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箱入り息子

掲載日:2026/04/29

 一通りプロフィールの説明を聞いたメメコはテーブルに並べられた写真を見つめている。 どれも見てくれは悪くない男たちが写っていて、話を聞いたところ条件も悪くない。  

 ただどの男もあと一手、決め手になるものが足りない気がしていた。

「ピンとこないみたいですね」とテーブルを挟んで向かいに座っている女性は笑みを浮かべて言った。

「どれも悪くはないんだけど」

「仕方ないですよ、こればかりは縁ですから」

「前回見た目で選んで痛い目見てるからちょっとね」

「そうだったんですか」

「見てくれは気に入ってたし、あっちのほうも期待通りだったんだけど、育ちが育ちだったから品性っていうか、感覚の違い?  それでもどうにかしようと思って頑張ってしつけてはみたんだけど、それが余計に嫌だったみたいで。けっきょく家にあった現金持っていなくなっちゃったの」

「それはそれは。とんだ災難でしたね」

「まぁ、安い買い物だったからべつにいいんだけど」メメコはそう言っておどけたように

笑い、テーブルの上のお茶に手を伸ばした。

 女性は笑い返し、テーブルの上に並んだ写真を片付けながら「そういうケースって借金

が少ない男にはよくあるんです」と言うと、テーブルの横にあるパソコンのほうを向いた。

「肩代わりしてもらっているにもかかわらず、ちょっとでも嫌なことがあるとすぐに逃げ出す。見た目がいいだけに自信があるといいますか、いざとなったら自分でも返せるとかって思ってるから、自分が買われたって自覚がないんです」

「そんな甘い考えでいるから借金も返せないのよ」

「おっしゃる通りです」

「夢ばかり大きくて、その夢を受け止めるだけの器はない。ほんと、ちゃんとおのれの身

の丈を知れって感じ」

「ただそれでもそういう男に需要があるのも事実なので」

「言ってることはわかるけど、わたしはもうコリゴリ。同じお金を払うならもっとマシな

男がいいわ」

「それは同感です」と女性は言った。「お客様みたいな方はそんな野良みたいな血統の男ではなく、箱入りくらいの男のほうがいいとわたしも思います」

「でも箱入りなんて早々巡り合えるもんじゃないでしょ」

「そうなの?」

「そういう条件を優先すればいないことはありません」

 女性は肯き、慣れた手つきでキーボードをカタカタ叩き始め、「たとえば、これなんか」と一人呟いて席を立った。パーテンションの奥に一度引っ込み、すぐにまた戻ってくると、メメコのまえに写真を一枚差し出した。

「下町の金物屋の一人息子。祖父の代から始まって彼の代で三代目になるはずだったんですが、大手の百円均一なんかで金物なんてほとんど手に入る時代ですから、父親の代で経営が傾いちゃって。大学のときに父親が自殺してしまい、今はその負債を金物屋といっしょにそっくりそのまま抱えている状態です」

「そんなの財産放棄しちゃえば済む話じゃない」

「少しでも自分で考える頭があればそうするでしょうけど、言うても世間知らずのボンボンですから」

 メメコは差し出された写真を手にとった。そこにはさっきまで並んでいた写真に写って いる男たちとは違って、冴えない感じのいかにも育ちが良さそうな男が強張った表情で写っていた。

「負債はいくらくらいなの?」

「ざっと二、三千万ってところでしょうか」女性はパソコンの画面をのぞき込んだ。「正確な金額はちゃんと計算してみないとですが、もともとあった負債が二億ないくらいですから、そこから亡くなった父親の生命保険と実家の土地を差し引けばそれくらいかと」

「決して安い買い物ではないわね」

 メメコがそう言うと、女性はパソコンから彼女に視線を移して微笑んだ。同意にもとれるし、煽っているようにも見える。でもメメコにはどちらでもかまわなかった。再び写真を見つめ、自分の目でしっかりと目踏みする。 近くに置いておきたい風体ではないけど それでも見つめているとそこに微かな希望が浮かんで見えてきた。今は冴えないただのボンボンでも、自分のしつけ次第では立派な男に育てることができるかもしれない。そんな可能性が見え始めると、今までに味わったことのない高揚感が胸の悪から湧き上がってくるのを確かに感じた。

 メメコは写真をテーブルに置くと「わかったわ」と言った。

「物は試しって言うし。箱入り息子がどんな男か、この眼で確かめてみるのも悪くない

・・・・・その代わり支払いは分割でいいわよね?」

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