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僕らのかわいい支配者ちゃん!!

だいたいほのぼの たまにシリアスな覇王様ライフの作品です

某動画配信サービスの伝説神回〜ドッキリ大失敗〜

痴話喧嘩は他所でやれ

王様と従者のランデヴー

禁忌・殺戮キラードール〜共闘〜

チカラの対価

はじめてのおつかい

ふ/ざ/け/る/な

こうかはばつぐんだ!

ちょっと待ったあああ

悪役アテンション・エコノミー

の10本仕立てです

某動画配信サービスの伝説神回


「ヤァ、今日も配信に来てくれて感謝感謝だよぉ」


これはとある魔王が某動画配信サービスに投稿した、伝説の配信のアーカイブである。


真っ黒のローブを羽織り、長く延びた白い髪に蛍光色の紫色の瞳が特徴的な彼女、この動画の配信者ルマが画面内に映る。撮影場所は暗く、物や床、天井に至るまでが黒で統一されており、某本人も黒い服を着ているため見えづらくはあるが、どこか不穏できらびやかな城内は、彼女が魔王であることを見せつけられているようだ。宇宙共通語がヘタだとか、魔王のクセに暇人だとか、自身のアンチコメは軽く流すのに対し、勇者関連のアンチコメを打ち込むリスナーに対しては即ブロックする、ちょっと口が五月蝿い変わった配信者ではあるが、魔王であり覇王でもある異色の経歴、何よりルマ本人の美しさに釘付けになったリスナーも多く、彼女が気まぐれに配信を開始すれば、視聴者が毎回4桁台を有に超えると、知る人ぞ知るかなりの人気を誇る配信であった。


「今日はボクの部下のマホミルに、ドッキリを仕掛けたいと思います」


そのドッキリの内容とは従者に嘘の解雇を告げ、マホミルを驚かせるという内容だ。今回、ドッキリの標的となるマホミルは、先程紹介したようにルマに仕える従者で、第二補佐官を任させており、今までルマが投降してきた動画に、度々姿が映ってしまったことがある。(いわゆる親フラならぬ従フラである)


常に真面目に覇王に尽くす彼女の慌てふためく姿が見たい。見てみたい。そんな彼女が失敗したところをルマが罵り倒し反応を楽しむ、というものだった。


ルマはマホミルがどんな反応をするのかワクワクしながら王座の間に隠しカメラを仕込み、彼女を待った。もう少しでマホミルが茶を持ってくるはず。扉付近に仕掛けた魔術により、ティーセット諸々が破壊されるようになっている。準備は満タン。彼女が来るのを今か今と待つ。


そして、扉が開かれ標的が部屋の中に入ってきた。


「失礼致します。覇王サマ、御紅茶を持って参り…、ってうわぁ!?」


ルマの目論見通り、マホミルが持ってきたティーセットが破損し、ポットが砕け紅茶が床に零れてしまう。


「何してるんダ!!」


ルマは咄嗟に立ち上がり、怒号を上げる。しかし、心の中ではしめしめと笑っていた。


「も、申し訳ございません…、!今すぐ片付けます」


彼女は慌てた様子で、何処から取り出したのかちりとりとほうき、雑巾を使って、割れたポット等を片付けようとする。目が白い前髪で隠れていてもよく分かる。その表情には焦りと恐怖が入り交じっていた。ルマは笑いがこみ上げそうになるのをぐっと抑えて、そのまま冷淡な口調で言葉を続けた。


「モウイイ。使えないヤツ()は要らない」

「……へ?」


ティーセット諸々を片付けようとするマホミルの動きがピタリと止まる。呆然と立ち尽くす彼女を何ともせず、ルマは続ける。


「使えないヤツ()は要らないって言ったんだ。もう来なくてイイ」


彼女の元々白い肌がどんどん青ざめ、ワナワナと体を震わせる。その姿にルマは大爆笑して腹筋が割れそうになるのを必死に堪える。


(サァ、どんな反応をみせてくれるんダ…!!)


だが、次の瞬間、予想外なことが起きた。


「…ぐすっ、はおう、さま、、ごめんなさい…、ワタシほかに、逝くとこ、ないのに…うぅ…!!」


彼女の顔からボロボロと涙が零れ落ち、声を詰まらせて泣いた。


「アァ、マホミル!もうヤメロ!!ボクが悪かった!!だからもう泣きやんでくれ!!」


まさかの事態に、流石のルマも困惑し不味いと思ったのか謝罪するが、彼女の涙は一向に止まらない。


「うわあぁ゙あぁあ゙あ゙ぁぁ゙ん!!!!」


とうとう嗚咽する事も出来なくなり、幼い子供のように大声で泣き出してしまった(元々見た目は10~11くらい子供なのだが)。これにルマも慌てふためく。


「ゴメン、マジでゴメン!!あれはその…冗談ダ!!頼むから泣きやんでくれ!!」

「うわあああああん!!!!」


ルマはマホミルに駆け寄るが全く泣きやんでもらえず、どころか泣きやむ以前に状況はもっと悪化するばかりである。ギャン泣きする従者に謝罪する魔王(全宇宙の支配者)というシュールな絵面に、コメント欄は飛ぶように流れる。


「は゛お゛う゛さ゛ま゛に゛す゛て゛ら゛れ゛た゛ーーーー!!!!」

「捨ててない!捨ててない!断じて捨ててない!!これからもヨロシク頼むよ!だから泣きやんでッテバ!!」


その後ルマは配信時間ギリギリまで謝罪し続けたが、最後までマホミルは泣きやんでくれなかった。


この回はファンの間で一躍人気となり、一部で社会現象と化するほどの屈指の再生回数を誇ることになる。また、動画内のマホミルの泣いてるシーンを切り抜き、ミーム素材として使われるようになったんだとか。


【関連動画】

覇王様が従者に謝罪し続けるだけ〜100分耐久〜

〈神回〉全宇宙支配してみた

マホミルの泣き声だけでBadAp◯le!!



痴話喧嘩は他所でやれ


ルマが遊びに来た。それはいい。が、一目見て「あ、またマホミルとなにかあったな」という雰囲気を醸し出していた。だからこそ気付かないふりをしていた。が、「マホミルと喧嘩した」と聞いてしまった。また面倒ごとに巻き込まれたと、少し後悔した。


「で、彼女は何をやらかしたのですか」


まるでルマに非がないかのように、否、今回もマホミルがやらかした体で話を聞く。ルマはそれを見事にスルーして話を続けた。


「マホミルがね、ボクの事お母様って呼んだノ」

「それはもはや魔力砲で撃っていいレベルですね」

「イヤもうすでに撃った」


流れるように返答した。どうやらもうすでに、魔力砲は撃ったようだ。当然といえば当然だ。マホミルはそれ程の罪を犯している。

ちなみにマホミルはそれに対し「言い間違えただけ」と弁明したらしい。ルマからしたら「テメェフザケンナ」である。学校の先生の事をお母さんと呼び間違えるならまだしも、上司に、しかも魔王に呼び間違えるときた。


「マホミルの甘味と魔導書を全て没収した上に、マホミルが収集している覇王様シリーズを目の前で燃やしてやったらどうです?」

「チョット待って覇王様シリーズってナニ??」


側近から出た案を思わず実行しようとしたら、それ以上に気になるワードを聞いてしまい、若干ルマは困惑した。己のシリーズをコレクションした物とは一体なんなのか。凄い嫌な予感しかしない。けど、ここまで聞いてしまったからには知りたい。けど知りたくない。そんな相反な気持ちの中、側近の彼が意外とアッサリと暴露した。


覇王様シリーズ。

それは盗撮ともいえるルマの写真から始まり、ルマの行動を事細かに記録した観察日記や、ぬいぐるみやキーホルダー類といった手作りのルマのグッズ、ルマが使ったタオルやシーツ類をコレクションした物…らしい。


「覇王様ファンクラブの時、堂々と自慢してましたよ」

「マジかよ…、スッ…キッッモ……(小声)」


ちなみに覇王様ファンクラブとは、一般層には冷血な支配者として怖がられるルマであるが、顔がいいため、一定数の人気があり、そんな覇王様激推しのファンが集まって覇王様愛について語り合うのが、覇王様ファンクラブである。そして、側近が部長、第二補佐官のマホミルが副部長を務めている…らしい。この事についてはルマも初耳だったらしく、今回のことで初めて存在を知ったという。これだけでも結構ヤバいのだが、問題はマホミルだ。マホミルが一番の問題なのだ。「しばらく口聞いてやんナイ」と思うルマであった。


☆オチはない☆


今日の分の仕事という重労働を終え、魔王城の一角にある自室のベットにダイブし、普段通り監視魔術でルマの事を観る。睡眠をとる必要がない私の身体は、四六時中休みなく動き続けることができる。要するに暇なのだ。前は気に入っている魔導書を読んだり、魔術式の開発で時間を潰していたのだが、ここに来てからは、監視魔術でルマ観る事が最近の日課と化している。そう、今まで見れなかった分。先程それで、私と喧嘩してしまったことを、またまた側近に伝えているところを聞いてしまった。暗い部屋の中、魔法陣の光だけが淡く光り、周囲を照らしている。


「だって似てたんだもん。…けどあの子、顔はお父様にそっくりなのよね…」


私の中のあの子は、未だに子供の時の像で止まったままだった。


「ああ…、大きくなったね、■■■■」


THE END…?



王様と従者のランデヴー


「アァ゙!!今日はナニをやっても上手くいかない!!あーーーーイライラするぅ!!」


魔術式の開発が思うようにいかず、今日はいつもに増してご機嫌斜めなルマ。

そしてそんなことを知らず、いつも通りのノリで、そろそろお茶にしようと呼びに来たマホミルは、そのままルマに声をかけた。


「覇王サマ〜。そろそろ御茶にしまし…「チッ……」


 Loading…Loading…


「…それはそれで♡」

「あーーーーッ、ダメダメダメ!!いい子だから戻って来テ!!」


魔術式の開発に没頭していてマホミルに話しかけられているのに気付かず、神経が高ぶって苛立った衝動で、タイミング悪く舌打ちをしてしまった事をルマは後悔した。自分に対して舌打ちされたのだと勘違いしたマホミルは、一瞬フリーズしたがいつもの「覇王サマ可愛い〜♡」モードに戻り、「それはそれで可愛い♡」と言いかけたところでルマが止めた。これ以上は危ない。



「というわけで改めておやつにしましょう♪本日のおやつは、パイ生地のフラン、カンノーリ、マカロン・パリジャンをご用意しました」


机の上の並べられたアフタヌーンティーセットは、きらびやかで豪華で、まるで一流シェフに作らせたような出来栄えだった。一人だと食事はいつも栄養食品に任せっぱなしで、料理などろくにした事がない素人のルマでも分かるぐらい凄かった。実はこれ全部彼女が作っている。


「ヘェ〜、キミこんな事もできるんだねぇ」

「勿体ないお言葉です♪」


本当に前職が料理人だったんじゃないかと疑うほどのレベルだ。否、実際そうだったのかもしれない。彼女は経歴一切不明で、一介の兵士…要するに下っ端兵から現在の地位まで上り詰めたのだ。そして彼女は自分の内を一切語らない為、誰も彼女の過去を知らなかった。


「ネェ、せっかく作ったんだから一緒に食べようよ」

「よ、宜しいのですか…!?」


一緒に食べようよ、とルマに誘われた時は最初は驚きが強かったが、なりふり構わず目的の事も忘れてガッツポーズをしてしまいそうになったところを、マホミルは根性で止めた。寸のところで理性やらなんやらでブレーキをかけることが出来た。危ない危ない。


そんな動揺してるマホミルにルマは言葉を続けた。


「ウワサによれば、キミ、甘いの好きなんでしょ」

「…まぁ、そうですけど……」


そう、マホミルは甘い物が好きであった。重度の甘党であり、仕事の合間を縫ってまでして何かしら食べている印象だ。こないだは、ルマにねだってチョコレート工場を建てていたり、勿体ないからという理由で、毒がもってあると分かったうえでスイーツを食べ続けたりしていたほど。そんなに食べてて太ないのかと心配になるが、本人曰く大丈夫らしい。まるで、OLをそのまま小型化したかのようだった。


上司からの誘いに断りきれなかったマホミルは、少し逡巡した後、最終的に一緒に食べることになった。


「ン~オイシイ〜!!」

「トマトもちゃんと食べてくださいね…「ヤダ」


…女子会かな?


けど、本当に美味しそうに食べるルマを見てると、日々のストレスやらなんやらが癒されていく。また頑張って作ろうってなる。やっぱウチの子可愛いなぁ。


ルマは紅茶に手を伸ばした。ここを切り取って見ると魔王独特のカリスマ感がある。


(覇王サマ今日も素敵…)

「?」


マホミルからの視線を疑問に思いながら、ルマが紅茶を飲もうとした瞬間、ルマは猫舌なあまり紅茶が熱くて火傷してしまった。


「あちっ」


(覇王サマ今日も素敵♡)




禁忌・殺戮キラードール〜共闘〜


「全く、戦況が悪いって言うから来てみたものの、かなり酷い有様だねぇ」


(雑魚はこちらの雑魚に任せておけばいいのに…)


「わざわざワタシが出向く事になるなんて」


マホミルは空から戦場を見下ろした。戦火で焼き尽くされた地上は、血肉の焼ける匂いがした。生温かい風が上空に吹き乱れる。


時々、抵抗勢力が反乱を起こす事がある。大凡は我が軍で制圧が完了してしまうのだが、今回は中々反乱が収まらなかったので、私が出張するさまになった、と。今回だってたったの2000だ。



まるで燐火のような彼女は、ルマの身の回りの世話から、支配した星の管理、軍の指揮など、側近と並び、ありとあらゆる事をこなす存在だった。しかしそれは、本来の仕事ではないのだ。


何故、彼女が、一介の兵士…ただの下っ端兵から第二補佐官まで上がってこれたのか。


確かに優秀だったからなのはあるのだが、本質はそこではない。ルマの身の回り世話、支配した星の管理、軍の指揮が、側近一人でも問題なくこなせるとして、圧政者側が一番欲しがる人材とは何か。


文字通り一騎当千な軍人だろう。


そう、彼女の本当の仕事は、反乱軍の殲滅であった。



「さーて、我が軍はほぼ壊滅状態。一体どうしてくれたことか…」


状況の割に呑気にそんな事を考えているうちに、反乱軍の武装した兵士達が、お互いに声をかけながら、たった一人の援軍を構え撃つ態勢をとる。


「撃てえぇぇ…!!」


号令と同時に兵士達は銃を一斉に打ち込み、次々と標的へと命中させていく。


「これで奴も…」


勝利を確信していた兵士達の顔が一気に青ざめる。立ち込めた煙の中には、全くの無傷で健在な姿をしたマホミルの姿があった。王家の血筋を引く月色に光るその瞳は、見る者に本能的な恐怖を与え、怯える兵士達を冷たく見下す。


「この程度で私を追い詰めたとでも?」


片手を広げる様に手を運ぶと、沢山の魔力球が現れる。


「皆、シールドを張れ!!」


兵士達は腕を前に構えると、目の前に光のシールドが現れる。大丈夫、これで防げる。兵士達はそう思っていた。それを見たマホミルは魔法陣に更に魔力を注ぎ込み、魔力球はバチバチと音を立て、一気に膨れ上がり大玉と化する。兵士達の顔が一気に青ざめていく。



特大の魔力球が放たれたと思った途端、巨大な魔法陣が地面に浮び上がり、戦場が文字通り火の海となった。血肉の焼け焦げた匂いが鼻を突き抜け、思わず眉間にしわを寄せる。地獄の業火かと見間違えるほどの火力。そこにいたは紛れもなく、燐火の処刑人であった。


炎と煙が立ち込めるの中に、両眼が光るのが見えた。


「なるほど、今回は雑魚だけではないということか…」


「漆黒の死神、黄泉帰り(蘇り)の処刑人、葬送の魔術師・マホミルはお前だな」





(クッソ…、コイツ強い……!)


近距離だと手数と技術技で押され、態勢を持ちなおそうと下がっても即座に距離を詰められる。これじゃ中〜遠距離の私の強みが引き出せない。一般攻撃魔術の一級の広範囲・高火力の大技を出そうしても、一定時間の詠唱と特定の手の運びが必要だから、発動する前に攻撃されて終わりだろう。しかも速い。私の速さについてくるほどに。ここまできても相手に速さがなかったら、私の圧勝だっただろうに。そもそも戦場にランスと盾だけで来るってどういうこと。中世の戦争じゃないんだから。まあ私も魔術があるとはいえ生身で来てるんだけどさ。しかもコイツ反乱軍とかじゃなくて、ただ単に強い奴がいたから戦いに来たって、ただの戦闘狂かよ。戦闘狂は殺人に快楽を覚えるタイプ。私達軍人とは全く人種が違う。私魔力もコントロールも、比べる程もないくらい私の方が上なのに、ただ単純に手数とスピードだけで私が押されている。目的の為に素性を隠してる私は、全く本気が出せないから尚更だろう。こっちは攻撃を回避しつつ反撃するのが精一杯ってとこだ。


(これ…、相性サイアク)


恐らく、このままでは魔力切れで負ける。といっても、これと言って打つ手はない。完全に積み。いっそバニッシュで逃げて態勢立ち直ってからもう一度出向くか。


そんな事を考えていた最中だった。少しだけ、ほんの一瞬、気が抜けただけだった。目の先に剣先が見える。


(あっ、ヤバい。避けられない)



真っ直ぐ、自分目がけて振り下ろされたはずの剣が、突如視界から消えた。え!?何があった!?


「ハァ、全く、ホッント手のかかる部下だねぇ…」


「覇王サマ…」


マホミルを庇うようにして目の前に立ち、さっきまで自分が追い詰められた敵と対峙するルマの後ろ姿は、珍しく勇ましく頼もしく、マホミルの目に深く深く焼き付いた。


「アー、マジめんどい…なんでボクがこんなコト…」


「……まぁいいや、キミはボクが適当に守ってやるから」


「大人しくそこで転がってろ。バカ」



「何この素晴らしいツンデレなんだけど…「それ以上言ったらボク帰るカラね」

「すみませんでした」




チカラの対価(側近と覇王様のお話)


「〜〜っ!!」



「おや、どうされたのです?御加減が優れないご様子ですね。どうかなされましたか?」



「…またあの時の事を思い出しているのですね」



「星の戦士の力は強大なものであったと聞いておりますが」


「それとも…」




「後悔しておられるのですか?貴方は」




「もう恐れることはありません。彼は死にました。貴方の手によって」



「ですが、嘆いてももう遅いですよ」



「一度失った命を取り戻すことは、貴方の力を用いても不可能です。貴方だって分かっているでしょう?」



「しかし貴方はそれを引き換えに素晴らしいものを手に入れた」



「今や、この光り輝く星のみならず、全ての星全ての宇宙が貴方の手の内です」



「その苦しみや後悔も一時のものです。彼らの事もすぐ忘れるでしょう」



「…デモ、何をしても物足りないし、満たされないんだ。欲しかったものは手に入れたのニ…」


「物足りない?満たされない?ならば私が満たして差し上げましょう。私は彼らとは違いますから、いつ如何なる時であろうと貴方の傍らにありますとも。貴方には全てを望む権利がある。何故なら貴方は、全宇宙の支配者であり王なのですから」




「さぁ、彼らの事はもう忘れましょう。貴方が苦しむ必要はもうないのです。私だけは貴方の共にあります。我が王よ」



* * * *


『■■■■、ボクね、』



 ✝


「キミと、トモダチになりたかったンダ…」


* * * *



「…もう独りは嫌ダ」


「ええ、これからはずっと一緒ですよ」





はじめてのおつかい


「だ〜れに〜も〜、な〜いしょ〜で〜、おー出ーかーけーなのヨォー♪」


城をちゃっかり抜け出し護衛もつけず、一人で城下町のほうへ出かけているルマを、遠くの方の茂みに隠れハリボテの草の看板(手作り)とビデオを手に、保護者 (約2名) がその様子をじっと見守る。


「異常は?」

「200m先2時の方向からキランが接近中、どうやらルマとの接触を図ろうとしている模様」

「オーケイ、殺れ。」

「落ち着いてください」


マホミルがマジで殺ろうとしたので、寸のところで側近の彼が止めた。ちなみにキランとはルマの知り合い…要するに腐れ縁であるが、二人からすれば完全に部外者である。素の時点で規模が洒落にならない狂気的愉快犯な一面があり性格もアレなため、早まったマホミルの判断も分からなくはない。クズの周りにはクズが集まると言うべきか。


「ここは二手に分かれましょう!私は覇王様の所に行くので、側近様はあのピエロ野郎(キランのこと)をぶちのめしてやってください」

「えなんで私がキランのほうなんですか交換してください」

「えワタシも嫌ですよ覇王様の方がいい」


・・・


「「ならば…」」


「「じゃんけんで勝負です!!!!」」


「「最初はグーじゃんけんぽい!あいこでしょ!あいこでしょ!あいこでしょ!あいこでしょ!あいこでしょ!!」」

「なんで同じのばっか出すんですかやめてくださいよ!」

「いやそれはこっちのセリフなんですけど」

「「あいこでしょ!!」」

「やった〜側近討ち取ったりぃ〜〜」

「 」絶句


* * * *


「覇王サマ〜!」

「ア、マホミル」


向こうからあわあわと少し慌てた様子でマホミルが走ってきた。


「ボク買い物に行ってくるカラ」

「じゃ…じゃなくて!護衛もつけずにキケンです、大臣達が心配して探しておりますよ!?」

「エ、めんどくさ〜。じゃあキミがボクのこと守ってよ」

「ワッワタシガデスカ!?」

「身に余る光栄ですが…ワタシのような者が覇王サマのお側を歩いては…その…」


マホミルはオドオドとその場で怖気付いた。それを見て、ルマは喉を鳴らして笑った。


「ククッ、そんなことで悩むなって。キミも立派な女の子でしょ」


「さぁ、行こうカ」


ルマは向き直って前に進むが、マホミルはフリーズしたままで動かなかった。しばらくたってこの意味を理解し、とても明るい満面の笑みで喜んだ。


お目当ての城下町につき、マホミルは感銘のあまり吐息が漏れる。城下町の大通りは人通りに溢れ、いかにも賑わっていた。ぱっと見中世的な印象が強い一方で、重厚で近未来的な様にも見える町並み。城下町ができてからそこまで長い年月は経っていないはずだが、とても味が出ていた。

ちなみに側近の彼も、某危険人物をしばいてからルマ達と合流し、一緒に城下町に来ている。ルマは、本人だとバレないように変装しており、いかにも普段着っていう感じだ。お忍び姿と言うやつか。そこらを歩いていても関係者以外は、綺麗な人だな程度にしか思わないだろう。

その後、気になるお店を手当たり次第、時間が許す限り三人で巡った。 


「ア、ちなみにオマエ(側近)は荷物持ちね」

「私だけ酷くないですか」


魔導書の古本屋があると聞いて、どんなものかと覗いてみた。老舗で小さな店だったが、品揃えは存外悪くなく、それなりに興味をそそる書籍をいくつか発見することができた。


「こういう老舗はだいたい珍しい魔導書が置いてあるんダヨ」


ご機嫌な様子で棚から魔導書を選ぶルマを、マホミルは見つめた。その琥珀色の目は慈悲深く、どこか切なそうだった。


「…覇王サマ楽しそうですね」

「……そうですね」


魔導書を購入し終えた後、マホミルはルマに向かって尋ねた。


「何か興味深い魔導書はありましたか?」

「服の汚れを綺麗さっぱり落とす魔術」

(くだらねえ。用途がくだらねえ)


ふ/ざ/け/る/な


「うぅ、暑い…。ノドが乾いて死にそうだよぉ」


暑い。暑すぎる。温暖化があるとはいえ最近の夏は暑すぎないか?!


元々暑い地域に長期間滞在してたこともあって、冷却魔術を独自に開発して用いているのだが、それでも暑い。暑すぎる!!


あまりの暑さに立つ気力さえもなくなり、いつの間にか地面に倒れ込む姿勢となっていた。洒落にならないほど冷却魔術使ってこれとかマジでなんだよ。一、二年前までは、40度!?今日めっちゃ暑いじゃんぐらいだったのに、今では40度超えが当たり前になりつつある。もう温帯から熱帯に名前変更しろよ!!


そんな異常な程の暑さにルマは苛立ちさえも覚えるが、こんな暑さの中ではただ立ってるだけでも体力の消費もえげつない事になり、徐々に怒る気力さえなくなりつつある。もう自分は暑すぎて死んでしまうのではないのかと錯覚するくらいだ。


そんな完全に夏バテ状態のルマに、側近が場に合わないほど涼しい顔で声をかけた。


「おや、これは由々しき状態ですね!

 私が飲み物を持ってきて差し上げましょう」


しばらくしたら、側近が飲み物を持ってきて此方にやって来た。うわぁ、やっとこれで助かった…、


と思ったのは束の間。側近がズバッと、ルマの口に緑茶 (熱湯) を無理矢理差し出してきた。


「あっっ、熱っづ!!!!こ、コレ緑茶ッッ!!ぐふ、ゴホッぐえっごっほ!!」




むせた





「中々、上手くいかないものですねぇ」


あの後、側近が一人でぼそりとつぶやいた。たまたまそれを目撃したルマは、何かに閃き、ある仮説に結びついた。


(まさかアイツ…今までの嫌がらせは本当に好意デ…?)


ルマは思い切って側近にその事について問う…というか叫んだ。思い切って。突然声がしたのに驚いた側近はビクッ、と跳ね上がる。


「ねッ、ネェ!!お前がいつも嫌がらせしてくんのはわざとじゃなくて本当ニ…」

「え?わざとですけど?」


ふ/ざ/け/る/な




こうかはばつぐんだ!


「ネェ、キミの弱点って何かアルの」


ルマは一つの素朴な疑問を思いついた。マホミルの弱点についてだ。

初めて会った時から、彼女は強かった。たった一人で、何ヶ月も続いていた反乱を静め、時には抵抗勢力の本拠地に一介の兵士として侵入し、特に疑われることもなくあっさり内部に入り込み、最新の軍事兵器の情報及び設計図を盗む任務を完了させつつ、そのまま基地を壊滅させたりと。だからこそ強いからこそ、ボロが…弱点が気になってくるものだろう。


「いや、なんでですか急に」

「どうしてそんなに強いんダロウ、って」

「…ん〜、そーですねぇ…、強いて言うならば……、塩ですかね」

「…シオって…、あの塩…??」

「はい!ワタシ、塩だけはどうしても昔からダメで、塩かけられると弱ってしまうのですよねぇ」

(ナメクジなの!?)

 

〈実例〉

『アーメンラーメンハレルーヤ!!』

『ぎゃあああ!!!?』


「…みたいに」

(イヤ違う悪霊だったか)



ちょっと待ったあああ


ある日突然 好感度が見えるようになった。最初は何のゲージが全く分からなかったが、色と数値で好感度を表しているのだと分かった。


「何か変な魔法薬でも飲んだでしょうか」


が、分かったところでどうする事もなく、ただ視界に入るゲージが鬱陶しいと思いながら、今日も側近の仕事に勤めるのであった。


「あ、側近サマ今日もお仕事ですかー」


向こうからマホミルが甘味を食べながらやって来た。行儀が悪いだとか無礼だとか言いたいところだが、言ったところで到底直らないので、適当に短く返事を返しておいた。


マホミルが己に向けている好感度は、マイナス表記でゲージの枠からゆうに越えていた。そして向けている感情も憎悪、怨念、嫉妬、怨恨、といった負の感情ばかりで、嫌われてるというレベルではなかった。よくいつも本心を覆い打ちのように隠し、まるで素の自分とは全くの別人となったように、外側に出さずにいるよなとつくづく思う。


(…いや、実際にあれは覆い打ちでしたか…)


まぁ、そんなことは正直に言ってどうでもいい。


「あ!覇王サマだ!おーい覇王サマ〜!!」


少し離れたところに、ルマが通っていくのを見かけたマホミルが声をかける。


「ヤァ、マホミル。相変わらず何かを食べているネ。お腹壊したりしないの?」

「大丈夫です!ワタシお腹壊したことないので」


2人のやり取りを見ていると、マホミルの好感度が自分に対して向けていたものとは、色といい数値といい全くの別物に変化した。ルマに向けているものということか。


(あれは…見たことない色ですねぇ)


黒。これが意味する感情は分からないが、大凡の予想はつく。しかもゲージは振り切れている。というかはみ出している。どんだけ好きなんだよ、と突っ込みたいところではなるが、言う訳にもいかないので、側近は黙り込む。


そして視線をルマのほうに移すと、ルマがマホミルに対して向けているのは友情に近いものだった。


つまりマホミルの片思い。実ることのない恋に、思わず同情してしまう。


「それでお前は仕事?」


ルマがこちらを振り向いた途端、ゲージが恋愛のほうに振り切る。改めて具体的に形にされると、初めて見る光景に困惑するものがある。


普段冷ややかな側近の顔が揺らぎ、何も返ってこない側近に不審に思ったのか、ルマは首をかしげる。


「ネェ、ボクが聞いてるのに無視?それとも聞こえなかっタ?」

「いや…その……」


「もしかして耳が遠くなっちゃった?歳はとりたくないネェ、クククッ」


悪口と嫌味を言うルマの背後には、〈アイツの事だし大丈夫か。マァ、心配だなぁ〉という文字が浮かび上がる。恐らく、心の声が具現化したものだと思われるが。


言っている事と本音がこんなにも差があるのだ。あの子の事だし無理もない。表情を見ても内心の事を微塵も感じさせないのも余計である。


「…ルマ」

「ナァニ?」


「好きです」

「…へ?」



頭の中が真っ白になったのだろう。本音である言葉も出てこない。が、徐々に側近に言われた言葉を理解していったのだろう。


ものすごい勢いでルマの心の声が飛び出してきた。


〈スキ…?今…エ、スキって…、アイツが…!?だっ、誰に、ってボクにッ?エッ!?ボクに…、スキって……好き!??!〉


「アノ…突然、オマエ…、何、を…」


流石動揺しているのだろう。本音との差がなくなってきている。本心も本当の気持ちも、全て隠そうとするあの子の、見栄をプライドを、一枚一枚剥がしていくのがたまらなく好きだ。


「私と結婚前提でお付き合いを…」


「ちょっと待ったあああ」


さっきまで黙ってたマホミルがそのように叫びながら、ルマと側近の間に割って入って、咄嗟に側近の告白 (いつものこと) の邪魔をした。


そんな事をしても、マホミルに勝ち目はないのだが、本人はそれどころではなかった。




悪役アテンション・エコノミー


これは、もしかしたらあったかもしれない覇王様と側近のお話


全宇宙を支配してどれほど経っただろうか。魔王城の一角にある自室、その窓際にルマは頬杖をついて、外の景色をぼんやりと見つめていた。ガラスには、黒いローブを着た退屈そうな自分が写っている。その向こう側に広がる宇宙(ソラ)には、自分が今までに支配してきた星、手に入れた膨大な宇宙が広がっている。それでもルマ、不満そうにため息を吐いた。


「どうかなさいましたか?」


尋ねてきたのは、紅茶を下げに来た側近だった。左右に伸びた縞模様の角が特徴的な側近の彼。まるで黒い炎のような彼は、ルマの身の回りの世話から、支配した星の管理、軍の指揮、そして時には自ら前線に立って反乱軍を殲滅するなど、ありとあらゆる事をこなす存在だった。そして、この城の一角、ルマの自室に唯一立ち入りを許可されました存在でもある。


「別ニ…何デモないよ」


何もないワケではないけれど、

ルマは嘘を吐いた。

と、側近の彼も窓の外を見て、

「今日はよく晴れていて綺麗ですね…。最近は抵抗勢力も少なく、貴方の宇宙は平和ですね」

「平和……ホーント、呆れかえるほど、平和だね」


ふと、昔訪れた星の事を思い出した。あれは、自分が力を手に入れる前に訪れた星だった。確か、『呆れかえるほど平和な星』そう呼ばれていた。嗚呼、あの星の住民はこんなふうに平和だったのか。でも、今の自分と違って、彼らは楽しそうにしていた。


自分はもう、誰にも馬鹿にされないほどの力を手に入れた。まだ時折反乱を起こす者もいるが、それはそれで平和そのものだ。もう、嫌な思いをしなくていい。

 しかし満たされない

 何かが足りない

再び溜息を吐いた。足りない。全てを手に入れたはずなのに、満たされない。幸せとは思えない。退屈だ。


「しかし油断してはなりませんよ。今でも時折反乱は起きていますし、今の貴方は全宇宙の支配者です。貴方を倒して成り代わろうとする者もいるかもしれません」


緩んでいる自分が気にかかったのか、側近の彼はそう忠告する。けれどもルマは、もう誰とも話したくなった。


「モウそんなヤツほとんどいないよ。イイカラ早く下がっちゃって。ボク一人になりたいんだ」


何が足りないのだろう。何が悪いのだろう。考えても考えても、苛立つばかりだ。


命令された彼は、黙って紅茶を下げる。そのまま部屋から出ていった。


「…上手くいかないですね」


この王の一角に入ることを許されているのはただ彼一人。

誰もその呟きを聞かない。


「せこくやるのは止めましょう。ここは大きく行動にでないと…」





一方


日が沈んですっかり皆が寝静まった頃、一人魔王城の屋根の上に乗ってを空を見上げた。一つの歯車が埋め込まれた青い半透明の装飾の付いたリボンを、空に翳して覗いた。星の光によって照らされたそれは、歯車を影にして、まるで空中の星々を閉じ込めたかのように、コバルト色に輝いて見えた。


「…待っててね、■■■■」


その呟きは誰の耳に届くことなく、ただ星空に消えた。



「ああ、‘星が綺麗ですね’」


満天な星空の中心ともいえる位置には、特に存在感がある星が一つ…紅い星が輝いていた。


(紅い星、ねぇ)


ふと、昔 私達を追い詰め、今もなお束縛し続ける存在の事を思い出した。アイツさえいなければ、私は死ななかった。あの子は独り残されなかった。ずっとあのまま、今も幸せに暮らしてたのに。


まただ、思考が引っ張られてしまった。何度、叶いもしない‘もしも’を考えただろう。何度、都合の良い‘もしかしたら’を考えただろう。現実を受け入れられず、これは何かの思い込みだと思った。勿論考えたところで現実は何一つ変わらないというのに。

否、もうどうでもいいんだ。世界の仕組みと自分達の運命に気付いてしまったからには、私は復讐の道を歩むしかない。今は、アイツを殺してあの子を救う。ただそれだけだ。


「自分が何者かなんてもうどうでもいいわ。お父様もお母様も、住むところも、私も、みーんな燃えてしまったのだから」


「だから、アイツを殺して終わりにしましょう」



「ね?」



—明日の月は綺麗でしょうね





側近の彼が裏切ったのは、それから間のなくしての事だった

また、宇宙の端で機会を伺っていた反乱軍、そこに彼が寝返った。

寝耳に水、ルマは非常に戸惑った。何故彼が。待遇だって悪いものではなかった。いつも自分に尽くしてくれた彼が。


『貴方を倒して成り代わろうとする者もいるかもしれません』


まさか、とは思った。自分を倒して王になろうと企んでいるのか。考えれば考えるほど真相が分からなくなる。細かい真相までは分からないが、とにかく彼は自分を裏切った。昔から、よくしてくれたのに。そう思うと、苛立ちが湧いてきた。


すぐさま、彼と彼が寝返った反乱軍を倒すように命令を出した。彼が向こう側についたとはいえ、反乱軍は雑魚。すぐ終わる。

そう思っていたが、この戦いは全宇宙を巻き込むまでに拡大した。

側近の彼が寝返ったという情報は、瞬く間に広がった。

元々は圧政者側とはいえ、それは強力な側近。再び立ち上がろうと、人々が立ち上がったのだ。そして何より彼自身が強力だった。ルマはほとんどの事を彼に任せていた。そのため、彼はありとあらゆることを知り尽くしていた。どの星に行ったら強い武器が手に入るか、どの星に捕虜が閉じ込められているか、どの星の施設を潰せばこちら側の戦力を一気に落とせるだとか。加えて、こちら側は突如彼がいなくなったのだ。代わりをたてても彼ほど上手くいかない。最終的にルマ自身が全体の指揮を行い、前線に立って敵を魔術で蹴散らした。丁度苛ついていたし、何よりこうも手強い敵が現れて、苦戦するのも楽しく思えた。

思えば暇だったのだ。逆らう相手がいなすぎて。いても弱すぎて。遊び相手がいなかったのだ。


ルマは積極的に彼がいるという情報が入った場所に出向いた。各地の雑魚はこちらの雑魚に任せておけばいい。とにかく彼だ。彼が一番の問題なのだ。けれど彼も流石の彼であった。そんなルマを見通しているかのように、姿を見せずに逃げていく。どこまで追っても、追いつかない。


けれど、一度だけ彼に追いつくことが出来た。その星で、今まさに彼が反乱軍と戦略を立てているという情報が入った。すぐさまルマはそこに出向き、反乱軍の拠点を単独で襲撃し、彼を探しまわった。

彼を見つけたのは最後だった。

拠点内を全てまわり、またしても逃げられたかと思って外に出た矢先、離れた崖のほうで彼を見つけた。こちらに気がついたらしく、遠くの彼が振り向いた。

距離はあるものの、随分久しぶりに彼の顔を見た気がする。以前と全く変わらない、冷ややかな顔。しかし一瞬その表情がひどく揺らいだものだから、ルマははっとなった。

彼は向き直すと、先を急いでいった。結局、その日は彼を捕まえられなかった。その少し後、彼が去った方向から、宇宙船が飛び立ったという情報が入った。


冷静に考えてみれば、彼は何故わざわざ反乱軍に寝返ったのか。彼なら、夜自分が寝ている所を忍び込んで殺すことも出来たはずだ。そうしなくても、彼は誰よりも自分の側にいたのだ。それ以外でも殺す機会はいくらでもあっただろうに。それが何故こんな面倒なことを。もし本当に、自分に成り代わる事が目的ならなんでこんな回りくどいことをしたのだろうか。賢い彼なら、もっとスムーズに事を進める事が出来ただろうに。


何か企んでる





その日以来、ルマは前線に立つことを止め、城の中で静かに戦況を見守った。するとどうだろう。反乱軍側が乱れ始めた。元側近の彼も前線に立つことが減り、あっという間に反乱は鎮圧されていった。果てに、彼をようやく捕らえた。ルマが生け捕りにするよう命令した為、その場で殺されることなく城に連れてきてもらったが、抵抗は全くしなかったらしい。




「まさか、私がアンタを連行する日が来るなんてねぇ」


月色の瞳の冷ややかな表情でマホミルは続けた。右手には魔力で練られた鎖を手にしている。その鎖の先には元側近の彼が繋がっていた。鎖を取り巻くように続く魔法陣がぼんやりと光を放っていた。彼の力を封じ込めるためのものだ。


「…殺さないのですか」

「覇王様が生け捕りにして来いってさ」


それにアンタそのくらいじゃ死なないでしょ、とマホミルは言葉を続けた。

しばらくしてから、マホミルがちらりと元側近のほうを見た。


「…多分あの子はもう‘気付いてる’。帰ったらなんか言ってやったら?」

「殺さないのですか」

「いやだから生け捕りにして来いって…!」

「そうじゃなくて‘復讐’の話です」


「今なら貴方 私を殺せますよね?」


一瞬、マホミルの顔が酷く揺らいだ。しかし、しばらくしてまた静謐な表情に戻った。その顔は冷ややかながらも、相反する複雑な感情を抱えているように見えた。


「…あの子がアンタを許し必要とするのであれば、私もアンタを許すしかないわよ」


「私がどうして怨霊にまでなって現世に留まったか分かる?ただ単にあの子が心配だからよ。私を現世に縛り付ける憎悪も執念も、結局はあの子を大切に思ってるからこそのもの。確かに私は怒ってるわよ。私達を殺したのも、あの子が傷ついたのも…ずっと。けど、優先すべきは私なんかよりあの子の思い。私の個人的な恨みはその次よ」


「だから今アンタに死なれたら困るの」





あの一角の地下に投獄した。彼は強い。だがここならルマ自身の魔術で抑え込めるから、と理由をつけて。

人知れず、ルマはその牢獄へと降りたった。

暗い部屋の中、魔術で鍵を開けて牢に入る。中では床に刻まれた魔法陣がぼんやり紅紫色に光っていた。彼の力を封じ込めるためのものだ。奥の暗がりから鎖の音がした。ルマが来たのに気付いた彼が立ち上がったのだろう。けれど鎖に繋がれているため、前に出ることが出来ない。だからルマが前に出た。


「……お久しぶりです。覇王様」


彼がそう言うものの、ルマは返さない。目の前の彼を見つめるだけだった。裏切られてから、こう面と向かってしっかり向き合うことはなかった。今の彼は、以前に比べボロボロになっていた。スカーフやマントは汚れ破けていて、角にも傷がある。


「……どうしてボクを裏切ったんダイ」


静かな口調で尋ねる。もう怒りは感じていない。彼が何か隠しているから。

彼は不思議そうに目を細めるも笑った。


「それは……貴方が気に入らなかったからですよ。昔からこき使って、こちらも溜まるものがあるのです」


組まれたその手の爪。以前は艶やかな紅に染まっていたが、今はくすんでしまっているうえ、何本かは折れていた。


「だから貴方を殺し、新しい王になろうと考えたのですよ。至って単純な理由でしょう?」

「ダカラって、わざわざ反乱軍を味方につける必要はあったのかい。キミなら、ボクの寝込みを襲えたダロウ?その方がよっぽど簡単ダシ、こうも時間もかからなかったと思うケド?」

「汚い手は気が進まなかったので」


けれどルマは、彼が命令のためなら手段を選ばない事を知っていた。彼は自分の命令を熟すためならなんでもした。今更そんなするのとは思えない。


「さっきから、キミずーっと嘘吐いてるヨネ?」

「……?」

「ボクはここまで嘘で上がってきたンダ。オマエなんかのシロートの嘘なんて簡単に見破れるよ。デ?何を企んでいるんだい?」


彼が嘘を吐いている。それがはっきりと分かった。どうもすっきりしないのだ。彼なのに。

それでも彼は嘘を吐き続ける。


「もう何も企んでませんよ。私は貴方の事が嫌いで…」

「ソレも嘘」


ルマの長い指が彼の口にあてがわれる。ルマはそのまま、ずい、と顔を近づけ元側近の彼の目を見つめる。


「ボクのコト、嫌い?」


囁くような声で尋ねてみる。それでも、彼は黙り込んだままだった。


「ボクのコト、好き?」


続けて問い詰める。彼はまだ何も答えなかった。だからルマも彼の目を真っ直ぐ見つめたまま。黙って見つめ続け。

指があてがわれた口が微かに震えた。その途端、彼が逃げるように顔を背けた。その瞬間ルマは彼の頬に手を当て、こちらを向き直させる。そしてそのまま見つめ合った。

ついに、元側近の彼が溜息を吐いた。


「ずるいですよ…貴方は」


鎖の音がした。彼もルマの頬に触れたかったのだろう。しかし鎖はそこまで長くなかった。ルマはその手に自らの手を重ねる。


「貴方が構ってくれないから、私は裏切ったのです」


ようやく彼が話し始めた。彼はどこか意地らしくその手を絡める。


「最近の貴方は、どこかぼんやりしてばかり。あの手この手で気を引いてみようとしましたが、反応はちっともない。だから貴方の敵になることで、もう一度見てもらおうとしたのです」

「ヒールになろうとした、ってことダネ…」


そうだ。昔の自分もそうだったじゃないか。誰にも相手にされず、だから力を手に入れヒールになり、支配しようと考えた。支配すれば誰もボクを裏切らない。離れていかない。

あの時、ただ誰かに構ってほしかった。誰かに側にいてほしかった。


「…」


言葉を失った。

今ようやく、ずっと自分に足りなかったこと、忘れていたことに気付いた。否、思い出した。そしてずっと側にいたことに気付いた。


「貴方は私を必須探してくれました。とても嬉しかったです。構っていただいて。でもあの時、貴方の姿を見て、もう一度会いたいと思ってしまいました。けれど貴方は城に籠もってしまったでしょう?これでは貴方に会えない。それでもう無意味に思えてきた事もあり、もうやめにしようと思ったのです。そちら側に捕まれば、またこうして貴方に会えるかもしれないとおもいましたし」


そしてこの牢獄で再会した。


「ケドそれは危険な賭けだ。もしボクが怒り狂ってたら、今この場でボクに殺されてたかもしれないヨ?」

「…それはそれで本望です」


彼はそう言って微笑んだ。けれども少し悲しそうな顔をして。


「けれど貴方既に気付いていたのですね。だから城に籠もった。……さて、私は貴方がせっかく支配した宇宙をかき乱したのです。どんな罰でも受けましょう」


絡ませていた手を離し、彼はルマの言葉を待った。

ルマも手を下ろした。

彼は裏切った。理由はどうとあれ、幾つかの星を支配から脱せたのは事実だ。おまけに鎮まっていた抵抗勢力に火をつけ、全宇宙を滅茶苦茶にした。


けどそれは自分と同じことだ。

そして彼がやっと手に入れた存在だったから。


ルマの片手が空中でゆらりと宙を切った。途端、元側近の彼の鎖が消え去り、床に刻まれた魔法陣が消えた。


「…これは」


彼は驚き戸惑う。しかしルマは構わず彼の手を取る。


「ジャア、紅茶淹れてきてよ。ボクの為に」

「しかし……」


私は罰を受けるべきでは、という彼の言葉を遮り、ルマは意地悪ぶった笑みを浮かべる。


「どんな罰でも受けるんでしょ。ボクは今、キミが淹れた紅茶が飲みたい。ソレニ…」


「キミのおかげでやっと気付けたんだ。ボクは誰かに構ってほしかったんだ。アリガトウ、思い出させてくれて…」


ルマは彼を連れて牢獄から出ていく。それは元の呆れかえるほど平和な日常に戻ることを意味していたが、前とは違う。ようやく自分がほしかったものを思い出したのだから。それがすぐ近くにいたことも。


「アア、その前にその格好どうにかして。そしたら紅茶淹れてヨ。キミと話したいことが山程あるんだ。夜空でも見ながらさ」

「私も、貴方と話したいことが沢山あります」


今日も星はキラキラと輝いている。







「結局、今回私の出番ほとんどなかったなぁ」


一人夜空を見あげながら呟いた。


「まあ、試作品(没案)なのに出番があるだけましなんだけどさ」


ふと、過去の事が脳裏にちらつく。



『そんな嘘ツキは‘マフォ’っていうのよ!』



「復讐、終わっちゃったなぁ」


今の生活も悪くはないと思えた。どこか懐かしい感じがして。偽りでいいからあの子の側にいられて。きっとこれからも、気付かれないままだろうなぁ。やっと戻ってこれたのに。



一つ覚えといてほしい。誰かのハッピーエンドは、別の誰かにとってのバッドエンドだということ。



「‘ずっとそばにいるのにね’」


目の前には膨大な星空が広がっていた。


【マフォ+ミカエル(見返る)→マホミル=虚言の堕天使】



この小説では、誰の名前も出てきていない。



連載の虚言の堕天使のほうが同じ世界線

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