あまりにも古典的な怪物退治
あるとき、とある王国に一匹の怪物が現れた。その姿はあまりにも大きく醜く、見るだけで身がすくみまともに動けなくなるほどだった。
怪物はそうやって動けなくなった人間を次々に食らい、王国の民を絶望させていた。
そこで国王はあの怪物を退治した者には莫大な報酬と、姫と結婚をする権利を与える、と国中にお触れを出した。
美しい姫と報酬が手に入る。そのことは国中、否、大陸中から腕自慢を呼び寄せることになる。
しかし豪剣を振るう剣士も、神の如きと称えられた魔術師も、その姿は死そのものと言われる暗殺者も、その他どんな戦士も怪物と対峙した者は生きて帰ってはこなかった。
そうして年月が流れ、国中がもはや諦めかけたそのとき、一人の若者が「私こそが怪物を退治しよう」と名乗りを上げる。
それまでに数々の怪物を退治してきた凛々しい若者はまずはじめに鏡のように周りを反射する鎧を作らせた。
これはなにに使うのだ、と聞く人々に若者は答える。
「やつの姿を見ればどんな者でも怯んでしまう。それはおそらくやつの姿そのものになんらかの呪いがかかっているからだ。それならばこの鏡で姿を見せてやれば、その呪いはやつ自身にかかるはずだ」
その隙にやつを殺すのだ、若者のその作戦に人々は感嘆し、これならば本当に怪物を倒せるかもしれない、と希望を見せた。
そして若者は怪物の住処へと向かっていった。
若者が怪物の元へと行ってから一日が過ぎ、一月が過ぎ、季節が一巡りしても若者は戻ってこなかった。しかし同時に怪物も姿を現さなくなった。
そこで国王は決死隊を組織し、怪物の住処を探りに行かせた。するとそこでは怪物と若者、その両者が死体となったいまも向き合ったまま朽ち果てようとしていた。
自らの命と引き換えに怪物を退治した若者を国王は称え、彼の勇姿が、名前が、永遠に残るようにした。
決死隊の隊長は怪物の身体に傷がないことを疑問に思ったが、そんなことは怪物の死の前には些細なことだった。
ときは遡り、若者は自信満々に怪物の前に立ち塞がる。しかし怪物はそんなことは意にも介さずにあっさりと若者を殺してしまった。
そしていつものように人間を食おうと若者の死体を持ち上げたそのとき、彼の鎧に映る自分の姿を目にした。
怪物は初めて見た自分の姿の、そのあまりの美しさに心を奪われ、寝食も忘れてその姿を見ることに没頭してしまい、やがては飢えで死んでしまった。
しかし兎にも角にも若者の知恵により怪物が退治されたのだ。彼の名は永遠に残るに値するのは間違いないだろう。
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