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変態国家シリーズ

究極魔法! ピンクフラワー!

作者: 野井琅世
掲載日:2026/06/13

シリーズ設定しておきますが、別に前作を読まなくとも大丈夫なはずです。



「何でパンイチなんだ⁉」


 国王が叫ぶ。

 叫ぶ先には、幾人(いくにん)ものパンイチの男達がボディビルのポージングをしていた。


「陛下! これはボディビル用のパンツ! ビルパンです!」

「だからどうした⁉」


 国王が再度叫ぶ。

 本当に、だからどうした、という話である。

 ビルパンなら許されるというものではない。

 さっさと服を着ろ。


「仕事中だぞ⁉ いつもパンイチなのか⁉」

「当然です!」


 何が当然だというのか。

 一体、何の仕事をしていたらパンイチになるのだ。


「我ら第六騎士団! いかなる時も身体を鍛える事を忘れません!」

「常にパンイチでいる必要はないだろう⁉ 苦情が来ているのだ!」


 騎士団が身体を鍛えるのは職務の内かもしれんが、流石に常にパンイチなのは意味が分からない。

 最早、筋肉を見せびらかしたいだけとしか思えなかった。


「しかも! 第六騎士団は筋トレしかせんから、全騎士団中最弱ではないか!」


 何のための筋肉なのか。

 騎士団のくせに軍事訓練をしないのはどうかと思う。


「いざという時、この国の最強の矛となり、盾となる為に筋トレは欠かせません!」

「せめて武芸の訓練をしろ! お前達、馬にも真面(まとも)に乗れんではないかっ!」


 それは酷い。

 そこまで筋肉特化だと、軍事面で役に立つのか極めて疑わしい。


「筋トレこそ至高! 筋肉があれば、大概の事は解決できるのです!」

「それなら、その筋肉で書類仕事もしろっ! 余が貸し出した事務官が居なければ、真面な報告書すら上げられんだろう!」


 清々(すがすが)しいまでの脳筋ぶりである。

 本当に筋トレしかしていない様だ。


「書類仕事など、筋肉に関係ないではないですか!」

「仕事だ! 筋肉から離れろ!」


 そう叫んで、国王が荒い息を吐く。

 どうやら叫び疲れた様だ。

 まあ、ここまでツッコミ通しだと、息も切れるというものだろう。


「しかし! 筋肉を裏切れません!」

「……報酬を貰っておきながら、仕事をせずに筋トレだけしているのは国への裏切りだぞ」


 頭痛でもするのか、表情を歪めながらそう言い、国王が深々と溜息を吐く。

 これ以上無いくらい深い溜息だった。


「ならば! ならば、我々にどうしろというのです⁉」

「仕事をしろ」


 深い疲労を(にじ)ませた声で国王が言う。

 極めて正論だった。

 だが、第六騎士団の面々は納得できない様な(おも)持ちだ。

 正直、そんな表情を浮かべられる神経が分からない。


「……とりあえず、今日は人に会ってもらう」


 国王が絞り出す様な声で言う。


「? 誰ですか?」


 そんな疑問の声を無視して、国王が背後に手招きする。

 すると、誰も居なかったはずの空間から、滲み出る様にして一人の女性が現れた。


「森に住まう魔女殿だ」


 魔女と言われた女性が国王のすぐ隣まで進み出る。

 魔女の顔には不敵な笑みが浮かんでおり、それが、何処か不気味な印象を与えていた。


「これから、魔女殿の魔法を受けてもらう。それに耐える事が出来れば、お前達の筋トレを認めてやる」

「なんと⁉」

「余の命に素直に従っておれば、このような真似をせずに済んだのだがな……」


 国王は、全てを(あきら)めた様な表情だった。

 まあ、国を守る騎士団がこの有様では仕方のない事だろう。


「どうします? 誰が私の魔法を受けますか? ……ああ、陛下の命に従って、逃げても構わないのですよ」


 挑発的な魔女の言葉に、一人の男が前に出る。

 先程まで国王と話していた男だった。


「第六騎士団長である私の筋肉の前には、どんな魔法も無意味!」


 そう言って、第六期団長が胸を張る。

 仕事もしていないくせに大した自信だった。

 そんな第六騎士団長に魔女は冷笑を向けている。


「では、覚悟なさい」

「フッ。我が筋肉ではじき返して見せよう!」


 第六騎士団長の言葉を聞くなり、魔女が手に持った杖を掲げる。

 そして、呪文を唱えると、魔女の身体を桃色の光が包み込んだ。


「喰らいなさい! 究極魔法! ピンクフラワー!」


 その声と共に、魔女の身体を包んでいた光が杖に集まり、一筋の光となって第六騎士団長へ放たれる。

 そして、その光を、第六騎士団長はダブルバイセップスで迎え撃った。


「フハハハッ! 痛くも痒くもないぞ!」


 桃色の光に包まれながら、第六期団長が高らかに笑う。

 その表情は歪む事なく、言葉通りに何の痛痒(つうよう)も感じていない事が見て取れる。

 魔女が自信ありげに放った魔法だというのに、まさかのノーダメージである。

 そして、(しば)しの時を経た後、魔女の放っていた光が消える。


「賭けは私の勝ちですな!」


 第六騎士団長が(ほこ)らしげに言い放つ。

 実際、第六騎士団等の身体には傷一つない。

 魔女の魔法が、何らダメージを与えていない事は確かだった。


「フフフ……」


 魔女が静かに笑う。

 静かだが、何処(どこ)(あざけ)りを含んだ笑いだった。


「誰が、物理的ダメージを与える魔法だと言いましたか?」


 そう言って、魔女が再び冷笑を浴びせる。

 どうやら、物理的攻撃力を伴う魔法ではなかったらしい。

 ならば、どんな魔法だったかというのが問題だ。


「ご自身の身体を良く見下ろしてみなさい」


 魔女の言葉に、第六騎士団長は(いぶか)し気な表情で自身の身体を見下ろす。

 そして、(わず)かな時間の後、その表情が驚愕に染まった。


「なっ……⁉ これは……!」

「だ、団長!」

「何という事だ!」


 第六期団員達が口々に驚愕の言葉を叫ぶ。

 皆の視線は第六騎士団長の身体の一点に注がれていた。

 そして、第六騎士団長が叫ぶ。



「私のTKB(乳首)がピンク色に⁉」



 そう、第六騎士団長のTKBが桃色になっていた。

 染料か何かを塗ったとか、幻覚だとかでは断じてない。

 根本的にTKBが桃色になっているのである。


「フフフ……。これが、私が生み出した究極魔法、ピンクフラワーです」


 魔女が得意げに言う。

 得意げに言っているが、何の目的があって生み出した魔法なのか理解しがたい。

 そして、究極魔法と言うには、何と言うか、言葉では言い表せられない釈然(しゃくぜん)としない何かがあった。


「これで貴方は、どんなに筋肉を鍛えても、皆の視線はTKBに向かう事になるでしょう……」


 それは……、まあ、その通りだろう。

 黒光りする筋肉の中で、一対の鮮やかな桃色が存在していたら、嫌でもそちらに視線が吸い寄せられる。


「一応、言っておきますが、貴方のTKBには絶対防御の魔法効果もかかっています」

「何っ⁉」

「変色させようとしても、染料で塗りつぶそうとしても無駄です。貴方のTKBは全てをはじき返します。絶対無敵のTKBです」


 嫌すぎる。

 絶対無敵の桃色TKBとか意味が分からない。


「年老いても貴方のTKBは桃色のままです。しかも、絶対防御は永続します」

「それでは……⁉」

「……そうです。貴方がお墓に入っても、貴方のTKBは桃色のままに残り続けるのです」


 魔女の言葉に、第六騎士団長がガックリと膝をつく。

 そして、絶望に染まった表情で叫んだ。


「私の黒ずんだTKBを返してくれ!」


 別に良いだろ。それくらい。

 嫌なら大人しく服でも着ていろ。


「黒ずんだTKBを返してほしくば、服を着て、武芸の訓練をし、軍事訓練もし、書類仕事もする事です」

「筋トレの時間が短くなってしまうっ!」


 勤務中だと言っている。

 職業的に筋トレも職務上で行えるのだから文句を言うな。

 だが、事ここに(いた)っても、第六騎士団長は筋トレ以外をしたくない様で、降伏しようとしなかった。


「かくなる上は!」


 第六騎士団長が叫ぶ。

 一発逆転の秘策でもあるのか、決意を込めた表情で立ち上がる。

 そして、続けて叫んだ。


「だらしなく見えるので嫌だが……!」

「乳毛脱毛ビィィィムッ!」


 第六騎士団長の言葉に遮る様に魔女が叫び、謎のビームを放つ。

 そして、そのビームは第六騎士団長の一対のTKBを正確に撃ちぬいた。


「なっ⁉ ……何をしたっ⁉」


 第六騎士団長の言葉に、魔女は不敵に笑う。

 何をしたのかは……、まあ、放った魔法の名前で丸わかりだ。


「貴方の乳毛を永久脱毛しました」

「っ⁉ それでは……⁉」

「そうです。乳毛を伸ばしてTKBを隠す事はできません」

「最後の手段まで⁉ ……何という鬼畜外道な行いだ!」


 ただ、乳毛を脱毛しただけである。

 そもそも、お前達が仕事をしないのが悪いのだ。


「このままでは、遠い未来、貴方のお墓が遺跡として出土した時、貴方の桃色TKBまで出土する事になりますよ」


 どんな形態の脅迫なのか。

 そんな物が出土したら、未来の人間が激しく困惑するだけである。


「くっ……!」

「貴方は、筋肉の人ではなく、桃色TKBの人として末永く語り継がれても良いのですか?」

「嫌だ! 私は筋肉の人として語り継がれたい!」


 叫ぶ第六騎士団長に魔女は微笑む。

 だが、それは優しさのこもった微笑ではなかった。

 見る者を恐怖させるような、何処までも冷酷な微笑だ。


「ならば、仕事をしなさい」

「しかし……」


 なおも第六騎士団等は仕事を渋る。

 諦めが悪いにも程があった。

 そんな様に、魔女は小さく溜息を吐く。

 そして、魔女は再び呪文を唱え始める。


「ならば、第六騎士団全員に餌食になってもらいましょう」

「っ⁉ 何をする気だ⁉」

「知れた事……」


 魔女が大きく息を吸う。

 次の瞬間には、魔女の身体が桃色の光に包まれていた。

 人々が息を飲む中、魔女が、余りにも残酷な言葉を叫ぶ。


「究極魔法! ピンクフラワー! 乱れ撃ち!」


 その叫びの直後、魔女から、幾筋もの桃色の光が放たれる。

 そして、その光は、第六騎士団員達に無慈悲に襲い掛かった。


「ヒッ!」

「逃げろっ!」

「桃色TKBにされるぞ!」


 阿鼻叫喚(あびきょうかん)の有様だった。

 第六騎士団員達が無様に逃げ惑っている。


「止めろ! 止めてくれ!」


 第六騎士団長が叫ぶ。

 その目には、涙さえ浮かべている。


「止めてほしいなら仕事をしなさい!」


 魔女が言う。

 やっている事は最低だが、要求は至極真っ当だった。

 仕事をしない第六騎士団も悪いので、この場合、どちらに感情移入していいのか分からない。

 最低な人物同士の極めて下劣な争いだ。


「俺の……、俺のTKBがっ!」

「ああ……、桃色……、桃色だ……」


 第六騎士団員達の嘆きの声が充満していく。

 嘆きの声を上げる者は、皆、自らの胸を見下ろしていた。


「早々に降伏した方がTKBの為ですよ!」


 何だ。TKBの為って。

 聞いた事のない言葉である。

 ……だが、まあ、この場に居る者達は己のTKBの心配をしているので間違ってもいない。


「お願いだ! 誰か、止めてくれぇぇぇっ!」


 誰のものとも知れぬ叫びが響いた。

 だが、魔女を止められる者は居ない。

 今も桃色の光が放たれ続けている。


 逃げ惑うビルパン一丁の男共。

 涙を流す第六騎士団長。

 高笑いする魔女。

 そして、国王は人知れず頭を抱えている。


 阿鼻叫喚の騒ぎは終わらない。

 男共の胸にピンクの花が咲いていく。

 花が咲く度に、むさ苦しい男が膝を折る。

 男共の涙がピンクの花に注がれる。

 余りにも酷い光景だった。

 そして、この騒ぎは、ピンクの花が存分に狂い咲き、第六騎士団長が降伏するまで続いたのだった。





 騒ぎの後、第六騎士団は黒ずんだTKBの為に(つたな)いながらも仕事をする様になり、魔女は女性相手に脱毛ビームで荒稼ぎして森に帰って行った。

 そして、国王のTKBはいつの間にか桃色になっていた。


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