第110話 麗子様は友人補完計画を始動する。
我は中学デビューに失敗した。
さらに藤浪さんとの仁義なき争いの果てに、私は女王様の如き存在だって大鳳学園に広まってしまったし。初等部から上がってきた内進生だけではなく、外部生からも恐怖の大王か何かと勘違いされてしまったではないか。
なんでだー!
「やべぇよやべぇよ、清涼院さんが来たぞ!」
「藤浪一派みたく潰されたくなければ早く道を開けるんだ」
「したーにー、したーにー」
おい、我ただ廊下を歩いてるだけやろ。なして、みんなサッと両脇に避けるんよ。首を垂れんのやめれ。
これは大名行列ですか、財前教授の総回診ですか。あたしゃ聖帝様じゃないねん。別に汚物を消毒したりしないから。お願いだから、みんな顔を上げてフツーに話してよー。
くっそー、もう学園でまともな人間関係を築くのは不可能なんじゃねぇの。私を待っているんは真っ黒な青春だけなのか。
いや、まだだ、まだ終わらんよ!
私にはまだ希望が残されている!
それは塾よ。
もちろん塾へ通う目的は成績向上ではある。だけど、塾には他校の生徒も集まると聞く。これは来るぞぉ。大鳳学園で叶わなかった我が野望——友達補完計画!
ぐへへへ、イケメン彼氏とかもできちゃったりするかも。
大鳳学園には失望した。もう期待することもあるまい。これからは塾こそが我の聖域。ああ、全てはこれからだ。
さて、お兄様が紹介してくれた塾だけど、ここは個人ごとの能力に合わせて各教科の講義を割り振ってくれるの。しかも、講師陣も充実していてサイコーの環境なんだって。だから、色んな進学校の生徒が集まるらしいのよ。
他校の生徒なら私のことなんて知らないだろーし、優秀で真面目な生徒が集まってるから問題児もいないはず。これは期待大だわ。ワクワク。
さっそく宇喜田さんに送ってもらって塾までゴー。玄関前で降りて背筋を伸ばして颯爽と塾の中へ。なんと言っても最初が肝心だかんな。
人の第一印象は出会いの数秒で決する。それも視覚情報がほとんどだ。さあ、みなの者、この美少女に見惚れるが良い。
「おい、見ろよ」
「なんだあの子は?」
「すっげぇ」
ふっふっふ、周囲の視線が熱いわ。
私には聞こえる——「あんな美少女見たことない」「告白しちゃおうかな?」「おい、俺が先だ」「ばーか、お前らじゃムリムリ、俺くらいじゃないとな」なーんて噂してんのね。
あゝ、私のために争わないで。
「乗ってたの超高級車じゃん」
「それより髪どんだけ巻き巻きなんだよ」
「くっ、凄まじい螺旋力だ」
「あの制服、大鳳じゃないか?」
「あの超エリート校の?」
「これは近づかない方がいいな」
なんですってー!!
あっ、こらっ、目を逸らすんじゃねぇ。これじゃ大鳳と変わんないじゃん。
くすん、いいもん、いいもん。塾は勉強するところよ。友達とか彼氏とか浮かれてんじゃねぇ。リア充どもが。イチャコライチャコラと、塾に何しに来てんねん。ここは学舎やぞ。勉強しろ。勉強を。
孤独がなんだ。友達も彼氏も勉強には邪魔なだけよ。ぐすん、ひっくひっく。うっうっうっ、何故なの、黒板の文字が霞んでよく見えないわ。
まあ、色々あったけど、この塾は当初の目的である学力向上にはもってこいみたいね。講義は分かりやすいし、生徒もみんなレベルが高そう。さすがお兄様が推薦する塾ね。これは私も負けてらんないわ。
さーて、一限終了っと。次の講義まで休憩時間か。ちょっと間があるわね。ここは腹ごしらえでもしようかしら。外のコンビニへ行ってお菓子を買ってきましょう。
えへへ、この日この時の為の私はバザーでマネーロンダリングをコツコツやってきたんだから。軍資金はバッチリよ。
「あなたが清涼院麗子さん?」
誰じゃ、我の買い食いという野望を邪魔するヤツは。
「ええ、そうですが、あなたはどちら様ですの?」
うわぁ、すっごい美少女じゃん。クラスが同じってことは同い年かな?
髪なんて腰まで届きそうなくらい長いし。サラッサラだし。ちょっとキツイけど、めっちゃ整った小顔だし。なんか日本舞踊とかをやっていそうな清楚可憐な和風美人さんよ。
背筋もシャンってしていて、まさに立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花。いるのねぇ、こんな子。
「私は神宮寺桔梗と申します」
桔梗ちゃんっていうのか。挨拶もビシッとして折り目正しい感じだけど……なーんか少しトゲがない?
怒ってるのかしら。うーん、初対面のはずだけど。なんか恨まれるようなことしたかなぁ。彼女の制服って、超お嬢様神学校の聖浄学園よね。接点はなさそうなんだけどなぁ。
聖浄学園と言えば、先日お会いした松戸乃志乃様や我が又従姉様の久世美春様や妹の夏凛様がいるところよねぇ。
はっ、まさか我が又従姉妹が何かやらかした!?
その苦情を私に言いに来たのかも。あの二人ならあり得る。
「もしや、私の親戚が何かご無礼でも?」
「親戚?」
「聖浄学園には又従姉弟の久世美春様と夏凛様がおりますの」
「ああ、久世さん」
得心したように頷く桔梗ちゃん……やっぱりか。
「確かに久世さんは色々と騒がしいけど、あんなの大したことはないわ」
うーむ、確かにこの子、大物感が漂ってるもんなぁ。久世姉妹ごとき小者では相手にならんのか。
「それでは志乃様でしょうか?」
「志乃様って……まさか松戸乃先輩?」
私が頷くと、桔梗ちゃんがうへぇっと嫌そうに顔を歪めた。
「松戸乃先輩とも知り合いなの?」
「私の兄に婚約を断られて以来、私がつけ狙われておりますの」
「それは……ご愁傷様」
なんか同情された。その眼差しは完全に憐憫の情が沸いとる。どんだけなの志乃様。
「だけど、松戸乃先輩は四学年上だから私は関わることはないわよ」
ボソッと「関わるつもりもないけど」って、恐い者知らずっぽい桔梗ちゃんでも志乃様は敬遠するのね。やっぱり志乃様って恐ろしい人なのね。やっぱ要注意人物や。
しかしそーなると、いったい何の用事があるんだろ?
はっ、まさか、私と友達になりたいとか?
私みたいな美少女に声をかけるのに緊張しちゃって、ちょっとトゲトゲしくなっちゃってるとか。やーん、桔梗ちゃんのツ・ン・デ・レ♡




