第112話 麗子様は大鳳事変に巻き込まれる。
——期末テストの結果で世間を騒がす大事件が起きた。
私の順位が十五位だとーーーーー!!!
一気に転落してしまってるじぇねぇかよ。
これは由々しき事態ぞ。我が清涼院派閥のブランドが失墜しかねん。せっかく大人しくなった藤浪一派が息を吹き返したら面談だ。
だが、塾に通ってまだ一ヶ月。成果を出すにはさすがに時間が足りん。加えて滝川のストーカー桔梗ちゃんに目をつけられ、講義に集中できんかったし。
あれ、ずっと続くんかな。嫌だなぁ。我、とってもデリケートやねん。このままじゃ勉強できず成績がまた落ちちゃう。どげんかせんといかん。
と言っても、誰も私の順位など気にも止めていなんだけどね。私にとって重大事件なんだけど、世間では三面記事にさえならないらしい。
まあ、騒がれてもそれはそれで困る。だけど、誰からも見向きもされないのは、ちょっと寂しい。くすん。
じゃあ、大鳳学園の大事件とはいったい何か?
「見てあれ!?」
「そ、そんな!?」
「信じられませんわ!」
おーおー、騒いどる騒いどる。女子生徒だけがな。
「まさか滝川様が二位で早見様が三位なんて」
「あり得ないわ」
これほど女子が騒ぐほどの大事件。それは上位トップスリーの順位に変動があったのだ。中間テストから滝川と早見が一つずつ順位を落としやがったぜ。ザマァ。
「一位の生徒は誰なの?」
「白野鈴寿?」
「聞いたことない名前ね」
ふむ、シラノとな。我の記憶にもない。君ジャスヒーローの滝川と早見を抑えて一位になるとは大したモブよのぉ。かなり優秀な外部生と見た。
「滝川様と早見様を抜くなんて許せないわ!」
「なんて無礼な男子なの」
「外部生のくせに生意気よ」
これこれ君達、そんな理不尽な。ほら、周囲の男子生徒達が怯えておるではないか。
「こうなったら説教ですわ!」
「ええ、みんなで囲んで分からせてやりましょう」
「賛成!」
こりゃいかん。滝川ファンは過激派やからなぁ。ただでさえ群集心理が働いてるし、コイツらマジでやりかねんぞ。我には関係ないんやが、見て見ぬフリもできんか。
ふぅ、仕方ないなぁ。
「みなさま、何をそんなに騒いでいらっしゃるの?」
「「「麗子様!?」」」
そろってグルンッて、恐ッ!
一斉にこっち見んといて。何人いるねん。えーと、ひい、ふう、みい、たくさん。十人以上いるわよ。こんな狂人集団に囲まれたら男子生徒でなくとも恐ぇわ。
「良いところへ来られるましたわ」
「この順位表をご覧になって」
「滝川様と早見様を追い抜いた不心得者が現れましたのよ」
ピーチクパーチクうるさい。
不心得者はお前らの方じゃ。
「私達、これからこの者に天誅を下しに参りますの」
「麗子様も是非ご一緒してくださいませ」
ふ・ざ・け・ん・な!
そんなアホなことに我を巻き込むなや。だが、こいつら手がつけられんくらいヒートアップしとるな。下手を打つと我がこのアホな魔女狩りの首謀者にされかねん。
ここは抜くか?
抜いちゃうか?
我が伝家の宝刀を——バシンッ!
「「「ヒッ!」」
一瞬にしてシーン。辺りが静寂に包まれる。さすが、清涼院印の扇子。威力が違う。ウヘヘヘ、この前、新調したから抜きたくてウズウズしてたねん。
しかもこれって江戸扇子なのよ。それも完全フルオーダーの判じ物。
先月のパーティーで落語家の師匠と意気投合しちゃったの。その時、師匠の持ってた扇子を見て『京扇子の花鳥風月のような雅さも素敵ですが、江戸扇子の判じ物は江戸っ子の心意気を感じますわ』って言ったら、『その若さで判じ物を存じているとは粋でげすな』って返され、江戸扇子の職人さんを紹介してくれたの。
で、私をイメージした判じ物を一から作ることになったってわけ。
その判じ物が……これじゃ!
見て見てこの扇子。
黒い紙面に金粉を散りばめ星空のイメージ。そこに満開の桜を描いてもらい、真ん中には『神』と書いてもらったの。
桜みたく可愛く、星のように儚くも神々しい美しさ。まさしく我にぴったりの意匠よね。そして、それらを並べると『神星桜花』、つまり『人生謳歌』になるってわけ。
ねっ、好き勝手に生きてやるつもりの私ならではの判じ物よ。
私はそんな扇子を持つに相応しい女よ。大勢で寄ってたかって一人の男子生徒をイジメるようなマネするわけないじゃん。それじゃ人生謳歌じゃなくて人生の汚点になっちゃうわよ。
「大鳳の生徒がそれしきで騒いでみっともない」
「お言葉ですが滝川様と早見様は大鳳の象徴とも言うべき方々」
「そうです、ぽっと出の外部生が追い抜くなどあってはならないこと」
「これは大鳳の矜持に関わる由々しき事態ですわ」
なんでやねん。初等部から上がってきた内進生と違って、外部生は能力を買われて入学しとんぞ。むしろ、外部生の方が負けることを許されとらんやろ。
「たかだか、定期試験の順位ごときで傷つくほど、大鳳の矜持は安くありませんわよ」
だいたい、お前ら全員圏外やんけ。大鳳の矜持うんぬん言うなら、まずテメェらの成績をなんとかせえ。
「ですが、やはり悔しいです」
「ええ、残念でなりません」
「麗子様は口惜しいとは思われないのですか?」
なんで? 麗子、とってもハッピー。
うけけけけ、我だけ順位が落ちるのは不公平やと思っておったんじゃ。滝川に早見め、これで我の苦しみを思い知ったか。
「いいえ、むしろ今まで上位をキープしていた滝川様と早見様に優った業績に敬意を表したいですわ」
まったく、彼の偉業を誰も褒め讃えんとは嘆かわしい。偉いぞシラノとやら。これからも精進して、あの二人を打ち負かしてくれ。
「きっと、並々ならぬ努力をされたに違いありません」
しかし、超タカ派の滝川ファンに理屈は通じまい。
「きっと滝川様や早見様も同じ意見だと思いますわよ」
「えっ、滝川様も?」
「ここで成績を抜かれたからと勝者を辱しめるのは、敗者の努力をも辱しめる行いであるとお気づきになられませんの?」
しれっと滝川、早見を敗者扱いできて気持ち良い!
「きっと、滝川様も矜持を傷つけられたとお嘆きになられますわ」
「私どもは決して滝川様を貶めるつもりはありません」
こいつら急にオドオドしよった。ふんっ、日和おって。こいつらには万の理屈より『滝川』という単語一つで十分。
「ならばさっさと解散して……」
「不穏な煽動をしている連中がいるというのはここか!」
私が追い払おうとしたところに、ちょうど噂の滝川登場。なんだかとってもお怒りのご様子です。
「外部生だからと一番を取った者を迫害しようとしている不届き者はどいつだ!」
そんなに怒り狂ってたら誰も名乗りを上げるわけないでしょうに。ホント、しょうがないなぁ。
「それなら私が……」
「清涼院、お前が首謀者か!」
なんでそーなるの!?




