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麗子様は好き勝手に生きてやる!  作者: 古芭白あきら
第1章 幼少のみぎり
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第5話 麗子様は兄に群がる毒花達を撃退する。


「この子が僕のお嫁さんに立候補していてね。今の僕の可愛い婚約者さ」

「お兄様?」

「そうだよね」


 まあ確かにぃ、お嫁さんになる宣言はしましたけどぉ。こんな場所でそれを言いますかフツー?


「ねっ、麗子」


 黒い笑顔が恐いですわよ、お兄様。


 いいでしょう、いいでしょう、お兄様の狂言におつき合いして差し上げますわ。私はお兄様に忠実な可愛い可愛い妹ですもの。


「ええ、もちろんお兄様のお嫁さんになるのは私ですわ」


 私が胸を張って宣言したら、皆さん笑われましたよ。まあ、そうですよね。こんなの幼い妹にありがちな戯言ですものね。ほほほ、なんて微笑ましい光景でしょう。


「まあ、これは可愛らしい婚約者さんですわね」


 あっ、美春様、微笑ましいじゃなくって蔑む目で私を笑ってやがる。


「でも、兄妹で結婚はできないのよ、お嬢ちゃん」


 むかっ!


 そりゃあ、いつかはお兄様も誰かと結婚するでしょう。それは仕方ないし、お兄様が望む女性なら私も心から祝福するわ。


 ただし美春様、テメーはダメだ!


 たとえ、お兄様が望んでもテメーだけは絶対許さん!


「そんなこと言われずとも存じておりますわ」

「あらあら、それは賢いお嬢ちゃんだこと」


 明らかに私を小馬鹿にした態度。こんな美幼女に大人げない態度ね。あっ、美春様まだ小学生だったわ。


 だけど、子供といえど容赦はしないわよ。こっちは前世三十年のアドバンテージがあんだからね。


「私がお兄様にお嫁さんになると申し上げたのは、私より劣る方は清涼院家の後継たるお兄様に相応しくないと思ったからですわ」


 私の眼鏡に敵わない女は絶対に認めませんことよ。そんな嫁は小姑になっていびり倒して差し上げますわ。


「ふふふ、それなら私が雅人様の婚約者になるのになんの不足もありませんわね」

「寝言は寝てから仰ってくださいます?」

「え?」

「美春様は始めから論外ですわ」

「なっ!?」

「だいたい、私が美春様に劣るなどと思われていたなんて心外ですわ」


 周囲から失笑が漏れ聞こえてきたけど。


 まあ、みなさん美春様にはご立腹していらっしゃったから敵が多いものね。こんな人心掌握もせずマウント取って敵を作りまくってる女が、お兄様のお相手なんて無理に決まってるでしょ。


「初等部入学前の六歳児にも劣る方をお兄様のお嫁さんになどとてもとても」

「私があんたに劣ってるって言うの!」


 こんな程度でカッカして。

 お話になりませんことよ。


「当然ではありませんか」


 まったくもって美春様はダメダメですわ。

 なんと言っても髪型がドリルじゃない!

          

 清涼院家の嫁はドリルが絶対標準装備ですわ。私より螺旋力の劣る縦巻きドリルに用はございませんことよ。お兄様のお嫁さんになろうなどと十年早い!


 おーほっほっほ、片腹痛い、螺旋力を身に付けてから出直してらっしゃい。


「だいたい、美春様が私とお兄様の高尚な会話についてこられるとはとても思えませんもの」

「こうしょう?」

「そこからですの? 教養豊かで知的な会話という意味ですわ」

「教養って、幼稚園児くらいのあんたが?」


 ふふん、私とお兄様は常に教養のある会話しかしないのよ。


「いつも、お兄様とそれはそれはとても文化の香るお話をしていますのよ」

「へぇ、あんたが正人様と?」


 にやにや笑っておりますが、どうせ六歳児の話す内容だからと高を括っているんでしょ?


 その薄ら笑いをすぐに引き攣らせてやるわよ。


「例えば先日はこれについてお兄様とお話ししたのですが……」


 私はさらりと『徒然草』と紙に書いて美春様に見せる。


「ふん、『つれづれぐさ』でしょ。それくらい読めないとでも思ったの」

「いいえ、まさかまさか」


 ちっ、この程度はクリアしましたか。


「『つれづれなるままに、日くらし(すずり)にむかひて、心にうつりゆくよしなし事を、そこはかとなく書きつくれば、あやしうこそものぐるほしけれ』」

「そ、それがどうしたのよ。それくらい常識でしょ」


 おやおや、美春様の顔が引き攣っていますよ。

 何です? この程度でもうギブアップですか?


「今のは徒然草の序文ですが、こんなのはただの知識でしかございません。教養とは知識のその先にあるものだと思いますの」

「その先?」

「私はお兄様が空海のごとき才人だと申しあげました」

「く、空海?」

「それに対し、お兄様は空海真言宗高野山金剛峯寺の空海かいとお尋ねになられたのです」

「そ、そんなのただの雑学じゃないの」


 まあ、義務教育の範囲ですから雑学と言うのもどうかと思いますが。


「ですが、すぐに徒然草だとお察しになられたお兄様は『御室(おむろ)にいみじき児のありけるを』と返されました」


 ああ、なんて高尚な会話なんでしょう。なんせ衆道ですから。


 男色は日本書記より記述がある古来よりの伝統的な文化。武家社会となっては衆道へと消化し、武士の嗜みとなったのです。衆の道ですよ道!


 信長も家康も謙信も、戦国武将なら一度は通る衆の道。ああ、なんて(かぐわ)しい香りのするバラ色の高尚な趣味なんでございましょう。


「いったい何の話よ!」


 美春様が切れ散らかしていらっしゃいますが、この粋を理解できないなんて文字通り無粋な方ですね。


「ですから、教養のある者同士は全てを語らずとも言葉のはしばしから相手の意を悟ることができるのですわ」


 これぞ私とお兄様だからこそできる高尚な会話のキャッチボール!


「この程度も理解できないなんて、美春様は少~し教養が足りていないのではないかしら?」


 あっ、お兄様が苦笑いされてますわ。


 私、何かおかしなことを申し上げたかしら?

 衆道……とぉっても教養ちっくですわよね?


「さて、まだ美春様は私より教養が上だと仰いますか?」


 かくして久世美春様は、ほうほうのていで逃げていかれました。他のお嬢様方も話についていけなかったご様子で、蜘蛛の子を散らすがごとく去ったようです。


 やりましたよ、お兄様。お望みの通り毒花どもを撃退して差し上げました。ミッションクリアですわ。


 グッとサムズアップしたら、お兄様が少し微妙な顔をされました。


「麗子は本当に六歳児?」

「どこからどう見ても天使のような美幼女ですわ」


 惚れ直しました?


「まったく、我が妹ながら大したもんだよ」


 その時、お兄様がニッていたずらっ子みたく笑われました。


 いつもの穏やかな優しい微笑とは違って、だけど、こっちの方が自然でとっても良きって私は思ったの。


 それから家でソファに座る時は、お兄様の隣が私の定位置となった。


 お兄様と並んで座ると、いつも頭をポンポンしてくれる。私に触れるお兄様の手は何だかとっても温かくて、嬉しくなってすり寄ったら優しく撫でられた。


 それはいつもより少しだけ愛情があったように思えたんだけど、気のせいじゃないよね?


 お兄様とちょっとは仲良くなれたのかな?

ここまで本作品をお読みいただきありがとうございます。

次回、第6話「麗子様はバレンタインチョコを作る。」は明日の夜に投稿予定です。(2025/04/10)

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