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麗子様は好き勝手に生きてやる!  作者: 古芭白あきら
第4章 中等部のみぎり

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第113話 麗子様は大きなお鼻の騎士にストーカーされる。


「見損なったぞ、清涼院!」


 毎度毎度、見境なしに噛みつきおって、このダボハゼがぁ!——って怒鳴り散らしたい。けど、私は我慢の子。ここはグッと耐えて優雅に気高く……


「いくら成績が落ちたからって八つ当たりはみっともないぞ」

「こんダボハゼがぁ!」


 あっ、いかん。思わず本音が。


「なんだって?」

「ちょっとお待ちくださいと申し上げたのですわ」

「少し違うように聞こえたが?」


 なんだその疑いの目は。滝川のくせに生意気な。


「私はみなさまが暴徒と化しそうになっていたので、お諌めしていただけですわ」

「うん、暴徒だと?」


 なに不思議そうにしてんねん。いるやろが、凶暴なお前の追っかけが……って、誰もいない!?


 ひでぇ、あいつら逃げやがったよ。滝川の不興(ふきょう)を買いたくなくて、ぜんぶ私に押し付けやがったな。


「とにかく、私はそんな不埒なマネをしたりしませんわ」

「本当か?」


 おい、疑ってんじゃねぇぞ。テストで勝ってたのに美術の評価のせいで後塵を拝したからとテメェらを攻撃したことが一度でもあったか?


 そりゃ、心の中では攻撃しまくってたけどさ。


「私、そんなに暇ではありませんの」


 だけど、我はちゃんと塾に通って精進しておる。桔梗ちゃんに邪魔されてっけど。あー、桔梗ちゃんをなんとかせにゃいかんなぁ。


「それじゃあ、いったい誰が煽動していたんだ?」

「誰かがではなく、滝川様の順位を抜いた方に自然とみなさまのヘイトが集まっただけですわ」

「意味が分からん。どうして俺の成績に関係のない奴らが憤る?」


 テメェがきちんと自分のファンを教育してねぇからだろーが。早見はきちんとコントロールしとるぞ。


「滝川様はもう少しご自分の影響力を認識なさった方がよろしいのではありませんの?」

「それに関しては清涼院に言われたくないぞ」


 なにをワケワカメな妄言を吐いとる。滝川ファンと言えば過激派、過激派と言えば滝川ファンだが、我にそんな危ねぇファンはいないぞ……いないわよね?


 あー、なんか不安になってきた。思い返せば楓ちゃんや椿ちゃんはちょっと過激派かもしれん。


「あはは、そこは二人とも同類だよね」


 互いに譲らず滝川と睨み合っていたら茶々が入った。誰かなどと言わずもがな。出たな腹黒眼鏡。ホントどこにでも現れるな。


「和也も清涼院さんもこんなとこでケンカしてたら他の生徒の迷惑になるよ」


 確かに周りを見たら、みんな怯えとる。


「まったく、滝川様が怒鳴り散らされるからですわ」

「みんな清涼院を怖がっているんだろ」

「私は滝川様と違い人畜無害な小動物でしてよ」

「どんな猛獣より恐ろしいお前のどこが小動物だ」

「獰猛で凶暴な滝川様に言われたくありませんわ」

「ふざけるな。気高い獅子のように猛々しいと言え」


 何が気高き獅子だ。気性の荒いピットブルのくせにずうずうしい。


「うん、二人とも鏡を見ようね。みんなからしたら、どっちも恐ろしい怪獣だからね」


 テメェ、腹黒眼鏡、こーんな愛くるしい美少女をピットブルと一緒にすんなし。


「それで、和也と清涼院さんはいったい何をいがみ合っていたの?」

「こいつだ」

「和也が抜かれたんだね」


 滝川が指差す成績表の一番上を見て、早見がへぇっと感心した。


白野(しろの)鈴寿(れいじゅ)?……初めて聞く名前だね」


 ふんっ、気にしてない風を装っても、不動の一位と二位から転落して心中穏やかではあるまい。けけけ、ザマァ!


 えっ、お前はもっと落ちただろって?


 だからだよ。自分だけ落ちるのイヤじゃん。シラノ君とやら、よくぞ魔王と堕天使を倒してくれた。我から表彰状や、あんたはエライ!


「その彼がどうかした?」

「清涼院が女子生徒を煽動してこいつに集団リンチを加えようとしていたんだ」

「だから、それは事実無根であると申し上げているではありませんか」


 ふざけんな!


 シラノ君は魔王と堕天使を打ち倒し、囚われの美しき姫(我)を救った勇者ぞ。恩を仇で返すようなマネはせん。


「むしろ私はお止めしていた側ですわよ」

「では、誰が騒いでいたと言うんだ」

「そんなの滝川様の追っかけしかいないではありませんか」


 あー、やりそうって早見もボソッと。ほらほらぁ、あんたの親友も同じ意見やぞ。


「どうしてあいつらが?」

「それがお分かりにならないから、滝川様は人心を掌握できないのです」

「別にあんな女ども、どうだっていいだろ」


 だからお前はアホなのだ!


 テメェは滝川グループの次期総帥やろうがい。少しは人心をコントロールする術を覚えろよ。


「まあ、あいつらが暴走した可能性もあるな」


 それしかねぇだろ。


「だが、清涼院が煽動した可能性も否定できまい」

「清涼院さんがそんな不条理なマネをしないことは和也にも分かってるでしょ?」


 滝川はむっとしたが、早見に諌められてしぶしぶながら引き下がった。が、あれはまだ私を疑っておるな。


「ごめんね、清涼院さん」


 早見が謝りながら滝川をドナドナしていく。その時、ブツブツ「俺はまだ完全には信じんぞ」って滝川は文句を垂れ流しておった。やっぱりな。


 ちっ、いつも我に泣きつくのび太のくせに生意気だぞー。だがまあ、滝川とは距離を置きたいし、嫌われても別にどーでもいいが。むしろ、嫌ってくれ。そして、もう我に近づいてくんな。


「あっ、今度の週末はよろしくね。僕も水面(みなも)も楽しみにしてるから」


 あっ、こらっ、こんなとこでトップシークレットを大声でバラすなや。ほらぁ、噂好きな連中が目をギラギラさせてんじゃん。


 みんなー、誤解すんなよー。早見ママのお呼ばれで料理教室行くだけだかんなー。我の目的はあくまでも料理作りと天使ちゃんズだから。そこんとこヨロシク。


 くっそー、いくら我が真実を訴えても誰も信じてくれなさそうだ。冤罪なのにー。しかも、信じない筆頭は楓ちゃんと椿ちゃんなんじゃ。


「まあ、麗子様ったら早見様のお宅へ()()行かれるのですか?」

「うふふ、早見様との婚約も秒読みですわねぇ」


 チミタチは我の取り巻きではなかったのかね?


 まさしく獅子身中の虫ではないか。これは仏教のように取り巻きども戒律で縛り付けねばならないかもしれん。


 まったく、どいつもこいつも……ん?


 なんだろう……どうにもねっとりした視線を感じるけど。


「麗子様、どうなさいましたの?」

「えっ、ええ……先ほどから視線を感じて……」

「まさかストーカーですの?」

「麗子様を脅かす不届者はどこのどいつ!」


 あっ、野次馬女子に混じって男子生徒が一人、こっちをジーッと見てるわ。


「あの方ではありませんの?」

「こらぁ、そこの男子!」


 これこれ楓ちゃん、君は最近少し乱暴になっていやしないかね。ショートの活発女子とはいえ、可愛い女の子なんだから、もっとお淑やかにしような。


 ほら、恐がって男子が逃げちゃったじゃない。けっこう足が速いわね。あっという間に見えなくなっちゃった。


「なんだったのかしら?」

「あの特徴的な顔は……麗子様、あれが定期テストで一位になった白野(しろの)鈴寿(れいじゅ)ですわぁ」

「あれが滝川様の順位を落とした極悪人なの?」


 滝川抜くのは犯罪かよ。楓ちゃんは滝川ファンだったわね。やっぱ過激派ばっかやな。


「楓さん、滝川様を追い抜くほどの努力を貶めるものではありませんわ。それは抜かれた滝川様をも貶める行為でしてよ」

「はっ、申し訳ありません、麗子様」


 まあ、楓ちゃんは我の言うことには耳を傾けるだけまだ救いはあるかな。


「それにしても彼がシラノ君ですか」


 成績トップの頭脳、軽快に逃げ去る運動神経、私をストーキングする情熱。


 そしてなにより——


「まるで、シラノ・ド・ベルジュラックですわね」


 シラノ君はとっても大きなお鼻の持ち主でした。


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