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異世界詐欺師のなんちゃって経営術-π(パイ)-  作者: 宮地拓海


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31/34

【31/81π】アタシを見る目

===

本編: 『66話 ヤシロが発注した三つの物』

https://ncode.syosetu.com/n6240cp/71

視点: ノーマ

===

「女に鉄は打てない」「女の打つ鉄は曲がってる」なんて、そんな偏見が当たり前だった金物の世界で、アタシはこの腕一本でここまでのし上がってきた。

 女ってだけでアタシを認めようとしない男どもをアタシは技で黙らせてきた。


 男になんて負けやしない。

 女だからダメだなんて言わせやしない。

 モンクがあるならアタシの前で直接言ってみな。そうしたらはっきりと現実を突きつけてやるからさぁ。


 アタシの打つ鉄こそが一番なんさよ――ってね。


 そんな生き方をしていたから、アタシはあの時……なんも言い返せやしなかった。




『「いや」なんだよ?』




 女だからって偏見の目で見んなって、『ガワ』じゃなくて中身で人を判断しやがれって、そう思ってたアタシが……あの子らを『スラムの子供』って『ガワ』で見ちまっていたなんてね……アタシが一番嫌っているはずの、偏見の目で……


「あ~、キツネのおねーさ~ん!」

「また来てくれた~!」

「今日は買っていく~?」

「へ? あ、いや……甘いのは、ちょっとね」

「そっかー」

「ざんねーん」

「いつか買っていってねー!」

「あ、あぁ……そう、さね」


 つい気になって、金物通りを出て大通りまで見に来てしまう。

 あの子らがポップコーンって甘味を売っている移動販売ってヤツを。


 あんなことを言ったアタシには会いたくもないだろうと思って、いつも見つからないように物陰からこっそり覗く程度にしてるってのに……なぜかいつも見つかっちまう。

 気が付いたら、小さいハムスター人族の子が足元にいて、それで大声でみんなを呼び寄せちまうんだ。


 ……アタシなんかに、笑いかける必要なんてないってのにさ。



 今日も買えずに、工房へ戻る。

 ウチの連中は、あのポップコーンってのにハマって、いつもきゃーきゃー騒いでるんだ。

 やれ「甘い」だの、やれ「かわいい」だの、黄色い声でキャッキャと騒いでる。

 こっちの気も知らないでさ……


 炉の前に陣取って、燃え滾る炎と向かい合う。

 精神が研ぎ澄まされて、頭の中が空っぽになっていく。

 今日の天気と、鉄の質。炎の色と肌を刺すような熱、それから空気に含まれる水分の量。

 それらすべてを経験と勘で感じ取って、鉄を最高の状態に仕上げる。


 大槌を握り、炉から取り出したばかりの赤く煌々と光る鉄を睨み、息を吸い込んだ時――また、同じセリフが脳裏に浮かんだ。




『「いや」なんだよ?』




「ちぃ……っ!」


 腹立ちまぎれに大槌を振り下ろす。

 熱せられた鉄がギンッと鈍い音を立てる。……まだまだ鍛錬が足りていない証拠さね、この鉄も、アタシもさ。


「反論……できなかった」


 あの男の、あの目。

 アタシを見下し、軽蔑していた、あの目が、何日経っても頭から離れない。

 男なんかに負けるかって意地張って生きてきたこれまでの人生が、途端に薄っぺらな見掛け倒しのように思えて、自分が恥ずかしくなった。



 男だ女だと、一番偏見を持っていたのは、他ならないアタシだった。



 あの男は、それを見抜いていたんだろぅね。


「みっともない……惨敗じゃないかさ」


 いつも振り回している大槌がやけに重く感じて、コツンと、鉄を撫でるのが精一杯だった。


 そんな時。


「邪魔するぞ」


 頭ん中で嫌になるくらい響いてくる声が、今度は耳から聞こえてきた。

 振り返ると、そこにあの男がいた。

 たしか……ヤシロ、と呼ばれていたっけね?


「おぉ、お前がノーマ・グレグソンだったのか」


 顔を覚えられていた。

 言いようのない息苦しさを感じて、アタシは思わず顔を逸らしちまった。


「……だったら、なんさね?」


 気まずくて、いたたまれなくて、そんな悪態を吐いちまった。……みっともない女だね、本当に。

 なのに、そんなこと気にする素振りも見せずに、この男は明るい声で話しかけてくる。


「いやなに、ここらで一番腕のいい職人を紹介してくれって言ったら、表にいた連中が口を揃えて『ノーマ・グレグソンが一番だ』って言うからよ」


 ……あいつら。

 ここ最近のアタシのスランプを知ってるくせに……


「買い被りさね」


 期待されても、それに応えられなければ失望される。

 ……もう、この男に失望されるのは御免さね。二度も同じ男にさ。


「悪いけど、他をあたっておくれで――」

「なぁ、ここにあるのって、みんなノーマが打った鉄か?」

「……そうさよ」


 急に呼び捨てにされて、一瞬、心臓がびっくりしちまった。

 ……馴れ馴れしい男さね。


「ちょっと見せてもらってもいいか?」


 心なしか、わくわくした顔でそんなことを言う。

 金物ギルドに入りたいって見習い前のお子たちが見せるような、憧れと好奇心に満ちた瞳だった。

 ……なんて目をしてんさね。いい歳した大人がさ。


「いいけど、怪我すんじゃないさよ」

「ははっ、噂通り面倒見のいいヤツなんだな」

「はぁ!?」


 誰がそんな噂を……と、問い質す前に、そいつは工房の中を勝手に見て回り始めた。

 ……ったく、人の話を聞きなってのに。


「へぇ……なるほどなぁ」


 手に取り、光を反射させ、裏側をじっくり眺めて、エッジに指を滑らせる。

 アタシらが鉄の評価をする時に行うことを、教えもしないのにやってみせた。

 なんなんさね、この男は?

 カンカンと、指で叩いて音のばらつきまで確認している。


「あんた、鍛造の経験があるんかぃ?」

「まぁ、手慰み程度にな」


 その手つきと目つきを見る限り、そんなもんじゃないように思えるけどね。


「うん、いい出来だ」


 三つ四つの製品を見て、深く頷いてそんなことを言う。

 ……けどまぁ、素人に褒められてもねぇ。


「ちょっと力技が目立つけどなぁ」


 …………あ゛?


「けど、これだけ出来てりゃ十分だろう」


 おいおい、そこのド素人さんよぉ、随分な口振りじゃないかぃ?

 あんたに鉄の何が分かるってんだぃ、えぇ?


「特に、こいつが素晴らしい」

「……ぁ」


 それは、アタシがここに来て、初めて納得いくものが出来たと思えた鋼のナイフだった。

 ギルド長には「さっさと売れ」と言われているが、これだけは手放すつもりはない。

 技術面ではまだまだ未熟だったけれど、アタシの一番のお気に入り。


 お気に入り、なんだけれどさ……


 それが、特に素晴らしいって?

 はっ! やっぱり見る目がないようさねぇ。

 それに比べりゃ、あんたが腐したそっちの鉄鍋の方が遥かにいい出来だってぇの。


 そんなことも分からずに、目の前のド素人はなおもアタシのナイフを褒める。


「すごく繊細で丁寧に作られている。何がしたくてこうなっているのかがよく分かる。作り手の考えがはっきりと読み取れる道具ってのは、安心感がある」


 ……そりゃまぁ、その頃は下手糞で、全然いい物が作れなくて、どうすりゃいいかってすごく悩んで、それこそ四六時中そのことばっかり考えて、そのアイデアを全部詰め込んだから、そう見えるのかもしれないけどさ。

 でもそれは未熟だからで……


「それに、女性らしい気遣いが随所に見られる」


 女性らしい気遣いだぁ?


「あんた、まさかアタシが女だからって――」

「こいつは真似しようとして出来るもんじゃない。お前、センスいいな」

「…………そうかいね」


 なんなんだい、まったく。

 こっちがブチ切れてやろうとした矢先に出鼻を挫くようなこと言って。

 まったく、癇に障る男だよ。


「女性らしいってのは、嬉しかないね。金物は男の世界だって言われてんだ。女を見せちまったらまた舐められるさね」

「そんなんだから駄目なんだよ、ここら辺のヤツは」


 と、ここ最近アタシが作った製品を指さす。

 ……上等だね、あんた…………五体満足でここから出られるとお思いでないよ?


「なんでお前が持ってるいいモノ全部殺して周りに合わせてんだよ? お前の方が確実に腕が上なんだから、格下の戯言なんか無視してお前らしいモノ造りを邁進すりゃあいいじゃねぇか」


 ……え?

 アタシ、らしい?


 へ?

 アタシ、そこらの男どもより、格上……なんかぃ?

 いや、そりゃ、自分ではそのつもりで頑張ってるけどさ……あんたから見たら、そう見えるの、かぃ?


「これなんかもったいねぇよなぁ。危ないからって綺麗にエッジを取る繊細さを見せてるのに、この辺は男に負けてられるかって感じで無理やり力強く引っ叩いてる。チグハグで使う気にならねぇよ、こんなもん」


 その通りだ。

 そいつを作った時、まさにアタシはそんなことを考えていた。

 ……あんた、何者なんだぃ?


「けど、技術は確かだ。だからノーマに頼みたい。出来れば、このナイフを作った時のお前に頼みたかったけどな」


 あんたは、本気でそんなことを言ってるんかぃ?


「ちょっと難しい注文になる。受けてくれないか?」

「そりゃ……受けるのは、いい……けど、さ」


 あれ?

 たしかアタシは断ろうと……そもそも、今はスランプでまともに鉄も打てやしないってのに……なんで引き受けようとしてんだろうね?


「とりあえず、設計図を見て出来るかどうかを確認してほしい」


 そう言って、設計図を広げる。

 覗き込めば、自然と距離が縮まる。


 ……すぐ隣に、あの男がいる。

 あの日、アタシを軽蔑した目で見ていた、あの男が……


「ねぇ……。あんたはアタシのこと、覚えてんだろ? だったら……」


 なんでそんな普通な顔して、アタシと話せるんだぃ?

 軽蔑して、嫌悪感を見せて、「お前なんかに任せられるか」って言わないんだい?


「お前さ、毎日ウチの屋台見に行ってくれてるんだってな」


 その顔がこっちを向いて、まるで少年みたいに屈託のない笑みを浮かべる。


「妹たちが大喜びしてたぞ。『また来てくれた』ってな」


 なんで……

 アタシなんか……


「あいつらが大喜びしそうな物を作りたいんだ。協力してくれねぇか?」


 こっちを見る瞳はまっすぐで、まるであの子たちと同じくらいに澄んだ色をしていた。


「お前になら、安心して任せられる気がするんだ」

「…………あ、当たり前さね、アタシを誰だと思ってるんだぃ?」


 この男は……ヤシロは、アタシを認めてくれる。

 男とか女とか、過去のいざこざなんか気にもせず、アタシの腕を見込んで、アタシを信用してくれた。


 なんか癪だね。

 あんたの顔を見ていると、「そんな小さいこと、いつまでも気にしてんなよ」って言われてる気がするさね。


 なんなんだろうねぇ。

 あんなに悩まされて、夢にまで見ちまっていたヤシロの瞳が、今はまるで受け止めてくれるような安心感を与えてくれるなんてね。……くふっ。変な男さね。


「そんじゃ、ちょいと腹を据えて話を聞かせてもらおうかぃね!」


 俄然やる気が出てきた。

 絶対成功させてやるさね。

 そして、あんたに認めさせてやるんさよ。

 男とか女とか関係なく、ノーマ・グレグソンこそがナンバーワンだってね。


 気分が乗ったアタシは、胸の間から煙管を取り出す。


「なぬっ!?」


 ヤシロが目敏くアタシの煙管に目をやる。

 ふふん、分かるかぃ?

 こいつは、このノーマさん特製の一級品なんさよ。ちょっとしたもんだろう?


「いいなぁ……煙管」


 くふふ、そうだろぅそうだろぅ。

 やっぱり、見る目のある男ってのはいいもんだねぇ。


 羨ましそうに見つめるヤシロに見せつけるように、アタシは悠々と煙管をふかしてやったんさ。






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本編: 『67話 祭りの朝』

https://ncode.syosetu.com/n6240cp/72

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