究極魔法! ピンクフラワー!
シリーズ設定しておきますが、別に前作を読まなくとも大丈夫なはずです。
「何でパンイチなんだ⁉」
国王が叫ぶ。
叫ぶ先には、幾人ものパンイチの男達がボディビルのポージングをしていた。
「陛下! これはボディビル用のパンツ! ビルパンです!」
「だからどうした⁉」
国王が再度叫ぶ。
本当に、だからどうした、という話である。
ビルパンなら許されるというものではない。
さっさと服を着ろ。
「仕事中だぞ⁉ いつもパンイチなのか⁉」
「当然です!」
何が当然だというのか。
一体、何の仕事をしていたらパンイチになるのだ。
「我ら第六騎士団! いかなる時も身体を鍛える事を忘れません!」
「常にパンイチでいる必要はないだろう⁉ 苦情が来ているのだ!」
騎士団が身体を鍛えるのは職務の内かもしれんが、流石に常にパンイチなのは意味が分からない。
最早、筋肉を見せびらかしたいだけとしか思えなかった。
「しかも! 第六騎士団は筋トレしかせんから、全騎士団中最弱ではないか!」
何のための筋肉なのか。
騎士団のくせに軍事訓練をしないのはどうかと思う。
「いざという時、この国の最強の矛となり、盾となる為に筋トレは欠かせません!」
「せめて武芸の訓練をしろ! お前達、馬にも真面に乗れんではないかっ!」
それは酷い。
そこまで筋肉特化だと、軍事面で役に立つのか極めて疑わしい。
「筋トレこそ至高! 筋肉があれば、大概の事は解決できるのです!」
「それなら、その筋肉で書類仕事もしろっ! 余が貸し出した事務官が居なければ、真面な報告書すら上げられんだろう!」
清々しいまでの脳筋ぶりである。
本当に筋トレしかしていない様だ。
「書類仕事など、筋肉に関係ないではないですか!」
「仕事だ! 筋肉から離れろ!」
そう叫んで、国王が荒い息を吐く。
どうやら叫び疲れた様だ。
まあ、ここまでツッコミ通しだと、息も切れるというものだろう。
「しかし! 筋肉を裏切れません!」
「……報酬を貰っておきながら、仕事をせずに筋トレだけしているのは国への裏切りだぞ」
頭痛でもするのか、表情を歪めながらそう言い、国王が深々と溜息を吐く。
これ以上無いくらい深い溜息だった。
「ならば! ならば、我々にどうしろというのです⁉」
「仕事をしろ」
深い疲労を滲ませた声で国王が言う。
極めて正論だった。
だが、第六騎士団の面々は納得できない様な面持ちだ。
正直、そんな表情を浮かべられる神経が分からない。
「……とりあえず、今日は人に会ってもらう」
国王が絞り出す様な声で言う。
「? 誰ですか?」
そんな疑問の声を無視して、国王が背後に手招きする。
すると、誰も居なかったはずの空間から、滲み出る様にして一人の女性が現れた。
「森に住まう魔女殿だ」
魔女と言われた女性が国王のすぐ隣まで進み出る。
魔女の顔には不敵な笑みが浮かんでおり、それが、何処か不気味な印象を与えていた。
「これから、魔女殿の魔法を受けてもらう。それに耐える事が出来れば、お前達の筋トレを認めてやる」
「なんと⁉」
「余の命に素直に従っておれば、このような真似をせずに済んだのだがな……」
国王は、全てを諦めた様な表情だった。
まあ、国を守る騎士団がこの有様では仕方のない事だろう。
「どうします? 誰が私の魔法を受けますか? ……ああ、陛下の命に従って、逃げても構わないのですよ」
挑発的な魔女の言葉に、一人の男が前に出る。
先程まで国王と話していた男だった。
「第六騎士団長である私の筋肉の前には、どんな魔法も無意味!」
そう言って、第六期団長が胸を張る。
仕事もしていないくせに大した自信だった。
そんな第六騎士団長に魔女は冷笑を向けている。
「では、覚悟なさい」
「フッ。我が筋肉ではじき返して見せよう!」
第六騎士団長の言葉を聞くなり、魔女が手に持った杖を掲げる。
そして、呪文を唱えると、魔女の身体を桃色の光が包み込んだ。
「喰らいなさい! 究極魔法! ピンクフラワー!」
その声と共に、魔女の身体を包んでいた光が杖に集まり、一筋の光となって第六騎士団長へ放たれる。
そして、その光を、第六騎士団長はダブルバイセップスで迎え撃った。
「フハハハッ! 痛くも痒くもないぞ!」
桃色の光に包まれながら、第六期団長が高らかに笑う。
その表情は歪む事なく、言葉通りに何の痛痒も感じていない事が見て取れる。
魔女が自信ありげに放った魔法だというのに、まさかのノーダメージである。
そして、暫しの時を経た後、魔女の放っていた光が消える。
「賭けは私の勝ちですな!」
第六騎士団長が誇らしげに言い放つ。
実際、第六騎士団等の身体には傷一つない。
魔女の魔法が、何らダメージを与えていない事は確かだった。
「フフフ……」
魔女が静かに笑う。
静かだが、何処か嘲りを含んだ笑いだった。
「誰が、物理的ダメージを与える魔法だと言いましたか?」
そう言って、魔女が再び冷笑を浴びせる。
どうやら、物理的攻撃力を伴う魔法ではなかったらしい。
ならば、どんな魔法だったかというのが問題だ。
「ご自身の身体を良く見下ろしてみなさい」
魔女の言葉に、第六騎士団長は訝し気な表情で自身の身体を見下ろす。
そして、僅かな時間の後、その表情が驚愕に染まった。
「なっ……⁉ これは……!」
「だ、団長!」
「何という事だ!」
第六期団員達が口々に驚愕の言葉を叫ぶ。
皆の視線は第六騎士団長の身体の一点に注がれていた。
そして、第六騎士団長が叫ぶ。
「私のTKBがピンク色に⁉」
そう、第六騎士団長のTKBが桃色になっていた。
染料か何かを塗ったとか、幻覚だとかでは断じてない。
根本的にTKBが桃色になっているのである。
「フフフ……。これが、私が生み出した究極魔法、ピンクフラワーです」
魔女が得意げに言う。
得意げに言っているが、何の目的があって生み出した魔法なのか理解しがたい。
そして、究極魔法と言うには、何と言うか、言葉では言い表せられない釈然としない何かがあった。
「これで貴方は、どんなに筋肉を鍛えても、皆の視線はTKBに向かう事になるでしょう……」
それは……、まあ、その通りだろう。
黒光りする筋肉の中で、一対の鮮やかな桃色が存在していたら、嫌でもそちらに視線が吸い寄せられる。
「一応、言っておきますが、貴方のTKBには絶対防御の魔法効果もかかっています」
「何っ⁉」
「変色させようとしても、染料で塗りつぶそうとしても無駄です。貴方のTKBは全てをはじき返します。絶対無敵のTKBです」
嫌すぎる。
絶対無敵の桃色TKBとか意味が分からない。
「年老いても貴方のTKBは桃色のままです。しかも、絶対防御は永続します」
「それでは……⁉」
「……そうです。貴方がお墓に入っても、貴方のTKBは桃色のままに残り続けるのです」
魔女の言葉に、第六騎士団長がガックリと膝をつく。
そして、絶望に染まった表情で叫んだ。
「私の黒ずんだTKBを返してくれ!」
別に良いだろ。それくらい。
嫌なら大人しく服でも着ていろ。
「黒ずんだTKBを返してほしくば、服を着て、武芸の訓練をし、軍事訓練もし、書類仕事もする事です」
「筋トレの時間が短くなってしまうっ!」
勤務中だと言っている。
職業的に筋トレも職務上で行えるのだから文句を言うな。
だが、事ここに至っても、第六騎士団長は筋トレ以外をしたくない様で、降伏しようとしなかった。
「かくなる上は!」
第六騎士団長が叫ぶ。
一発逆転の秘策でもあるのか、決意を込めた表情で立ち上がる。
そして、続けて叫んだ。
「だらしなく見えるので嫌だが……!」
「乳毛脱毛ビィィィムッ!」
第六騎士団長の言葉に遮る様に魔女が叫び、謎のビームを放つ。
そして、そのビームは第六騎士団長の一対のTKBを正確に撃ちぬいた。
「なっ⁉ ……何をしたっ⁉」
第六騎士団長の言葉に、魔女は不敵に笑う。
何をしたのかは……、まあ、放った魔法の名前で丸わかりだ。
「貴方の乳毛を永久脱毛しました」
「っ⁉ それでは……⁉」
「そうです。乳毛を伸ばしてTKBを隠す事はできません」
「最後の手段まで⁉ ……何という鬼畜外道な行いだ!」
ただ、乳毛を脱毛しただけである。
そもそも、お前達が仕事をしないのが悪いのだ。
「このままでは、遠い未来、貴方のお墓が遺跡として出土した時、貴方の桃色TKBまで出土する事になりますよ」
どんな形態の脅迫なのか。
そんな物が出土したら、未来の人間が激しく困惑するだけである。
「くっ……!」
「貴方は、筋肉の人ではなく、桃色TKBの人として末永く語り継がれても良いのですか?」
「嫌だ! 私は筋肉の人として語り継がれたい!」
叫ぶ第六騎士団長に魔女は微笑む。
だが、それは優しさのこもった微笑ではなかった。
見る者を恐怖させるような、何処までも冷酷な微笑だ。
「ならば、仕事をしなさい」
「しかし……」
なおも第六騎士団等は仕事を渋る。
諦めが悪いにも程があった。
そんな様に、魔女は小さく溜息を吐く。
そして、魔女は再び呪文を唱え始める。
「ならば、第六騎士団全員に餌食になってもらいましょう」
「っ⁉ 何をする気だ⁉」
「知れた事……」
魔女が大きく息を吸う。
次の瞬間には、魔女の身体が桃色の光に包まれていた。
人々が息を飲む中、魔女が、余りにも残酷な言葉を叫ぶ。
「究極魔法! ピンクフラワー! 乱れ撃ち!」
その叫びの直後、魔女から、幾筋もの桃色の光が放たれる。
そして、その光は、第六騎士団員達に無慈悲に襲い掛かった。
「ヒッ!」
「逃げろっ!」
「桃色TKBにされるぞ!」
阿鼻叫喚の有様だった。
第六騎士団員達が無様に逃げ惑っている。
「止めろ! 止めてくれ!」
第六騎士団長が叫ぶ。
その目には、涙さえ浮かべている。
「止めてほしいなら仕事をしなさい!」
魔女が言う。
やっている事は最低だが、要求は至極真っ当だった。
仕事をしない第六騎士団も悪いので、この場合、どちらに感情移入していいのか分からない。
最低な人物同士の極めて下劣な争いだ。
「俺の……、俺のTKBがっ!」
「ああ……、桃色……、桃色だ……」
第六騎士団員達の嘆きの声が充満していく。
嘆きの声を上げる者は、皆、自らの胸を見下ろしていた。
「早々に降伏した方がTKBの為ですよ!」
何だ。TKBの為って。
聞いた事のない言葉である。
……だが、まあ、この場に居る者達は己のTKBの心配をしているので間違ってもいない。
「お願いだ! 誰か、止めてくれぇぇぇっ!」
誰のものとも知れぬ叫びが響いた。
だが、魔女を止められる者は居ない。
今も桃色の光が放たれ続けている。
逃げ惑うビルパン一丁の男共。
涙を流す第六騎士団長。
高笑いする魔女。
そして、国王は人知れず頭を抱えている。
阿鼻叫喚の騒ぎは終わらない。
男共の胸にピンクの花が咲いていく。
花が咲く度に、むさ苦しい男が膝を折る。
男共の涙がピンクの花に注がれる。
余りにも酷い光景だった。
そして、この騒ぎは、ピンクの花が存分に狂い咲き、第六騎士団長が降伏するまで続いたのだった。
騒ぎの後、第六騎士団は黒ずんだTKBの為に拙いながらも仕事をする様になり、魔女は女性相手に脱毛ビームで荒稼ぎして森に帰って行った。
そして、国王のTKBはいつの間にか桃色になっていた。




