第104話 麗子様はお兄様の闇を知る。
水面ちゃんの誕生パーティーじゃ色んな意味でエライ目にあったぜ。
天使ちゃんハーレムで我モテ期到来かとウハウハ天国だったのに、滝川と早見のせいで天国に地獄じゃった。
しかも、我のクマさんクッキーにはブタの呪いがかけられるし、早見ママの奸計にハマってもうたし。近いうちに早見ママから料理教室の誘いがくるだろう。
えーっ、やだなー、もう。
だが、約束してしまったもんはしょーがない。天使ちゃん一号と二号が試食に来てくれるのだけを楽しみに生きていこう。だけど、堕天使のオマケつきなんだよなー。唯一の救いはスイーツじゃないから滝川が興味を示さなかったことか。
あゝ、気が重い。
そして、悪い事ってーのは連鎖するもんらしい。
六月上旬といえば間もなく梅雨入り。我の最強ドリルも湿気に負けて元気がない。アンニュイじゃ。
だが、我の気分が沈んでいるのはそれが原因ではない。むしろ、縦巻きロールがくったりして艶っぽいんじゃねって内心では浮かれていた。まあ、そっこーでお母様に美容院に連れられガッチリ巻き巻きにされたけど。クスン。
さて、それでは私が何に憂鬱となってるかってーと、この時期には小学生にはなく中学生から始まるイベントがあるのじゃ。
それは中間試験の成績発表。
「うそ……ですわよね」
五月末にあった中間試験。その結果が本日貼り出されたのだが、なんと私の順位は九位だった。
バカな!
絶対記憶保持者の我が順位を落としただと。しかも、ただの九位ではない。
中学生になって美術の成績は順位に加味されなくなっている。そう、これさえ無ければ小学生では学年トップ間違いなしだった、あの憎っくき美術がないにも関わらずなのだ。
それによく見れば十位から二十位までほとんど点差が無い。あと一、二問間違えていたら私は二十位以下に転落してただろう。
どうしてこんな事態に陥ったのか、それについては既に分かっている。三位から八位までと十位から二十位まで初等部では見なかった名前であることからも原因は明白だ。
恐るべし外部生。
難関入試を越えてきた猛者だけのことはある。ちなみに一位と二位の見知った名前なのだが……
「まあ、滝川様が一位で早見様が二位だわ」
「秀才揃いの外部生をねじ伏せるなんてさすがねぇ」
ドチクショー!
なんでアイツらは化け物ばっかの外部生に勝てるんや。初等部の時は私の方が成績よかったのに。
「麗子様も九位なんて凄いです」
「おほほほ、大したことはありませんわ」
あまり成績などこだわっていない風を装い余裕のよっちゃんよと嘯く。ホントは血の涙が流れるくらい悔しいけど。
「今年の外部生四十名は例年より粒揃いとの噂ですのに」
「あら、そうなんですの?」
ホントは知ってた。戦々恐々として猛勉強したんよ。これでも。だけど、中学ともなれば数学や理科の難易度が一気に上がるんよ。やっぱ記憶力だけに頼るのは無理があった。
くっ、四十位以下に落ちる日も近いやもしれぬ。しかも、高等部では更に優秀な外部生が追加されるときたもんだ。
このままでは二十歳どころか十五歳を過ぎる前に我はただの人と化すぞ。そうなれば初等部で築き上げた我の地位が失墜しかねん。
清涼院家というバックグラウンドと容姿端麗、成績優秀、品行方正のイメージ戦略により大鳳学園の女王として君臨してきた。その権威あればこそ誰からも後ろ指を指されず好き勝手やってこれた自覚はある。
だがここで、実は中身がただの残念腐女子だとバレれば、我が砂上の城郭は脆くも崩れ去るだろう。やべぇ、悪役お嬢様としての末路が待ってるかも。
いぃぃぃやぁぁぁ!
楓ちゃん、椿ちゃん、そうなっても私を見捨てないわよね。私達ズッ友だよね。いや、ダメだ。この二人ってマンガでは失墜した麗子を真っ先に裏切るんだった。
どけんかせんといかん!
他力本願はいかんのじゃ。なんとか自力でこの危機を脱しなけれなならない。さて、どうしたものか。
我とて手をこまねいて座視していたわけではないぞ。私は勉強してませーんってアピールして優雅なお嬢様ライフを送っているように見せて実は裏でコソ勉に余念がなかった。
——ただ見れば何の苦もなき水鳥の足に暇なき我が思いかな
かの水戸のご老公様の歌じゃ。みなに羨まれる天下の副将軍も、さぞかし水面下でご苦労なさったに違いない。
ふよふよ浮かんでのんびり過ごしているように見えて、水鳥は水面下で必死にバタバタさせてるもんなんよ。
超お嬢様である私だって努力している姿なぞ微塵も表に出してはならんのじゃ。あくまでエレガント。だって、そっちの方がカッコいいじゃん。
つまり、この成績は勉強していての結果なのだ。これ以上は時間を捻出できん。必死な姿は晒せぬ以上、学校で勉強するわけにはいかんし。
誰にも私の努力はバレてはいかん、当然、成績のことを他人に相談するなどもってのほか。頼れるのは己の力のみ。
くっ、うつ手なし。八方塞がりじゃ。
かくなる上は。
すぐさま帰宅。
「お兄様ぁ〜!」
「ん? どうしたんだい麗子?」
助けてお兄様えもん〜。外部生っていう黒船が来航して私の立場を脅かすの〜。なぬっ、他力本願はいかん、他人の手は借りんと言ってたじゃないかって?
バカめ、お兄様と私は愛し合う兄妹。言わば一心同体の関係。他人じゃないから無問題なのよ。
さあさあさあ、お兄様、なんぞ秘密兵器を出してあなたの愛する妹を救ってくださいませ。
「うーん、成績が落ちたと言うけれど、優秀な外部生が入ってきて順位が落ちただけだろ?」
隣に座るお兄様ににじり寄ったら頭を撫でられた。イヤン、お兄様ったら。もう、麗子はお兄様とずっとイチャイチャしたいですぅ。
「麗子はよく頑張っていると思うよ。成績はむしろ良すぎるくらいさ」
「ですが、初等部では同じくらいだった滝川様や早見様と水を空けられ麗子は悔しいのです」
「うーん、僕は二人よりも麗子は優秀だと思うけど?」
まっ、お兄様ったら相変わらずシスコン。身内贔屓がすごい。だけど、問題は順位が落ちて清涼院政権に翳りが見えたことなんです。
「麗子の良いところはテストの点じゃ推し量れないし、それは麗子の周囲の友達もちゃんと分かってくれているさ」
いつもいつも麗子の欲しい言葉をくれるお兄様。ですが、今回ばかりは説得力がありません。麗子は知っておりますよ。
お兄様、あなたは初等部に入学してから高等部の今に至るまで一度も一位から転落したことありませんよね?
「私も清涼院の娘として恥ずかしくない成績を取りたいのですわ」
「麗子、もしかして誰かに中傷されたのかい?」
急にお兄様の表情が険しくなる。どうしたんですか、そんなに恐い顔して。
「麗子は決して恥ずかしくなんかない。むしろ自慢の妹だよ。それは父さんや母さんも同じ気持ちだから」
えっ、いきなり嬉し恥ずかしな告白なんて。イヤン、麗子は涙が出るくらい感激ですぅ。
「それで誰が麗子に酷いことを言ったんだい?」
「お兄様?」
あれ、なんかお兄様がどんどん黒くなっていくような?
「僕に教えて。すぐ潰すから」
——ゾクッ!!!
こわっ、こわっ、こわっ!
お兄様、めっちゃ恐いです。いまマジで背筋凍ったんですけどぉ。
「お、お兄様、私は誰かに誹謗や中傷を受けたわけではありませんわ」
「本当かい?」
「もちろんですわ」
目がマジなんですけどぉ。やベぇよやべぇよ。ここでテキトーな名前を上げたら取り返しのつかないことになるわ。
「私はただ素敵なお兄様の隣に立つに相応しい妹になりたいのですわ」
なにやら「麗子は今のままで十分なのに」とお兄様がぶつぶつと。いつの間にお兄様ってこんなにヤンデレになったの?
「まあ、麗子が頑張りたいと言うなら僕は応援するよ」
パッといつもの明るく優しい笑顔に変貌し、お兄様は塾通いを勧めてくれた。
「ここは僕も通っているところでね。講師陣がかなり優秀なんだ」
「お父様やお母様がお許しになってくれますでしょうか?」
あの過保護な両親が塾なんて許してくれるかなぁ?
「そこは僕と一緒に行くからと説得するよ」
「ありがとうございます」
感謝のどさくさに紛れてお兄様に抱きつく。お兄様も微笑んで頭を撫でてくれる。クンカクンカ、お兄様分を補給と。
「ですが、来年からお兄様は大学で塾には通われませんわよね?」
「既成事実さえ作れば後はなし崩しそのまま通えばいいのさ」
さすが腹黒いお兄様。発想が黒いです。
お兄様はさっそくお父様を説得して私の塾行きの権利をもぎ取ってくれた。さすがお兄様、頼りになるぅ。さすおに、さすおに。
だっけど、お兄様の私への愛がこんなに重かったなんてね。これは迂闊にお兄様にちくれんわ。下手したら血の雨が降る。
これからはなるべく自分で解決しよう。




