純然たる驕傲編 第七話
著者:雪路よだか 様(ココナラ
企画・原案:mirai(mirama)
コウが家族を見殺しにしてから数日が過ぎた。
絶対的なリーダーだったコウが名誉欲しさに家族を捨てたという事実は、集落の人々に影を落とし、次第にリーダーへの不信感が広まっていった。
ガクたちは反逆罪に問われ処刑されたが、裁判など必要な過程をすっ飛ばしてのあまりにも早すぎる処刑だったため、疑問視する声も多い。
むろん、口にすれば反逆罪に問われかねないので、誰も言葉にはしなかったのだが。
そんなある日のことだった。
「はじめまして、コウ様。私はジュウと申します。遥か向こうの集落からやってきました」
「俺はレイです。ジュウと同じ集落から来ました。ジュウは相棒です」
ジュウとレイという二人組の青年が集落にやってきた。彼らは遠くの集落にいたのだが、飢饉により集落が潰えてしまい、暮らせる集落を探し旅をしているのだという。旅の途中で栄えている集落があるという話を聞き、コウの集落までやってきたようだ。
コウは仕事をするということを条件に、二人の滞在を認めた。
この決断が、コウの絶対的な立場を脅かすことになる。
「すごいなあ。あんな大物獲ってきたの、コウ様以来じゃないか」
「二人いるとはいえ、すごいよ。俺達じゃ、十人が束になったって敵いやしねえ」
そんな村民たちの会話を聞きつけたコウは、二人組が獲ったという獲物を見に行った。それは立派な肉食獣だった。仕事ぶりも丁寧で、毛皮も角も肉も余すことなく取れそうだ。獲物選びのセンスも抜群と見えて、毛皮は艶があり、死んでいるというのに生気がある。
「やっぱりお前は最高の相棒だよ、レイ。お前の猟銃の腕は一流だ」
「ジュウの観察眼と知識があってこそだ」
互いを讃えあう二人のもとに、子供を抱いた痩せた女性がやってきた。そして、縋るような目で二人を見る。
「あの……以前、ここで食べ物を分けていたと聞いて……。私たちにも、少し分けていただけませんか? この子の分だけでもいいんです。夫も亡くなりましたし、私も病気がちで働けないので、もう三日も何も食べていなくて……」
「なんだって、それは大変だ。少しと言わず、いくらでも持っていってください」
「い、いいんですか?」
「獣はまた獲ればいいですが、あなたの命はひとつきりです。お子さんの分だけでなく、ご自分の分もお取りくださいね」
「あ、ありがとうございます!」
心優しく優秀な二人は、すぐに村民たちの心を掴んでいった。
(許せない。このままだと、あいつらに集落を乗っ取られる)
コウだけがひとり、静かに怒りの炎を燃やしていた。
そうとは知らない二人は、コウにもこんな話を持ちかける。
「コウ様、あなたの狩りの腕は一流だと聞きました。そこでどうでしょう、一度私どもと一緒に狩りに行きませんか? きっと、すごい獲物が獲れると思うのです」
その言葉に、コウの苛立ちはさらに募っていく。彼らの曇りのない瞳、そして言葉は、コウにとってこの上ない侮辱だった。
「ふざけるな!」
コウは差し出された手を力強く振り払った。