純然たる驕傲編 第八話
著者:雪路よだか 様(ココナラ
企画・原案:mirai(mirama)
おかしい。コウは焦りを感じていた。
これまでコウ一人に集まっていたはずの羨望や尊敬、畏怖の眼差しが、新参者――ジュウとレイの二人にも向くようになったのである。今では、コウよりも、ジュウとレイを慕い、賛える人たちの方が多いほどだ。
その理由が、コウにはどうも理解できなかった。
――あいつらもそこそこの獲物を獲ってくるけど、それでも僕の方が大きい。あいつらが成し遂げることは、僕にもできる。あいつらは二人だけど、僕は一人で。
それに、僕は。僕には、あの朱い石がある。
それなのに、どうして?
「コウさん」
ジュウが人懐こい笑顔を浮かべて近づいてきた。その笑顔が、無性にコウの胃をムカムカさせた。
「今度の祭りですけど、近くにある集落の人たちを呼ぶのはどうでしょう。親交を深めるいい機会です。うちの住民も、過半数が同意してくれています」
コウは奥歯を噛み締めた。
「勝手なことをするな。集落のことは僕が決める」
「ですがコウさん、民たちの意見も聞くべきですよ。集落は、みんなのものです」
「ふざけるな! この集落は僕のものだ!」
コウは声を荒げ、床を思い切り叩いた。ジュウは特に驚く様子も見せず、「そうですか」と呟き立ち上がった。
「僕は、あなたとも手を組みたいですよ。コウさん」
ジュウのまっすぐな瞳を、コウは見つめ返すことができなかった。
いつの間にか、コウの意見は聞き入れられなくなっていった。
ジュウとレイが民たちに意見を聞き、それをもとに集落の統治をすすめていった。コウを見る民たちの視線は冷ややかだ。何人か見せしめに処刑しようとしたが、ジュウとレイを中心とした大人数に激しく抗議され断念せざるを得なかった。
気に入らない。
コウの胸にはどす黒い怒りが渦巻いていた。
どうして彼らの言いなりにならなければならないのか。僕は、僕には――力があるのに。
そうだ、力があるではないか。
コウは早速、ジュウとレイを呼び出した。二人はのこのことやってきた。
「どうしましたか、コウさん」
「ジュウ、レイ。僕は君たちに決闘を申し込む。二人でかかってきてくれて構わない。勝った方が、ここの王だ」
二人は顔を歪め、ゆっくりと首を横に振った。
「それはできません」
「逃げるのか」
「民たちと決めました。武力による解決はしないと。話し合いをしましょう、コウさん」
幼子を宥めるような口調に、コウは苛立ちを抑えきれずに叫んだ。
「それならもう用はない。出ていけ!」
二人はおとなしく出ていった。広い家に、コウは一人きりになった。たくさんいたはずの召使も、気づけば誰一人いなくなっていた。
絶対的な王は、孤独になった。