二十一、媚薬
「困りますよ、お客さん」
男は本当に困った様子で切り出した。
それを聞いた下田茂は、ハッ? と頭に疑問符を浮かべた。
場所は新宿歌舞伎町にある雑居ビルの一角。
入り口には、『石田探偵事務所』と書かれている。
「あそこの関係者なら関係者だって、事前に言ってもらわないと」
所長の石田信治は、顔を顰めた。
「この業界で、あそこに手を出したら大変なことになりますぜ」
それから一転、真剣な表情になる。
「手付金はこの通りお返ししますんで、お引き取りください」
「それは一体……」
困惑する茂に、信治は現金を差し出した。
「はい! もうこの話はこれで終わりですわ。お引き取りください」
そして、信治は有無も言わさず話を打ち切る。
その態度に茂は狐につままれたような顔をした。
(なにがどうなってるんだ?)
追い出されるように探偵事務所を出た茂は、落胆した。
意気消沈した茂はスマホを取り出すと、画像を呼び出した。
「小夜ちゃん……」
そこには、小迎小夜子=加藤小春の盗撮写真が写っていた。
きっかけは娘の文化祭だった。
そこに女子中学生成分を吸いに行ったとき、偶然、小春を見かけたのだ。
そのとき盗撮した写真を元に、裏探偵に小春の身辺調査を依頼したのだ。
最初は、普通の興信所に頼もうとした。
しかし、プライバシーの侵害になると断られた。
なので、いろいろな伝手を使って裏稼業もする探偵事務所を探し、依頼をしたのだ。
だが、結果はこの通り不発に終わった。
「こうなったら……」
茂は密かに決意した。
朝の登校にはまだ早い時間。
下野薫は、目の下に隈を作ってフラフラと歩いていた。
一昨日、教室でしてから、海斗の呼び出しはなかった。
しかし、不安で、夜、よく眠れない。
それでも、朝一番に学校に来ることは続けていた。
教室に着いた薫は、空気を入れ換えるために窓を開けた。
冬の冷たい風に全身をさらして、薫は心が洗われる気分になった。
憂鬱な気持ちも少し楽になる。
”ブルッ”
そのとき、スマホに着信があった。
薫は、ジャンパースカートのポケットからスマホを取り出した。
送信者が神谷海斗なのを見て、薫はげんなりとした。
メッセで『今日の放課後、家まで来い』という内容だった。
朝の爽やかさもいっぺんに吹き飛ぶ薫だった。
放課後になった。
薫は生徒会を体調が悪いと欠席して、命令通り海斗の家まで来た。
『来たか』
インターフォンを押すと、すぐに海斗の声がする。
玄関のドアを開けて薫を出迎える。
海斗は上機嫌でニコニコと笑みを浮かべていた。
「……」
そんな海斗の様子に薫は訝しむ。
なにかろくでもないことを考えていそうな嫌な予感がした。
そのまま二人は、二階の海斗の部屋まで来た。
「今日は最初にこれを飲め」
唐突に海斗はコップに入ったオレンジジュースを薫に差し出した。
それで薫はピンときた。
「……なにが入ってるの?」
「勘がいいな」
海斗はニヤリと笑った。
「媚薬が混ぜてある」
「媚薬!?」
薫は驚いた。
そんなものが簡単に手に入るはずがないと思ったが、それは間違いだった。
大手通販サイトのamazanで普通に売っていたからだ。
それがお急ぎ便で昨日届いたのだ。
「嫌よ……」
薫は拒否した。
「なんでだよ?」
「身体に毒だったらどうするの?」
海斗の問いに、薫は不安がった。
「レビュー見た限りでは特に心配ないって書いてあったぜ」
媚薬の種類は多種多様だった。
その中から一番効くのを選ぶため、レビューは海斗にしては真剣に読んだ。
「だから、飲め」
海斗は命令した。
こうなると薫は逆らえない。
イヤイヤながら、オレンジジュースを受け取った薫は、それをチョビチョビと飲み始めた。
味は普通のオレンジジュースと変わらない。
少し甘いかな? と言う程度だ。
そのままゆっくりと飲み進める。
いつものならイライラする海斗だが、今日は機嫌がいいらしく急かすような真似はしなかった。
薫は全て飲みきった。
身体の変化はまだない。
「服を脱ぎな」
続けて海斗は命令した。
「……」
本当は嫌だが、仕方なく薫は従った。
すると、制服を脱いでいる間に身体の異変に気付いた。
(なんか、暑い……)
薫は戸惑った。
息が荒くなり、身体中から汗が噴き出す。
身体が火照り、力が入らなくなった薫はなんとか服を全部脱いだところでフラフラと倒れ込むようにベッドに寝転がった。
それを見た海斗は、ニヤリと笑った。
ベッドに近づくと、薫の下腹辺りを指でノックする。
「おほおおおおお♡♡」
強い刺激が身体中を走り、薫は思わずオホ声を上げた。
「!?」
そんな自分に驚いて、薫はすぐに口を両手で塞ぐ。
それを見た海斗は、満足そうな笑みを浮かべた。
♢♦♢♦♢♦
結局、五回戦したところで海斗の体力が尽き、今日の行為は終了となった。
(わたし……)
途中から訳がわからなくなり、薫はなにか超えてはいけない一線を越えてしまったような気がした。
そんな自分に寒気を覚える。
「今日のあんたはよかったぜ」
薫の心とは裏腹に、海斗は満足そうだった。
(これで当分、楽しめそうだな)
媚薬の瓶をつまんで、海斗はあくどく笑った。




