第124話 麗子様は真理の扉を開く。
「うううっ、どうして私がこんな目に……」
私と桔梗ちゃんに挟まれて涙目の菫ちゃん。
ホントごめんなぁ。
だけど、菫ちゃん、カントリームシューのチーズあんシメサバ味とキャラまみれ、全部食べちゃったよね。
等価交換だ!
私のカントリームシュー半分あげたから、菫ちゃんの友情全部くれ。
というわけで、有無を言わさず今日から菫ちゃんは私のマブダチよ。よろしくね。
「神宮寺桔梗よ、よろしく」
「私は清涼院麗子と申しますわ。どうぞよしなに」
「存じ上げております」
なんか菫ちゃんが疲れ切った顔してますけど。どうしたん?
「二人とも有名人ですから」
あら、私達って、この塾のネームドキャラなの?
「むしろ、神宮寺さんが私の名前を知っていることの方が驚きです」
「あら、神薙さんは、この塾の有名人ですもの」
へぇ、菫ちゃんって、そんなに有名なんだ。
「私、この塾にいる目ぼしい子は押さえてあるの……日々矢学園中等部一年生、次席入学の神薙菫さん」
えっ、菫ちゃんって、超難関進学校の日々矢で二番の成績なの。すっごいなー。あったまいー。
「それにしても、清涼院さんなら分かるけど……どうして私の名前まで知られているの?」
なんでかしらって不思議そうにしてるけど……桔梗ちゃん、そりゃあんたが美少女だからに決まってるでしょ。
それに、なんで私なら分かんのよ。
私ってば、こんなに大人しいし、目立ってない……こともないけどさー。
ちっ、螺旋力があかんのね。この溢れんばかりの螺旋力のせいで目立ってるのね。大鳳のボスロールだもんな。くすん。
「神宮寺さんはすごく美人だから……みんなから聖浄の紫の君って呼ばれてるし」
「えっ、紫の…なに?」
桔梗ちゃんは意味が分からず目をパチクリさせてる。そんな仕草も可愛く見えるのよね。
それにしても、何故に桔梗ちゃんが紫の君?……って、ははーん、なるほどね、光源氏の紫の上か。
青紫色の花の桔梗にかけたのか。桔梗ちゃん、三つ指ついて三歩下がって陰に日向に尽くしますって、大和撫子な慎ましい見た目だもんね。
中身は真逆だけど。
はげしーもんなー。
だけど、そっかー。
桔梗ちゃんが紫の上かぁ。
「神宮寺様が紫の君なら、さしずめ私は明石の君ですわね」
「えっ!?」
なによ、その『えっ!?』は。
「もしかして、私には何か良からぬ異名がつけられておりますの?」
途端に菫ちゃんの目がキョドキョドと泳ぎ出す。
ああ、そうだった。私、ボスロールだったわぁ。
「えーと、その……大鳳の則天麗子?」
武則天ですか!
もっと酷い!?
日本では則天武后で馴染みのある中国唯一の女帝。そう言われると悪くない気がするでしょ?
でもね、この人、妲己、呂后に並ぶ世紀の大悪女なのよ。
しかも、ブコウとレイコを掛け合わせたダジャレですか。
「わ、私はそんな失礼な名前で呼んでいませんから」
「ですが、ボスロールとはおっしゃっておられましたわよね」
私の指摘に菫ちゃんがあわあわしてる。見た目、しっかり者の優等生なのに、けっこう抜けてるわね。
「別に怒ってはおりませんわ」
「ほ、ほんとですか?」
「ええ、もちろんですわ」
私は余裕のよっちゃんでにっこり微笑む。
大鳳じゃ、ドリル大魔神だのコロネの悪夢だの言われてきとるかんな。今さらボスロールくらい……やっぱり腹立つわね。
「ですが、みなさんの心ない発言に、私、とても傷つきましたの」
片手を頬に当て、ちょい表情を暗くして意気消沈してみせた。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」
あらあら、菫ちゃんが真っ青になっちゃった。
いや、私は別にいじめてるわけじゃないのよ。ホントよ。
だから、周囲の男子、そんな非難する目を向けてくんな!
「頭を上げてくださいませ」
ちょっと、やめてよね。
私への風当たりが強くなっちゃうじゃん……でも、これならアレが実行できるんじゃない?
「先ほども申しましたが、謝る必要はございませんわ」
「ほんとにほんと?」
「ええ……とは言え、これからはきちんと名前で呼んでいただきたいですわ」
「はい、それはもちろんです」
菫ちゃんがホッとした顔になる――ニヤッ。
「それではこれからよろしくお願い致しますわ」
「は、はい、よろしくお願いします……清涼院様」
「ふふっ、麗子で良いですわよ」
「えっ、あの……それでは、麗子様?」
ふっふっふ、こうやって名前を呼び合えば、親近感が湧くってもんよね。これならきっと、菫ちゃんとすぐに仲良くなれるわ。
もっと、踏み込んじゃいましょう。
「『様』もいりませんわ……私達、お友達でしょ?」
「えっ、お友達?」
なんですか? 私と友達になるのがそんなに不満?
私がちょっと不満顔をすれば、菫ちゃんがダラダラ汗を流し始めた。どうしたん?
「あっ、いえ、そうですね……麗子さん?」
惜しい、もう一押し!
「ふふっ、違いますわよ――菫ちゃん」
「えっ、違う?……それに……あっ、えーと、麗子……ちゃん?」
やっふー!
やっと友達と『ちゃん』付けで呼び合えた。麗子、大歓喜!
あー、思えば今まで、心の中でしかちゃん付けできなかったもんねー。菫ちゃん、もう一生離しまへんでぇ。
「嬉しいですわ。菫ちゃんとは仲良くしたいと思っておりましたの」
「私も……その、嬉しいです。麗子ちゃん、思っていたより気さくで……ふふっ、噂と違って楽しい人ですね」
おお、菫ちゃんが笑ってくれた。
これから私と仲良くしてくれろ。
えっ、オッケーって?
やったー友達ゲット!
いやぁ、念願が成就したわ。
いい夢、見せてもらったぜ。
とっても良いことありそうだ――そんな風に私が浮かれてたら、反対に桔梗ちゃんがむすっとして口を尖らせた。
「なぁに、麗子だけ?」
ちょっと、桔梗ちゃんまで許可してないんだけど。しかも呼び捨てだし。急にやさぐれてどうしたん?
はっは〜ん、さてはヤキモチね。
私が菫ちゃんと仲良くなったのが面白くないんだわ。菫ちゃんに私を取られるって思ったのね。ふふっ、桔梗ちゃんったら、もー、か〜わ〜い〜い〜。
「私も名前で呼んで欲しいんですけど」
もう、仕方ないなー。
「もちろんよろしくってよ、桔梗ちゃん」
「なによ麗子、馴れ馴れしいわね」
酷い!?
そっちは呼び捨てのくせに!……ツンデレね。なんてツンデレなの!?




