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麗子様は好き勝手に生きてやる!  作者: 古芭白あきら
第2章 初等部のみぎり・前編
16/73

第16話 麗子様は最強の盾を手に入れる。


 冗談ではない!


 私と滝川の仲が良いだと。なんてデマが広がってやがるんだ。これ以上、余計な噂を立てられては、本当に滝川の婚約者にされかねないわ。


 それに、私に密かな想いを寄せる男子生徒がいたらどうすんのよ。こいつらは顔と家柄だけは最高級だもの。気の弱い男子だったらデマのせいで諦めてしまうかもしれないじゃない。


 それはまずいわ!


 私の好き勝手に生きてやる計画の恋愛パートが水泡に帰してしまう。私はこれから甘酸っぱいバラ色の学園生活を謳歌する予定なのよ。


 イヤよ、滝川巡ってヒロインと恋の鞘当てなんて。しかも負け確でしょ。婚約者に相手にされず、イジメをするなんて灰色を通り越して真っ黒な学園黒歴史じゃない。


 なんとか滝川早見コンビから距離を取らないと。だけど、サロンじゃ絶対顔を合わせるからなぁ。菊花会(クリザンテーム)のメンバーはサロン出席が必須でサボれないし。


 それに……


「麗子ちゃん、今日こそ私達とお茶を一緒しましょう」


 サロンには仏頂面の死神を連れてくる、笑顔の天使がいるのよぉ!


「ねっ、良いでしょう?」

「あうあう、それは……」


 にっこり微笑む久条美咲様。偉ぶらないし、とっても優しい素敵なお姉様。私としても是非ともお近づきになりたい。


 だけど、美咲様にはいつも滝川がべったり。今も美咲様から離れようとしない。だから、美咲様と同席するのは滝川に接近するのも同義。しかも、美咲様が私に興味津々だから、滝川がやたら私に敵愾心(てきがいしん)燃やしてんのよねぇ。


「ちっ!」


 ほらぁ、今も私を射殺さんばかりに睨みつけて、舌打ちしてるよぉ。


「こらっ和也、麗子ちゃんが怯えているでしょう」

「美咲はこんなヤツが良いのかよ」

「もう、またそんなこと言って」

「あ、あの、私はやはりお兄様のところへ参りますわ」


 ああ、ちょうどお兄様がサロンに入ってこられましたわ。

 アーン、お兄様ぁ、やっぱり私のヒーローはあなたです。


「あっ、麗子ちゃん、ちょっと待って」


 振り返ってはダメよ麗子!


 だって、美咲様がすっごく悲しそうな顔をしてるはずだもの。毎度毎度、罪悪感ハンパねぇのよ。小市民の私にはダメージ大きすぎ。


 ダメよ麗子。

 (ほだ)されては。


 あれは天使の顔をした悪魔なの。

 私を破滅の未来へと導く使者よ。


 美咲様の近くへ行くのは破滅へと近づくのと同じ。不安と罪悪感に揺れる私の弱い心よ鎮まれ。まじゃらく、まじゃらく。


 早く避難所へ飛び込まねば。


「そんなに慌ててどうしたんだい?」


 ああ、お兄様が近づく私に優しく微笑みかけてくださる。ポッ。なんて尊い。なんて頼もしい。


 お兄様が重度のシスコン疑惑の風評被害に悩んでるのは知っています。その原因がいつも傍に張り付いている私だということも。江戸の御世ならば、畜生道へ堕ちろとなじられ、後ろ指さされることでしょう。


 だけど、そのままシスコンでいてください。私の未来のために!


 あゝ、愛しい愛しい私のお兄様。


 駆け寄ってお兄様の袖を――ガシッ!


「避難所!」

「えっ、なに?」

「……じゃなかった、お兄様!」


 さあさあさあ、あちらで一緒にお茶にしましょう。早くしましょう、すぐしましょう。


「ちょ、ちょっと麗子、そんなに引っ張らなくても」


 一刻も早くあの死神から離れたいのです。今も背中に刺すような視線を感じるのよぉ。


 恐る恐るちらりと背後に顔を向けたら――


 ――ギンッ!


 ほらぁ、凄い形相で私を睨みつけてるよぉ。私を殺意で殺す気まんまんだよぉ。なんだって言うのよぉ。離れてあげたんだから、もうほっといてよ!


 しかもしかも、そんな様子をおかしそうに眺めている腹黒眼鏡までいるし。人の不幸を楽しんでるのね。なんて陰険なの。


 美咲様は案の定、捨てられた仔犬みたく悲しそうに瞳を潤ませているし。


 殺意、悪意、罪悪感のトリプルコンボ。


 いつもセットの久条美咲様と滝川和也with早見瑞樹。


 知らなかった。美の女神(ヴィーナス)が従えているのは愛の天使(キューピット)ではなく、恐怖の魔王(アンゴルモア)死を司る堕天使(アザゼル)らしい。つるかめ、つるかめ。


 もっとも、こいつらが滅ぼすのは、世界ではなく悪役お嬢様だけど。なら恐怖と死ではなく正義の使徒なのか?


 いや、マンガでも滝川は無愛想で周囲を恐がらせ魔王ってあだ名だったわ。早見も天使みたいな笑顔で女を(たぶら)かす極悪人よ。


 少なくとも私を恐怖させ、未来には死をもたらす存在なのは間違いないわ。くわばら、くわばら。


 さあ、早く早く、お兄様の取り巻きお姉様達、私の周囲に壁を築いて!


 あゝ、やっと、お兄様の周りに女生徒達が集まってきた――よし、この数なら。


 A.T.(あんたら近寄んな)フィールド発動!


 さあ、今日も安心安全の最強(イージス)の盾よ、恐怖の大王から私を守って!


 ホッ、滝川も諦めたみたい。もう私は、このA.T.フィールド無しには生きていけない体なのね。


 お兄様、もう一生離しまへんでぇ。


 こうして菊花会(クリザンテーム)のサロンで私の定位置はお兄様の隣となった。


 でも、初等部、中等部、高等部とそれぞれ菊花会(クリザンテーム)のサロンも別なのよね。つまり、来年お兄様は中等部へ進級されるから離れ離れになってしまうのよ。


 このA.T.フィールドも一年足らずしか持たないのかぁ。


 来年から、どーしよー。


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