第123話 麗子様は念願のズッ友を得る。
この夏休み、私は塾に通っている。
これも全て悪役お嬢様を脱却すべく、良好な成績を収めるためだ。なんせマンガの清涼院麗子はチート能力を生かしきれず成績が振るわない問題児やったからな。
我は品行方正な優等生お嬢様として、みなの尊敬を一身に集めるぞい。
だから、決して友達が欲しいとか、彼氏ができちゃうかもなんて邪な気持ちはないぞ。我は純粋に勉学に励むためにここへ来ておるのじゃ。
さあ、今日も勉強、勉強。
「あら、あそこにおられるのは……」
先日の日々矢学園の眼鏡っ子ではありませんか。ここは是が非でも挨拶に行かねば。これはあくまでもTPOをわきまえた行動よ。なんせ我の前世はアラサー会社員やったからな。
決してあの子と友達になりたいなぁ、なんて思ってないんだからね。
「こんにちは」
「はい、こんにち――ひっ!?」
振り返った眼鏡子ちゃんが急に顔を引き攣らせたけど。どうしたん?
「あなた、えーと……」
……あれ? この子の名前なんだっけ?
まさか、眼鏡っ子とかじゃないわよね?
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい!」
ガタガタ震えて真っ青になってるわ。体調が悪いのかしら。麗子、とっても心配。
はいはい、分かってるわよ。
ふーんだ。どーせ、私が恐がられてるんでしょ。
「お邪魔のようですわね」
それではごきげんようって退散したら、眼鏡子ちゃんがあからさまに安堵しとるのが見えた。
うーむ、すっかり怯えられてしまっとる。
ホントは仲良くなりたいんだけどなぁ。せっかくカントリームシューのキャラまみれ買ってきたのに。
これはしっとりサックリのカントリームシューをキャラメルコーティングした期間限定品よ。彼女ならこれで釣れ……じゃなかった、気に入ってくれると思ったのよね。
仕方ない。眼鏡子ちゃんの隣に座るのは断念。これ以上、恐がられてもねぇ。
さて、どこに座ろうかしら――って、どうしてみんな目を逸らす!
「何をやってるのよ」
席を探してボッチ難民になってたら、桔梗ちゃんから手を掴まれた。
わーん、桔梗ちゃん、心の友よ。
ストーカー気質の桔梗ちゃんでも、こんなボッチ難民を受け入れてくれるなら素直に嬉しい。
桔梗ちゃん、これからズッ友だよ。
「さあ、行くわよ」
「えっ、行くって、いったいどちらに?」
ちょっと桔梗ちゃん、そんなにグイグイ引っ張らないでぇ。
いったい私をどこへ連れて行くつもり?
はっ、そう言えば!?
聖浄学園は先輩を『お姉様』と呼ぶ慣わしのある百合系お嬢様神学校。桔梗ちゃんはそこの生徒だったわ。
ってことは……桔梗ちゃん、私と友達以上の関係を望んでいたのね。
でもでも、私にはソッチの気はないのよ。普通に男子にときめくノーマルなのよ。私の想い人はお兄様だけなのよ。
あゝ、でもでも、桔梗ちゃんみたいな超美少女だったらありかも。こうやって私も禁断の花園に染まっていくのね。
「ほら、清涼院さんはそっち側に座って」
「「えっ!?」」
私と日々矢の眼鏡子ちゃんの声が重なる。
そう、桔梗ちゃんに連行された場所は秘密の花園ではなく、日々矢の眼鏡子ちゃんの席。
眼鏡子ちゃんの目が私達を見て大きく見開かれた。「なぜここに?」と顔が驚きと絶望に染まってる。
そんな命乞いするような目で見ないで。
私にも何がなんだか分かんないのよぉ。
「ど、ど、どういうことですの?」
まさか、私だけじゃなくて眼鏡子ちゃんまで!?
それって、三人百合ですか?
ダメよ、ダメダメ。百合はとっても尊いの。
二人の絆をしっかり結ばないといけないわ。
それなのに桔梗ちゃんったら、私と眼鏡子ちゃん二人纏めて手篭めにしようなんて。
「あなた、最近ずっと彼女のこと気にしてたじゃない」
んっ、そんな素振り見せてた?
「友達になりたかったんでしょ」
「い、いえ、決してそのようなことは……」
「バレバレなのよ」
えっ、そんなに分かりやすかったですか?
「それなのにウジウジして、見ててイライラするのよ。こういうのはガーッと勢いで行けばいいのよ」
「あのぉ、私は神宮寺様のようには……」
「そうやって、もだもだしてたって仲良くなれないわよ」
そりゃそうかもだけどさー。我は桔梗ちゃんのような猪突猛進タイプじゃないねん。とっても奥ゆかしいねん。
「まったく、清涼院さんって私がついてないとダメね」
もしかして、眼鏡子ちゃんとの仲を取り持ってくれるの?
「あなた日々矢学園の神薙菫さんよね?」
「な、なぜ私の名前を!?」
眼鏡子ちゃんの名前は菫ちゃんっていうのかぁ。ふむふむ、綺麗で可愛い名前じゃ。眼鏡子ちゃんにピッタリ。
だけど桔梗ちゃん……もしかして、私のためにわざわざリサーチしてくれたの?
なんか桔梗ちゃんって、私のこと良く見てるし、けっこうお節介するし……ねぇ、桔梗ちゃん、ホントは私のこと好きでしょ?
「それじゃあ、私はこっちに座るから」
「ど、ど、どうして私が真ん中!?」
私と桔梗ちゃんに挟まれ、菫ちゃんがオタオタする。ちょっと可哀想だけど許してね。
あっ、お近づきの印にカントリームシューのキャラまみれ食べる?
あらあら、菫ちゃんの目がパァッと輝いたわ。渡したらリスみたいにちょこちょこ食べ始めちゃった。ふふっ、「あま〜い」って幸せそうな笑顔しちゃって。
さっきまで死にそうな顔してたのにね。
「これからよろしくお願いしますわ、神薙菫さん」
「えっ!?」
今さらそんな悲壮な顔しても遅いねん。
それ食べたからにはもう離しまへんでぇ。
んばば!きょうからお前も友達だ。




