1話:二日酔い×濡れ衣=いつもどおり
――♪♪♪
軽快なリズムと明るい歌声が特徴的な曲が、室内に響き渡る。
「さっきからなんなんだよ……今日は動けないっての」
頭痛をなんとか堪え、スマートフォンに手を伸ばすが、画面を見た瞬間に電源を切る。
「俺は何も見てない……電源が何故か切れてるから仕方ない」
門倉鉄舞は二桁の着信履歴を見て、即座に現実から逃避した。
「ってか夢だろこれ。昨日あんなに酒を飲んだのに午前中に起きるわけないよな。うん、夢に違いない」
鉄舞は強引に夢だと思い込み、二度寝することを決意した。
――これが悪夢の始まりだと、後悔することになるとは知らずに
――日本魔術機構・会議室――
「暴欲の魔神結晶が盗まれたっ!?」
「あぁ……昨夜、倉庫の警備隊長である、園田悠斗から緊急伝達があってな」
会議室の席順は特殊な配置となっており、筋肉質で大柄な男を囲むように、初老の男性達が座っている。
スポーツ刈のような短髪と、はち切れんばかりの筋肉が特徴的な大男は、冷静に言葉を紡いだ。
「……それで、犠牲者や犯人の手がかりは?」
初老の男性達の1人が、ため息混じりに言葉を返す。
「犠牲者は居ない。それどころか、戦闘すら起こっていない」
大男は眉をひそめて、首を傾げる。
「あの倉庫は、Aランク魔術師とBランク魔術師のみで構成された精鋭部隊が警護にあたっております。例え、我々Sランク魔術師だったとしても、監視の目をくぐり抜けることは難しいでしょう」
大男の言葉に、初老の男性達は一斉に天を仰ぎ、言葉を吐き捨てる。
「そのSランク魔術師の門倉鉄舞が、機構からの緊急要請に基づき、堂々と魔神結晶を持ち去ったそうだ」
「……どういうことです?」
大男は頭痛をこらえつつ、あくまでも冷静に言葉を返した。
「どうもこうもない、警備隊長の園田悠斗からの報告と、現場の監視カメラ及び魔力探知機のデータから、間違いなく、門倉鉄舞が倉庫から持ち出したんだ」
「……ちなみにですが、機構は鉄舞に緊急要請を発令したのでしょうか?」
大男は、何故?という言葉を飲み込み、別の言葉を吐き出した。
「だとしたら、君をわざわざ呼び出したりしないだろう。Sランク魔術師達の実質的なリーダーである、王戯一角を」
「……そうですよね」
一角と呼ばれた大男は、ため息と共に言葉を吐き捨てる。
「我々もSランク魔術師が軽率な行動をするとは思っていない。何かしらのやむを得ない理由があるのか、何者かが濡れ衣を着せているのかもしれない」
「私もそう思います」
一角は間髪入れずに同意する。
「しかし、門倉鉄舞がこれまで数々の命令無視・違反を繰り返してきた問題児というのも事実である」
「……確かに、鉄舞は機構に従順とは言い難いでしょう。しかし、アイツはっ!!」
「わかっている。過程にこそ問題があれど、彼の人間性は善だ。それは我々も認めている。だからこそ、Sランク認定をしているわけだ」
初老の男性は、熱くなりそうな一角を宥めるように言葉を差し込んだ。
「それに、容疑者は彼1人ではない。園田悠斗の報告によると、もう1人協力者が居たようだ」
「なんですって?……それは、誰なんです?」
一角は全身から冷や汗を吹き出しつつも、静かに尋ねた。
「Bランク魔術師の如月彩華だ。彼女が逃走の手助けをしたと報告されている」
――なんだと?
一角は胸中で、言葉をつぶやき、額に手をあて、天を仰いだ。
「我々も君の胸中と同じだ。何を信じ、誰を疑えば良いのかわからない。だからこそ、信頼できる君を呼んだのだ。他でもない、王戯一角という魔術師を」
初老の男性達も、この不可解な状況に困惑していることを示す為、わざとらしく苦笑いを浮かべる。
「わかりました。この一件は最優先事項として、迅速に対応致します。我々Sランク魔術師達にお任せ下さい」
「ああ、君達に全てを任せる」
こうして運命が締結する。本人が預かり知らないところで、複雑に交差し、絡み合っていく。
……なあ、魔術師なんてなるものじゃないだろう?




