第125話 麗子様はツンな猫に手を焼く。
結論から言うと、夏期講習は三分の一成功して、三分の二失敗した。
なんとも中途半端な数字だと思うやろ?
だけど、こう表現する他ないのじゃ。
まず成功は何かと言うと、もちろん菫ちゃんだ。彼女とはだいぶん打ち解けたと自負している。
……決して私の思い込みじゃないからね。もう恐がられてないんだから。菫ちゃんとはもうマブダチよ。自称じゃないんだからね。
まあ、それもこれも桔梗ちゃんのおかげなんだけど。
桔梗ちゃんがいなかったら、きっと今も菫ちゃんの周りをもだもだしながらウロウロしていた。はっきり言ってストーカーになっていた自信しかない。
そのうち警察のご厄介になってたんじゃないかな。いやぁ、危なかった。
だから、菫ちゃんとの仲を取り持ってくれた桔梗ちゃんには感謝しかない……んだけど、問題は当の桔梗ちゃんとまだ友達未満ってこと。
そう、失敗の一つとは桔梗ちゃんのことだ。彼女は未だ私に慣れてくれない。
名前で呼んでって言ったくせに、桔梗ちゃんって呼んだら怒るし、まったくなんてツンデレさんなの。
撫でろと要求するのに、こっちが触れようとするとシャーッと牙を剥く、まるで気まぐれな猫じゃないか。
どうも滝川の件で私に気を許してくれないらしい。
やっぱり、滝川のせいだ。全部あいつが悪い。
くっそー、君ジャスヒーローめ、どこまでも悪役お嬢様の邪魔をしてくれる。
おかげで、私と桔梗ちゃんの間が菫ちゃんの指定席となっている。可哀想に、菫ちゃんは私と桔梗ちゃんの板挟みだ。
いつも私と桔梗ちゃんのやり取りを間で仲介させてる。菫ちゃんには苦労ばかりかけて申し訳ない。
「ん〜、それはまあ……いいかなぁ」
謝ったら菫ちゃんが頬をぽりぽり掻きながら苦笑い。
「麗子ちゃんと桔梗ちゃんみたいな有名人とお近づきになれてラッキーって思ったし、意外と親しみやすくて楽しいもの。二人と仲良くなれてホントに嬉しいんだよ」
「そう思っていただいているのなら安心しましたわ」
「うん、それにね、二人と一緒だと男子からちょっかいかけられなくなって助かってるの」
なんですと!?
「男の子に一緒に勉強しようって、よく声をかけられて困ってたんだ」
ナンパ目的なのが見え見えだったらしい。気の弱い菫ちゃんは断りきれず、勉強に集中できなくて困ってたそうな。
「だけど、麗子ちゃんのおかげで、ここのところ誰も言い寄ってこないの」
それはあれか?
私が則天麗子だからなんか?
恐くて誰も近寄れんってか?
対して菫ちゃんはモテてモテて、そりゃあもうモテまくって、辟易していたんだとか。
ちくしょー!
私のとこには誰も来んのに。
これが富の偏在ってヤツか。
ところが、則天武后な私と美人すぎる桔梗ちゃんが菫ちゃんの両脇を固めたことで、男子は恐れをなして近寄れんよーだ。
けっ、意気地なしどもが。
これから菫ちゃんは私とラブラブになるのよ。てめぇらの出番はもはやないものと知れ。
ねっ、菫ちゃん、私達はとっても仲良しだもんね。
私達の友情はハムより薄いなんてことないわよね。
ボンレスハム並みにぶ厚いわよね。
なんなら私が超ぶ厚く切ってあげるから!
さて、私の夏休みはこのように山あり谷ありと、まったく退屈させてはくれない。まだ序盤だってのに。
桔梗ちゃんの攻略は高難易度に設定されているようだ。菫ちゃんのような正統派チョロインとは訳が違う。なかなか落ちてくれない。
今も私に監視の目を向けてくるのだ。
おかげで、塾の講義に身が入らないぞ。
これが夏期講習の二つ目の失敗である。
このままでは、二学期の成績もヤバイかもしれん。
うーむ、困った。
そんなふうに困っていた折、突然お兄様からお声が掛かった。
「麗子、今年の夏菊の会は出席するんだろ?」
はて? クリザンテーム……プレ……なんだって?
「えっ、まさか、夏菊の会を知らないのかい?」
夏休み中盤に、高等部と中等部合同の菊花会交流パーティーがあるんだって。
元は菊の季節である十月に催されていた『菊の夜会』という菊花会の同門会だったらしい。
だけど、一部の卒業生がやらかしたせいで、現役生と保護者だけの会に変わり、開催時期も夏休みに移動したそうな。
今では『夏菊の会』と呼ばれ、在校生向けの社交の練習の場になっているらしい。
まあ、現代版デビュタントみたいなもんかな。
あー、そう言われてみれば、原作の君ジャスでもそんなパーティーの話があったわ。
成績優秀なのに家柄を理由に、茉莉ちゃんは菊花会に所属できない。そのせいで夏菊の会にも参加できないんだけど、滝川が自分のパートナーとして強引に連れて行くの。
これに悪役お嬢様の麗子は猛反対。あの手この手で茉莉ちゃんに恥をかかせようとするんだけど、逆に麗子の方が痛い目を見るのよね。
まあ、それも高等部になってからの話。今は君ジャスのストーリーとは関係ないし、理由もなしに不参加ってわけにもいかないか。
「失念しておりましたわ。教えていただきありがとうございます」
「まあ、最近パーティーに参加しているから、着ていく服はこまらないよね?」
うむ、お母様がパーティーに参加するよう強制してるから、ドレスはいっぱいあるんよね。なんなら、まだ一回も袖を通してないものまである。
「あとはエスコート役か……当然。誰にも頼んでいないよね?」
なぬっ、エスコートですと!?
むぅ、もう夏休みに入っちゃってるし、そんなの今から探しようもないわよ。
探す当てもないけど。くすん。
くっ、悪かったわね。どうせ私を誘ってくれる男子なんていないわよ。
どいつもこいつも、どうして私に声をかけない。
まあ、なくてもいっか。
デビュタントみたいなものって言っても、子供のお遊びみたいなもんでしょ。エスコートなんていない子も少なくないでしょ。
「それなら、僕が麗子のエスコート役になろうか?」
「それは是非にお願い致しますわ!」
わーい、お兄様がエスコートしてくれるなら、他の男子なんてお呼びじゃないわ。
「うん、そろそろ早見君がアプローチかけてきそうだしね」
ん? どうして早見の名前が出てくるん?
お兄様はあの腹黒眼鏡といったい何を争っておられるのです?
「ですが、よろしかったのですの?」
「何がだい?」
「お兄様にも誘われたい方がおられたのではないかと思いまして」
なーんてね。シスコンのお兄様が私以外に誘う女の子なんているわけないわよね。まさかまさか。
「はは、声をかけたら断られてしまってね」
「えっ!?」
お兄様に女性の影が!?
私というものがありながら!
浮気ね。浮気なのね。
いや、それよりも問題なのは、お兄様がフラれたですって!?
そんなアホな。素敵にシスコンな我がイケメンお兄様の誘いを袖にする女が存在するの!?
いったいドコのドイツよ!




