第8話:清きものと穢れと
エルミアは、今日も変わらぬ日々を繰り返していた。妹フィリアの看病をし、少ない食材を工夫して朝食を作り、薬草を煎じて飲ませてから、ユリウスと共に簡単な依頼をこなす。
最近では、妹が必要とする薬草を自ら採取できるようになったことで、生活もほんの少しだけ上向きになっていた。疲労は日に日に増していたが、それでも彼女は決して手を抜かず、魂を癒す務めも全うしていた。
心配するユリウスをよそに、いちいち、彷徨う魂を見つけては、依頼もないのに浄化してしまう。穢れを引き受ける浄化は、エルミアを確実に蝕んでいく。ユリウスは特に、エルミアが浄化のたびに、激しく泣くことを耐え難く感じていた。
だが、そんな彼女に対する里の人々の目は、ますます厳しさを増していた。
「不浄の者」「穢れを引き寄せる女」——陰でそう囁かれる声は、以前からもあった。しかし最近になって、エルミアが人間の男を連れていることで、里の空気はさらに重たくなっていた。
その男、通称、ユリウス=ヴァルグレイン。本名は、ユリウス=リヴァルド=アルステリア。
粗末な黒衣に身を包みながらも、所作や立ち姿から漏れる気品と剣の気配。顔立ちは端正そのもので、街の娘なら一目で恋に落ちかねない。
そもそも、人間がこの里に滞在すること自体が稀である。長老たちにそれが許される人間など、限られている。この男が、高貴な身分にある者であることは、隠そうとしても隠しきれるものではなかった。
そんな彼が“穢れた”幻哭エルミアと常に行動を共にしている。
——どうして、あんな御仁が、あの卑しい女と?
そんな囁きは、いつしか里の少女たちの話題になっていた。そしてある日、ついにそれは直接ぶつけられる。里の広場。エルミアが水を汲みに行っている間、ユリウスは荷物を整理していた。
その背に、少女の声が届く。
「ねえ、人間のお方・・・あなた様、どうしてあんな汚れた女と一緒にいるの?」
ユリウスは動かなかった。
少女は続けた。「一緒にいたら、あなたまで汚れちゃう。知らないの?あの女、幻哭は、不浄の力に取り憑かれてるって——」
ユリウスが静かに振り返った。
「・・・貴様」
その声音は静かだった。だが、ひと呼吸で場の温度が変わったのを、周囲の者たちは感じた。
「なんてことを・・・」
里の空気が凍りついた。
「自らの魂に傷を負いながら・・・誠の救済を続けている。この世界の毒を、あんな小さな身体で・・・引き受けている。この神聖さが・・・貴様らには、わからないのか?」
少女は言葉を失い、後ずさる。
ユリウスはそれ以上、何も言わなかった。ただ、エルミアが戻ってくる方向を見つめ、その姿が見えるとすぐに歩み寄り、静かに荷物を持ち上げた。