司だった。


「お、お前は!」


瑞穂は全身から刃を放ったが、司の手から放たれた光によってかき消された。


「な!」


絶句する瑞穂のそばまで、一瞬で移動すると、司はそのまま彼女を抱き締めた。


司の光が、瑞穂の全身を包んだ。


「温かい…」


その瞬間、瑞穂の表情が変わった。

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